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実験レポートの書き方に関するメモ  (2019/2)

学科1年生対象の「生物学実験」の際に配布した資料から。

・緒言:実験レポート=模範解答のない試験

 いわゆるペーパーテストには、出題者が正しいと考える解答が必ずある。したがって、講義単位を得るための試験を乗り切る確実な方法は、講師が語った(あるいは書いた)内容をすべて暗記し、それを答案用紙にそのまま書き写すということであろう。
 実験レポートにも、出題者が書いて欲しいと考える内容はもちろんある。ただ、その内容とは、書物やインターネットから見つけた内容(人が書いた文章)を書き写したもののことではない。出題者は、実験で正しい結果を得たかどうかを評価するのではなく、実験者が自らのデータをもとに考えた過程とその結果たどり着いた結論(実験者独自の文章)を見ているのである。教員の醍醐味は、予想していなかったびっくりする内容が書かれているレポートを読み、書いた学生の顔を思い浮かべてニヤニヤすることであり、自分の実験結果が「あるべき」結果と多少違ったときこそ、君の腕の見せ所である。

・実験レポートの作成は、研究結果を論文としてまとめるためのトレーニングである

 科学研究は、自分のみがその結果を知っているというのでは価値がない。そもそも研究とは、過去の研究結果の「その先」に、自らのアイデアに基づいて取り組むものであり、自分が発見したことを社会に問うことは、研究者としての最低限の義務である。論文の発表こそが社会に問うための手段であり、実験レポートは、論文を自ら作成するための訓練として位置付けられる。
 論文は決して独りよがりのものであってはならない。論文を作成する過程で加わる他の研究者の目により内容は磨かれ、また発表された論文は同時代や後世の研究者からの評価を受ける。このため、論文を書く際には、過去の研究を正しく評価し引用(credit)したうえで、自分の研究の新規性や独創性を正当に主張することが必要となる。

・科学論文には「お作法」がある

 科学論文には決まったルールがある。第一に、論文を読んだ他の人がその実験を再現する(reproduce)ための情報が最低限記述されていなければならない(材料と方法)。また、その研究の歴史的な背景と具体的な目的(序論)、実際に得たデータとその解釈(結果)、その結果を踏まえてその研究分野に新たにもたらされる(と著者が主張する)理論等(考察)、が項目立てて記載されていなければならない。

・よい実験レポートを書くためのヒント

 科学論文を書くトレーニングなので、実験レポートでも科学論文を書く上での決まりごとを守る必要がある。そのうえで、以下のことに留意すると君たちのレポートの出来は格段に向上するはずである。

①実験の目的を理解する
 序論では、研究の背景(これまでに明らかになっていること)を踏まえて、その実験では具体的に何を明らかにしようとしているかが簡潔に述べられていなければならない。目的がよく理解できていると、データをどのように示し、どのように解析し、どのように考察すればよいかが見えてくる。逆に、目的が不明であれば、たとえデータがすばらしくても、それを有機的に表現することができなくなる。

②実験の方法を書く
 具体的な手順は重要であるが、その実験を再現する上で必要となる条件(たとえば使用した生物種に関する詳細や使用した試薬の組成・濃度や処理時間など、場合によっては試薬の製造元やロットまで)は実はそれ以上に重要だったりする。

③結果をどのように表現すればよいだろう?
 生物学データのほとんどは、コントロール(対照)との比較によって初めて解釈が可能となる。絶対的な値として得られる結果であっても、その結果がもつ意味は、それ単独では理解できない場合が多い。
 数値データ:1回きりのデータでは結論は出せない(ではどうする?)。条件ごとの値の違いに、意味があるのかを考える。その値の違いは、値のばらつき、測定の誤差、などの影響を考慮したうえで、適切に評価する必要がある。
 画像データ:見た目で何か違うと感じるセンスは実験科学においてとても重要であり、その直感(主観)は大事にしてほしい。二つの間には違いがあると感じたら、その違いを他人に理解してもらうため(客観性をもたせるため)、どのようなデータ処理上の工夫が必要となるかを考えてみよう。

④最も頑張るべきところは考察である
 考察は結果の繰り返しではなく、また感想でもない。考察では、自分の得たデータから、時には過去の他人のデータとも合わせて、その現象(のもつ意味)をどのように理解、把握することができるかを考え、自分の言葉で記述する。科学論文ではどのような方法、条件で実験を行うかというところで独創性が問われるが、条件が決まった実験をする場合が多い実験レポートでは、データの数値自体はほぼ似たようなものになるのは仕方ない(むしろそれが当然である)。しかし、結果をもとに考察する(自分の考えを述べる)ところは個人の領域であり、考察こそが独創性をもっとも発揮できる部分である。
 多くの研究はそこで終わりではない。一つわかったことで新しい疑問が湧くこともあるだろう。そのことをどのような手段で解決できるかを考えるのも、重要な考察項目である。

⑤その他知っておくべき作法いくつか
・文献の引用の仕方
 論文(書籍)、インターネットの文章をそのままコピーペーストして使わない。内容を自分の言葉に要約して書きなおし、引用元を当該文の直後(場合によっては内部)に示す。レポートの最後で、引用文献すべてをまとめて紹介する。

(例)  
千葉駅近辺では以下の店でクラフトビールが飲める(1)。なかでも、新千葉ビアホールでは、世界各地のビールが樽または瓶で・・・

<引用文献> 
(1) 千葉駅でクラフトビールが飲める人気店12 retty.me/area/PRE12/ARE45/…
(2) Matsuura A. et al., Japanese craft beers. Beer Product J. (2019) 1: 1-10

          
・図や表の描き方
 図や表にはタイトルを入れる。レジェンド(キャプション、説明文のこと)も忘れずに。グラフには、縦軸、横軸の数字と単位、凡例は必須である。下の例はTakeda et al., 2018より引用した。

・数字・単位表記  
✖️10mg→○10 mg  数字と単位の間には必ず半角スペース。ただし、温度(℃)、パーセント(%)の場合はスペースを入れないことが多い。

・イタリック表記すべき単語は?
ラテン語に由来する単語はイタリック(斜体)にする。他にもいろいろルールあり。

・その他ヒント

 ウェブ上には、実験レポートの書き方を指南する良いサイトがあるので、適宜参照して欲しい。例えば、
https://environbiotechnology.blogspot.com/search/label/レポートの書き方(明治大 小山内先生)
https://www.tnojima.net/entry/2013/06/01/010000(北里大 野島先生)
はオススメ。
  




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