【雑感】2019年J2リーグ 第29節 対水戸ホーリーホック~旧友が繰り広げた熱い戦術バトル~

水戸ホーリーホック 1-2 東京ヴェルディ

 相手を見て、正しい立ち位置を取る事で数的優位、位置的優位を確保。ショートパスを繋いで、前進してフィニッシュまで持っていくという観ていて楽しいサッカーが出来てきた永井ヴェルディ。それに対抗すべき、試合中に見せた水戸長谷部監督の采配。かつてヴェルディで切磋琢磨した二人が繰り広げた熱いバトルを振り返ってみたい。

スタメン

 8月に入ってから勝ちが無いヴェルディはこの日もぶれずに中盤ダイヤモンド型の1442システムを採用して臨む。今夏にフラメンゴから獲得した元U17ブラジル代表のクレビーニョが右サイドアタッカーでスタメン、富山から獲得した新井がベンチに入る。前節負傷交代した佐藤優平は間に合わず、アンカーは山本理仁が務める。対する水戸は昇格PO圏内につける好位置をキープ、前節は同じく好調な京都を3-0で完勝して今節に臨む。ベテラン木村が累積警告による出場停止で浅野が代わりに入りそれ以外は同じメンバー。システムはお馴染みの1442。

浸透し始めた永井イズム

 組織的、連動した守備でリズムを作り攻撃へ転じて勝ち点を積み重ねてきた水戸とボールポゼッションで攻撃志向強いヴェルディの一戦は開始早々からアグレッシブな展開を見せる。いつも通りに自陣の低い位置から丁寧にボールを繋ぐヴェルディは上福元+近藤、内田+理仁でビルドアップしてゾーン2へ運んでいく。対する水戸は前線から積極的なプレッシングかけてボール奪取を試みる。ここで水戸の基本的な守り方をおさらいしたい。

①2トップは相手最終ラインをマーク
②SBとSHは縦方向へスライド
③CBとDHは横方向へスライド​

前半戦の対戦時と同様な動きであり、この試合で理仁が右サイドへ下りた際もSHがプレスかけにいくことから水戸の約束事の1つになっていると考える。

 ヴェルディのサイドアタッカーに水戸のSHがつくことで中盤は2対2の構図が生まれる。ここに数的、位置的優位を作るフリーマンのレアンドロが加わることでヴェルディが中盤(ゾーン2)で主導権を握る。大外に開くワイドアタッカーの河野広貴と小池には同様の理論から水戸のSBがつくことが多く、SBを引き寄せることでスペースを作りここにフロントボランチ梶川と晃樹、サイドアタッカーのクレビーニョと奈良輪がここに走り込みゾーン3へ進入する。連動した選手たちの動き、リズミカルなパスワークで水戸守備陣を切り崩してチャンスが生まれ、開始から何度も水戸のゴールへ迫る。また、この日はボールサイドの反対側サイドアタッカーが中に絞りアンカー脇にいる場面もあり『偽SB』を披露することもあった。攻撃は勿論、課題であるネガトラ時の守備対策としてファーストディフェンダーの役割を果たす目的もあったと考える。

 立ち上がりから良い崩しで攻撃をするヴェルディは19分に先制点を挙げる。理仁が中央でボールキープして小池へパス、そしてハーフスペースの晃樹へ繋ぎ、水戸DFを交わして豪快なミドルシュートをネットへ突き刺した。晃樹にとっては嬉しいプロ初ゴールになった。

 その直後も右サイドクレビーニョが、レアンドロ、晃樹とコンビネーションから崩してPA内へ入っていき、クロスを上げて小池がボレーシュートを決めてヴェルディがあっさりと2点目を挙げて前半20分で2点差と思いもよらぬ展開になる。

プランBの可変システムを導入する水戸

 2点リードしても同じように再現性有る攻撃をヴェルディが試合を優位に進めるなか、28分ごろに水戸・長谷部監督はシステム変更をする。守備時1541⇔攻撃時1244という可変システムになる。最終ラインを5バックにすることで5レーンをしっかりと埋めて、3CBの1枚+2DHで中盤を同数としてヴェルディへスペースを与えずにゾーン3へ進入を防ぐことに成功してヴェルディの攻撃はペースダウンする。守備をテコ入れしたことで水戸はリズムを取り戻し、攻撃へ迫力が出て来る。

 ヴェルディは前節同様に守備時はレアンドロと広貴を2トップにして1442になる。しかし、前線からの効果的なプレスもさほどなく、中盤4枚の横スライドが特別に早いわけでもなく、反対サイドを捨てる守備になってしまっている。1244へ可変する水戸は志知と浅野がアップダウンする左サイドを中心に攻撃をする。

上記のように反対サイドを捨てるヴェルディを翻弄するかのように右サイドへ選手を密集させて、志知と浅野のスピードを活かす。スライドが間に合わず、クレビーニョが1対1もしくは1対2を作られてここからクロスを上げられて小川や福満に決定機が何度かあったが、GK上福元の好セーブ、奈良輪の身体を張った守備で前半を無失点に抑える。

逃げ切り策を見せた采配

 後半になっても流れが変わらなかった。1541へシステム変更した水戸守備陣をこじ開けられず、攻撃の形すらままならなくなったヴェルディに対して、水戸はDH前がボールを握れる展開が増えてきてさらに攻撃に厚みが出て来る。サイドからのクロスボールを小川へ集めて黒川、福満がこぼれ球をフィニッシュする場面が多く、決壊寸前のヴェルディ守備陣。端戸を投入してレアンドロを左ワイドストライカーへポジション変更で『時間を確保』する狙いを立てるものの全体の重心が後ろにあるせいでなかなか機能しない。52分、外山のクロスから小川がヘディングシュート、上福元が防ぐものの、福満が押し込んで1点を返す。劣勢のなか、70分に怪我から復帰した若狭をCBへ投入して1541で守備を固める采配を見せた永井監督。水戸の攻撃を正面から受ける形になったものの最後まで集中したプレーで逃げ切り、8月初勝利を挙げた。

まとめ

 自分たちのゲームモデルに沿った各選手の役割が浸透し始めたヴェルディ。水戸守備陣のミスマッチをつくことで再現性有る攻撃、観ていて楽しいサッカーが出来た。特に、抜群の技術力と、数と位置で優位性を生む絶妙なポジショニングを取るレアンドロのパフォーマンスの高さはチームに見事にはまっている。新加入のクレビーニョもその経歴を裏切らないポテンシャルの高さをいきなり見せつけて今後が楽しみである。一方でスペースを埋められてリトリートされた守備を崩すことが今回も出来なかった。永井監督が何度も口にしている『相手を見てプレーすること』で『相手のいないところにボールを運び、攻める』という『スペースにボールを置く』質を高めていく必要がある。水戸も試合序盤は苦戦するものの、システム変更でリズムを掴むと次第に形勢逆転して反撃に出るなど見応えある一戦となった。永井、長谷部両監督の主導権を握るためピッチで次々と打ってきた采配はとても面白いものであった。