【雑感】2023年J1昇格プレーオフ 決勝戦 対清水エスパルス~Time to Go~

 東京ヴェルディ 1-1 清水エスパルス

 奇跡、執念、劇的…なんと表したらよいのか後半ATの同点弾に引き分けに持ち込み16季ぶりの悲願のJ1昇格を掴み取ったヴェルディ。1点ビハインドになりながらも最後まで貫いたスタイルでもぎ取った得点、昇格を決めた試合を振り返りたい。


スタメン

 リーグ戦3位で引き分け以上でJ1昇格が決まるヴェルディは千葉戦と同じ11名で臨む。ベンチには加藤蓮に代えて山越が入りそれ以外は同じメンバーだ。
 対するリーグ戦4位清水は勝たなければ昇格が出来ない。こちらは山形戦からカルリーニョスジュニオ1名を入れ替えて臨む。

前半

 晴天にも恵まれ5万人を超える大観衆が詰めかけた国立競技場、Jリーグ30周年のJ1昇格プレーオフ決勝、オリジナル10ヴェルディ対清水と完璧すぎるまでに整った舞台。1層から3層スタンドをびっしりと埋める緑サポーターにどこにこんなに居たのかとびっくりするばかり、この人たちが定着するには絶対に昇格しなければと願って試合に入る。

 西日の影響もあるのかエンド入れ替えて前半キックオフ。勝たなければいけない清水がまずは押し込む。ボール非保持時1442で守るヴェルディ。キーマンの乾にスペースと時間を与えないようにと稲見がマークにつく。染野と山田が縦関係でDHを消しながら2CB鈴木と高橋へプレス。SH中原と齋藤もSBを見ながらCBへプレス、もう片方のDHには森田晃樹が縦スライドで対応し前線からのプレッシングをかけて行く。GK大久保、CB鈴木と高橋の足元は怪しい部分もあり染野がスライディングで大久保のキックを防いだり、CBからの繋ぎがもとつかないからと乾が低い位置まで下がって運ぶことがあった。前線はチアゴサンタナには林と谷口栄斗が身体を寄せてガッチリマークに付き、サイドはカルリーニョスジュニオ対宮原、中山対深澤大輝といった構図だった。

 後方から繋ぎが出来なくてもアバウトなボールを前線に蹴るとチアゴサンタナ中心に個の力でボールを収めてそこから2列目の選手が追い抜くことでヴェルディ守備陣形を崩してフィニッシュへと試みるも、ここはリーグ最少失点の鉄壁の守備を誇るヴェルディの横スライドがしっかりと喰いつき、決定機は作らせず、シュートはセットプレーの流れという感じであった。

 トップ下の乾は稲見にマークをつかれる。今季の成長著しい稲見がW杯戦士・乾にどこまで喰らいつけるか興味あったがここは乾の方が上手だった。左に流れながらボールを貰うと巧みな身のこなしで稲見を交わして、体格の右へ鋭いサイドチェンジを入れる。左サイドに選手が寄っていたことで右の中山と原にはスペースが十分にあり、齋藤と大輝が守備対応をして抜くか抜かれまいと阻むか見応えあるマッチアップだった。

 堅い守備で清水になかなかシュートを撃たせないヴェルディ。準決勝の千葉戦の入りよりも集中し、攻めの守備を見せる。敵陣でもプレス、プレスバックでボール奪取が嵌り始めるとショートカウンター、その流れでセットプレーとだんだんとリズムを作る。セットプレーの二次攻撃で左に流れた森田晃樹のクロスに染野、右からのFKを中原が入れるとファーで栄斗が合わすなどシュートシーンが生まれて行く。

 ビルドアップでは乾とチアゴサンタナの横並びの1442で守りマンツーマン気味の清水に対してGKマテウスを使いながら喰いつきが遅いと見たら浮き球を使って選手たちの頭を超えて左SB深澤大輝や右SH中原へパスを出して敵陣へ侵入していく。清水は利き足を切るように誘導しながら守り、ボールホルダーへ近い距離で身体を寄せることでヴェルディに決定的なシュートを撃たせず、前半はお互いにスコアレスで折り返すこととなった。

後半

 ハーフタイム明け、お互いにメンバー交代は無し。後方から丁寧に繋ぐヴェルディは最終ラインとDHを絡めてパス交換をして清水イレブンを左右前後に揺さぶり出方を伺うと、前半ではあまり見られなかった背後を狙うロングボールが増えて行く。また前半以上に左SH齋藤が中へ絞ってプレーする機会が目立つ。染野、山田と近い距離感を取ることでこの2人に当ててこぼれ球を斎藤。後半になり悲願の昇格へギアを明らかに1つ2つと上げた宮原が鋭いボールカット、隙あれば攻撃参加とこの大一番でも頼もしい活躍を魅せる。ホナウドからボール奪取して齋藤がミドルシュート、CKからのセカンドボールを奪取してミドルシュート、チアゴサンタナへの縦パスをカットしてドリブル突破とこの試合に懸ける気持ちを感じ取れた。

 敵陣に押し込む割合が増えてきたヴェルディであったがシーズン中からの悪さが出てしまった。ボール保持していると思いきやちょっとしたことでボールロストして47分、カルリーニョスジュニオがそのまま持ち上がりクロスにチアゴサンタナが詰めるも林がなんとかクリアして事なきを得た。

 先に動いたのは勝利が必要な清水だった。60分、カルリーニョスジュニオに代えて北爪を投入。北爪はWBへ入って13421へシステム変更する。ヴェルディSBにWBを当てることで長い距離のスライドを要してその裏を取る動きをより明白にしてSBCB間を広げる。

 すると、DH稲見と森田晃樹も深い位置までカバーする守備が強いられてきて60分、晃樹がPA内での守備でハンドを取られて痛恨のPK献上。これをチアゴサンタナがしっかりと決めて清水が先制。

 1点ビハインドになり昇格には得点を奪い最低でも引き分けに持ち込まなくいけなくなったヴェルディは左SH齋藤に代えて新井を投入する。

 13421とシステム変更した清水は中山と山原に代えて岸本と吉田を入れてサイドを蓋し、中を固めて逃げ切りに出る。ヴェルディは裏抜けのボールを試みるも清水守備ラインがそれを警戒して低く守ることでなかなか効果的ではなくて時計の針が進むばかり。

 ヴェルディは75分、林と山田に代えて平と綱島悠斗を投入。80分には大輝と稲見に代えて山越と長谷川を投入しすべての交代枠を使い切り、選手に夢を託す。一方の清水は原と乾に代えて神谷と北川を投入して逃げ切りを図る。

 1点取らなければいけないヴェルディは配置換えで反撃を試みると、コンディション不良もあり出場機会が少なかったが昨季横浜FCで昇格を果たしたテクニシャンがここ一番で魅せる。ブロック固められて外循環を強いられていたヴェルディであったが長谷川がブロック中の真ん中でボールを貰えることで少しずつ清水陣形を乱し始める。
 長谷川は間、間でボール貰ったり、同点に追いついてからは時間を使うような高いボールでクリアとやっぱり状況判断うまい。短い期間だったけど千葉戦の1得点1アシストとこの清水戦で昇格に貢献してくれた。

 利き足をしっかりとケアする清水守備陣だけあってクロスも上げられず苦労する展開も、89分、宮原が逆足の左足からのクロスを上げて、PA内で染野がトラップしてシュートも高橋にブロックされる。これでもかとゴールを奪えず試合は後半ATへ突入。

 ATは8分の表示。魂込めた緑のチャントが国立競技場に鳴り響く。ついにサポーターの願いが通じる。93分、この日はじめてと言っていいくらい中原からの縦パスに抜け出した染野が高橋にPA内で倒されて土壇場でPK獲得。ここも執拗に続けていた背後を狙うパスが効いた。昇格か残留かシーズン成績に直結する重要なPKのキッカーは自ら獲得した染野。オレンジの旗が揺らぎ視界を惑わし、プレッシャーかかる大勝負。染野が蹴ったボールは大久保の手をかすめながらもゴールネットを揺らし、ヴェルディがとうとう追いついた。このリードを守り切り、ヴェルディがアドバンテージを活かし引き分けに持ち込み、歓喜のホイッスル。16季ぶりのJ1昇格を果たした。

まとめ

 ついに訪れた歓喜の時。J1昇格を掴み取った。緑のサポーターたちは泣いた。15年の長すぎるJ2生活は経営難、相次ぐ主力選手の引き抜き、消滅危機と先の見えない日々にもはや絶望すら感じこのまま一生昇格は出来ないのかもと思ってしまう時もあった。苦しい時を支えたヴェルディに関わるすべての人たちが報われて本当に良かった。1つの呪縛が解けたようにも思えた。
 この試合はお互いにPKでの得点のみと内容はやや寂しいものであったが1発勝負の緊張感が伝わる堅いものだった。追いかける展開となってもヴェルディは今季を象徴するようにハードワークを怠らず守備を固め、攻めてもしっかりと狙いを持った攻撃を続け実を結んだ。激闘の1年間を戦い抜き、見事に昇格を果たした選手や監督スタッフなどクラブには感謝したい。来季もどういう戦いを魅せるか楽しみである。