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安い株価の会社は要らない(株価重視の経営)


玉石混交の上場企業

2022年4月、東京証券取引所は上場市場の区分を、従来の一部、二部、マザーズ、JASDAQの4つの市場から、プライム、スタンダード、グロースの3市場に変更しました
その理由は、各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとっての利便性が低いということと、当時の市場区分では、上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていなかったからです
 
たとえば、東証一部はトヨタやSONYのようなエスタブリッシュな大企業から、時価総額が100億円程度の中小型企業まで玉石混交でしたし、比較的小型の企業の多い東証二部やマザーズ、JASDAQについては、それぞれのコンセプトが曖昧でした
 
また、上場企業への動機づけとしても、新規上場基準よりも上場廃止基準が大幅に低いなど、上場後も新規上場時の水準を維持する動機付けにならないことや、他の市場(例えばマザーズ)から東証一部に移る際の基準が、一部に新規上場する基準よりも緩和されているため、上場後に積極的な企業価値向上を促す仕組みとなっていないということがありました
 
要するに、上場はするものの、企業価値を向上するような努力をしない企業が滞留し、投資対象として価値の低い上場企業が多くを占めるようになっていました

結果、株式時価総額843兆円(2023年6月末)の東証には、3897社の企業が上場しています
株式時価総額3440兆円(2023年2月末)のニューヨーク証券取引所は2385社、2435兆円(2023年2月末)のNasdaq市場には3643社ということを考えれば、一社当たりの時価総額の差は歴然で、東証には、機関投資家の投資対象となりやすい時価総額の大きい(企業価値の高い)企業は極めて少なく、市場としての魅力を損ねています

上場してていいのは、相応しい企業だけのはず

東証は、それらの問題を解決するために、市場区分の見直しに取り組みました
それが結実したのが2022年4月です
2022年4月以降、東証は、「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えたプライム市場」「投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えたスタンダード市場」「高い成長可能性を有するグロース市場」に区分されました
以前に比べれば、わかりにくさはまだ残りますが、ずいぶん良くなったとは思います
 
今問題になっているのは、従来の市場から新しい区分へのスムーズな移行を促すため、経過措置が設けられたことによるものです
2022年当時、新しい上場基準に合致していなくても、とりあえずは横滑りで市場に留まることができるという制度なのですが、その経過措置の期間が2025年に到来します
新基準に合致していれば、そのまま上場していられますが、基準に合致していなければ、監視の後、上場廃止となります
経過措置を適用された企業は昨年末時点で未だ500社程度あり、適切な市場に鞍替えするか、上場廃止を選択することになります
 
市場区分のコンセプトに沿って、上場企業を付け替えることは、極めて正しい措置であることは間違いありません
その市場コンセプトにふさわしい企業が存在するからこそ、その市場区分に意味が生まれます

市場区分の見直しに関するフォローアップ会議

東証は、市場区分の見直しの実効性を上げるために有識者によるフォローアップ会議が設置され、2022年7月に第一回目が開催されて以来、2023年4月までに10回の会議が行われています
このフォローアップ会議の内容は、東証のホームページで閲覧できますが、お役所的なお座なりなものではなく非常に示唆に富むものです
この中で、PBR1倍割れ企業にくさびを打つことに成功しましたし、経過措置の終了期間も具体的に決まりました
フォローアップ会議で議題に上がったことが実現していけば、日本の資本市場は良くなっていくと感じられるものです


PBR1割れ問題とは

東証はプライムとスタンダード両市場の上場企業約3300社に、資本効率や株価を意識した経営を求める異例の要請を行ないました
特に株価純資産倍率(PBR)が1倍割れの企業を「資本収益性や成長性といった観点で課題がある」と指摘し、改善に向けた方針や具体的な目標の公表を求めています
その前提には、資本市場や企業の評価が低く投資を呼び込めなければ、日本が国際競争に取り残されてしまうという危惧があります
内部留保や政策保有株が多いことのほか、収益力の低さ、株主還元の少なさなどの理由から、日本経済の低成長が長く続いたため、海外投資家が日本企業を投資対象にしていないとの指摘があるからです
短期的には余剰資金による自社株買いや増配が有効ですが、東証は一過性の対応ではなく、「持続的な成長を果たすための抜本的な取り組みを期待する」と注文しています


困惑する中小型上場企業

とはいうものの、現実に照らしたときには、まだ問題が残ります
実際に取引所に上場している企業は、経過措置を適用されていない企業も含め、フォローアップ会議で取り上げられた様々な改革案に対応できる企業だけとは限らないのが現実です
特に、時価総額が小さく、人材などのリソースが比較的少ない中小型と言われる上場企業にとっては、上場維持が難しいと感じるところがかなりあるように思います
一部市場に直接上場した企業はまだしも、二部市場やマザーズ市場から緩和された上場基準で一部市場への上場を果たした企業の中には、東証が決めた新たな上場基準に適合できない企業も少なからずあります
その場合、スタンダード市場やグロース市場へ鞍替えするか、上場を廃止することになってしまいます
資本市場の発展や国際的競争力を考えれば、取引所には投資対象として相応しい企業、時価総額が大きく、資本効率や株主還元を重視する、成長意欲のある企業だけが残るべきで、個別の企業の事情は関係ありません
成長意欲はあったとしても、長年、思うような成長ができない企業は、相応しい上場市場に鞍替えするか上場を廃止するという選択を余儀なくされるのは仕方のないことだと思います
ただ、従来の制度に慣れ親しんできた企業の中には、困惑が隠せない企業があるのも事実です

上場企業はそんなに良いか

株式を上場していることは、それほどメリットのあることなのでしょうか?確かに、上場企業というと、何か立派な企業で、安心して勤められる企業であるようなイメージはあるかもしれません
しかし、上場企業の8割は時価総額が1000億円以下の中小型企業ですし、会社の名前を知っているかどうかで言うと、(私的には)300位以下になると怪しくなります
つまり、上場しているからと言って、企業規模もそれほど大きくなく、名前も知らない企業が大半なのが実態です
上場するとブランド力が上がり、経営を利するというイメージがありますが、実際には、それほどでもないのではないでしょうか?
加えて、上場の最大のメリットと言われる、資金調達に関しても、マザーズ・グロース市場に上場した会社のうち、上場後に公募を実施した会社は約14%にとどまります
成長も限定的、知名度も上がらない、資金調達もできない
これでは、上場は既存株主のイグジット(出口)とみなされても不思議ではありません

上場にはカネがかかる

また、上場を維持するには膨大な費用がかかります
会計士に支払う監査費用や取引所に支払う上場費用、IR活動に伴う費用や内部統制などへの対応などを考えれば、かなり小さな企業であっても、数千万円の費用がかかります
グロース市場に上場する企業は限られたリソースで経営を行っている場合が多く、上場企業であるために(上場企業というブランドを手に入れるために)、毎年数千万円の費用を支払い続けることが、本当に得なのか損なのかについては、よく考えてみるべきです

株式市場は投資家のもの

投資家にとっての株式市場の在り方と、そこに上場する企業では、株式市場に対する考え方は異なります
投資家は、成長意欲の高い企業が切磋琢磨していて、正しい情報が、タイムリーに提供される健全な株式市場を望んでいます
成長意欲もなく、正しい情報をタイムリーに提供できない企業は必要ありません。むしろ、銘柄選別の邪魔になるだけで、不必要です
投資家は、共感できるビジョンを掲げ、適切な戦略を打ちだし、正しい情報をタイムリーに提供していくれる企業、株価を上げる経営を行う企業だけを欲しているのです
個別の企業には、どうしても上場を維持せざるを得ない事情がある場合もありますし、競争上、上場企業というブランドを維持したいという想いがあるかもしれません
しかし、それは高い株価(評価)を維持したうえで考えるべきことであり、投資家には全く関係のないことです
株式市場はあくまで投資家のものであり、そこに上場する企業の言い分が尊重されることはありません
株式市場は、常に退出する門を開いているのですから、嫌なら出ていけば良いのです

次回の内容

中小型企業数社にインタビューした結果のご報告と、アナリストインタビューの結果のご報告をもとに、新たな提言をしたいと思います

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