世界の色

数年前に僕は後輩を亡くしたんだけれども、彼とは決して浅くない関係だったのでその事実を整理するのにかなりの期間を要した。

彼との思い出は多すぎて一言でまとめることは不可能だが、彼と僕は野球が好きで、よく一緒に草野球をしていた。一緒にゲームをしたことも多いし、鉄道という共通の趣味があったし、彼は古代生物、特に恐竜が好きで、草野球の休憩中にカルカロドントサウルスの話で盛り上がったことは忘れられない。

そして彼が最後に僕に残したTwitterの「草野球、やりましょう」というDMに僕が気づかずに、気づいてやることができずに、彼が逝ってしまったということはとても悔しい。過去を変えたいと思うことは少なくなったが、たとえ彼が死ぬ未来は変えられなかったとしても、彼と草野球をしてやりたかったとだけは今でも思う。

彼が生きていれば今年23歳。僕がもがき苦しんでいた時期とも重なって、もし彼が今生きていたら何を考えていただろうかということは気になった。

彼は歌がうまかった。多分身内補正もかかっているが、とはいえかなりうまい部類で、音楽活動もしていたし、彼とは中高と部活が同じだったのでなんとなくうちの部の誇りみたいなところがあったのだ。決して軽音部などではないのだが。

彼は類まれな音楽の才能があったと僕は思っているが、同時に彼は色覚異常であった。色の判別が困難なのである。

僕が大学に行っていた頃、アフリカには色を二種類の言葉でしか表さない言語があるということを知った。つまりその言語を使っている世界では、色は「明るい」と「暗い」の二種類しか存在しないということだ。かといってその言語を話す人々全員が色を認識できないわけではなく、認識していても区別はしていないということなのだ。

そんな話を彼にした時、彼は「僕もその世界に生まれたかったっすねえ」と、目を輝かせていた。

世界に二色しかない状況で彼は何を歌っただろうか。

地元での人間関係を絶って久しいが、定期的に彼が今眠る場所には行くことにしている。名前も別に書くこともなく、深夜にただ1人で彼の安寧を願うばかりである。

僕は負けない。彼のために生きるのだ。彼が戦えなかった分も僕が戦わなきゃいけないんだ。

その決意を新たにした。

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