【雑感】2019年J2リーグ第36節 対FC琉球~主導権を握ったことが圧勝劇に繋がった~

FC琉球 1-5 東京ヴェルディ

 東京をはじめ台風19号被害に見舞われるなか遠く沖縄の地で行われた一戦、最近の不調も吹き飛ばすかのように今季最多5得点のゴールラッシュで大勝。守備陣も集中して守り、攻撃陣も前節から継続する形でうまく崩したり、ここまであまり見られなかった背後を取る動きからと様々なパターンでゴールを奪ってみせた。攻守でいくつかの場面を切り取って試合を振り返ってみたい。

スタメン

 前節岡山に敗れ、3連敗で迎えるヴェルディ。右サイドに澤井直人が久しぶりのスタメン起用、左には内田に代わり奈良輪が入る。リベロで起用されていた山本理仁が欠場となり梶川が1列下がる。フロントボランチに怪我から復帰した井上潮音を起用。北朝鮮代表でW杯予選に召集されている李栄直に代わり中央のフリーマンには森田晃樹が入る。両翼をジャイルトンパライバと小池が担い1442システム。永井監督、藤吉コーチにとっては地域リーグ時代に所属していた古巣への凱旋となる。一方の琉球は9月から負けなしと上向き調子。この日も前節と変わらないスタメンで14231システム。福井、富所も古巣との一戦になった。

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先制点を挙げたい両者

 強い風が吹く中、風上に立ったヴェルディはボール保持して慎重に攻めていくことだけではなく、試合開始早々からボールを大きく使っていく。スタメン起用された右サイドアタッカーの直人の攻撃参加を含めて両翼のパライバと小池が幅を取る。そこへ手数をかけずに展開して、個人技の突破などサイド攻撃を仕掛けていく。
 対する琉球はボールを大事に扱いながらゴールを目指す。ビルドアップ時に岡崎と福井の2CBに小野か上里のDHどちらかが下りて3枚を形成する。ヴェルディはボール非保持時は1442のため数的有利で、長短のパスで攻撃を作る。SH風間宏矢、富所へ展開してトップ下の上門も加わる形でゴールを目指すがコンパクトに中央を固めるヴェルディを守備を崩すまでには至らない。

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守備構造の穴をひたすら突いたヴェルディ

 試合の主導権を握ったのはヴェルディだった。ボール保持時に琉球守備の空いたスペースを上手くつきながらゴールへ迫るまさに「相手を見て」サッカーが出来ていた。
 前節の岡山と同じように1442で守る琉球に対して、フロントボランチのクレビーニョと潮音が高い位置を取りハーフスペースに構え1415へ変化する。ビルドアップで主に若狭と近藤に直人or奈良輪に対して山田と上門で3対2を作り、その出口には梶川、クレビーニョ、潮音が居るという状態が終始続いた。
 縦パスを通してクレビーニョと潮音がボールを貰い、サイド攻撃へ転じる場面が随所に見られた。左なら小池、潮音、奈良輪、右ならパライバ、クレビーニョ、直人がうまく絡み数的有利を作り琉球守備を崩しにかかる。フロントボランチが琉球DH小野、上里を剥がすとCB岡崎、福井がくいついてきて、そこにはフリーマンの晃樹がフォローに入る。晃樹はフィジカル面こそ劣るもののアカデミー時代から永井サッカーを体現化しているだけあって抜群のポジショニングを見せて攻撃陣を引っ張っていく。 
 琉球のボールホルダーへのマークも緩く、ヴェルディは1415気味にピッチ広く選手を配置してサイド攻撃、中央突破、裏抜けと琉球守備の弱点をいろいろと突きながら前半で試合を決めた。

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 25分、ヴェルディが先制点を挙げる。左サイド奈良輪から小池、潮音と繋ぎクレビーニョから右サイドの直人へ展開、落としたところを梶川がダイレクトでクロスを挙げてPA内の左大外でフリーになった小池がボレーシュートを決める。これで今季10得点目、自身初の二桁得点になった。
 41分、ゴールキックから上福元→若狭→クレビーニョと細かく繋ぎ、余裕をもって前を向き、最終ラインと駆け引きしながら飛び出した小池へ浮き球のパス、抜け出した小池はGKカルバハルとの1対1を落ち着いて決めてヴェルディが2点目を挙げる。
 ボールを回しながら追加点の機会を伺うヴェルディは43分に再びゴールネットを揺らす。最終ラインでボールを回して若狭→クレビーニョと繋ぐことで上里を飛び越して、福井を引き寄せることでフリーマン晃樹が抜け出してドリブルシュートを決めてリードを3点に広げる。 
 ビルドアップ時にうまく琉球選手を引き付けて、スペースを作りそこでボールを受けて、再び引き付けてパスの繰り返すことで琉球選手たちの動くパターンを確認する。得点の前から同じような場面があり、確証を持てたことでヴェルディ選手のプレーにも自信があるように見え、『相手を見て』サッカーするという理想で主導権を握ることでうまく崩して得点に繋がった。

個と組織を融合させたヴェルディの攻撃

3点ビハインドの琉球は、風上に立つ後半開始からSB鳥養と徳元が高い位置を取り反撃に出る。全体で押し込んでいき、富所からパスをもらった上門がこの日唯一と言ってもいいヴェルディ守備がバイタルを空けたことで豪快なドライブシュートを放ちクロスバーを叩きゴールイン、54分に琉球が1点を返して3-1とする。その直後にも富所が強烈なミドルシュートを打ち、ゴールを脅かした。
 ホームで圧倒的な力を発揮する琉球に「もしや」となりそうな展開を変えたのはパライバの個の力だった。57分、琉球のCKからの梶川がクリアして自陣からドリブルを始めたパライバはそのまま持ち上がり、一度はパスがクレビーニョにあたってしまうが再び持ち上がり敵陣PA付近で右サイドを駆け上がった晃樹へパス。ボールを受けた晃樹はフェイントで相手をかわして左足で流し込み4-1、再びリードを3点差とする。
 琉球は小野に変えて風間宏希、山田に変えて小泉を投入して、上門がトップに入る。その上門が再び強烈なミドルシュートを放つもGK上福元がセーブしてゴールを割らせない。
 69分、またもヴェルディが鮮やかに崩して追加点を挙げる。近藤からの縦パスを潮音がポストとなり、梶川へ。ダイレクトで小池へ浮き球を通して斜めに走り込みPA内に進入する晃樹にパス、奈良輪へ繋ぎ、クロスを潮音が落として小池が見事なボレーシュートを決めてハットトリック達成。5-1とヴェルディが4点リードへ広げる。

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 その後もパライバ、クレビーニョ、途中出場の新井の個人技からチャンスクリエイトして攻撃の手を緩めず6点目を目指すも追加点は生まれずこのまま5-1でタイムアップ。今季最多得点の大勝で連敗を3でストップさせた。

攻守に存在感を示した井上潮音 

 大勝となったこの試合、怪我から復帰した潮音の存在が大きかったことも触れておきたい。フロントボランチで最終ラインと前線のつなぎ役になり、ビルドアップの出口としてドリブルでボールを運んだり、ハーフスペースでボールを受けてサイドへ攻撃へ転じる起点となった。フィニッシャーとしても得点こそ挙げられなかったがPA内へ進入してシュートを放つ場面があった。また、守備面でも前線まで飛び出してのパスコースを限定しながらのプレス、ボールホルダーへのプレスバックでのボール奪取、良い立ち位置からのボールカットと梶川と並んで中盤の守備を閉めて攻守にわたってチームに貢献した。

まとめ

 試合立ち上がりからヴェルディの選手たちは自分たちがやりたいサッカーをやろうとする姿勢が見えた。永井監督の試合後のコメントにもあったように、『相手を見て』うまくサッカーが出来ていた。琉球守備の稚拙な部分もあったが、しっかりとそこを狙って背後を取る動きなどを具現化出来ていた。圧勝劇に繋がった要因としては潮音、前節ではパライバと主力の復帰による戦力アップと合わせてこの試合では先制点を挙げたあとに2点目、3点目と得点機会をしっかりとものにして追加点が取れた(しかも前半に)ことで精神的にもかなり楽にプレー出来たことと考える。
 4バック相手への攻撃オプションに手ごたえを感じつつあるように思える。次節甲府はおそらく5バックをスタートとするクラブだけあってこのやり方を継続するのか、どのような変化をつけて来るのか楽しみにしたい。
 守備面ではDH化する梶川と潮音、近藤を中心とする最終ラインがコンパクトに中央を固めることが功を奏してPA内での決定機をあまり作らせずに1失点に抑えた。
 3連敗と重苦しいムードになっていただけに1か月ぶりの勝ち点3を素直に喜び、次節を迎えたいと思う。