【雑感】2019年J2リーグ 第13節 対アビスパ福岡~スタートラインに立つ~


東京ヴェルディ 3-2 アビスパ福岡

 初夏の陽気になった味の素スタジアム。その熱ささながりに情熱的にベンチ前で身振り手振り振る舞う両指揮官。目指しているサッカーは似たり寄ったりであり、なかなか結果が出ていないところも同じだ。自分たちのスタイルを貫くなかで勝利をものにしたのはヴェルディだった。前節までの課題をピッチでどう表現したのか勝利の裏側を振り返ってみたい。

<スタメン>

 ヴェルディはここのところ1トップを務めていた端戸が怪我がちということもありベンチ外で代役のコイッチが新潟戦以来のスタメン起用。U20日本代表に選出された藤本寛也は右SHで起用されてシステムは継続して3ボランチ採用の4-1-4-1。対する福岡は出場停止明けの石原と輪湖がそれぞれSBでスタメン、前川が久しぶりにスタメン復帰。同じくU20日本代表に選出された三國は出場停止、喜田はベンチスタートとなった。鈴木惇は古巣との一戦になる。

<スタメン起用に応えたコイッチ>

 立ち上がり、福岡はウォンドゥジェと篠原の2CB+鈴木もしくは城後の3枚でビルドアップを図る。石原と輪湖の両SBがかなり高い位置を取り、両SHが中に絞りハーフスペースを取り積極的に攻撃を仕掛ける。昨年までの堅守のイメージから変わり今年の福岡は攻撃的なチームを目指しているのだ。一方のヴェルディも低い位置からボールを繋ぐ攻撃に加えて、この日はロングボールのターゲットマンとしてコイッチが持ち前の身体能力を活かしてハイボールを競り、そのセカンドボールからゴールを目指す。

4分、さっそく試合が動く。上福元からのロングフィードをコイッチが落とし、右サイドで寛也がボールキープしてPAの深い位置へ侵入した渡辺皓太の折り返しをコイッチが放ったシュートが福岡DFに当たりそのままゴールインして、ヴェルディがこの日も先制する。コイッチは嬉しい来日初ゴール。皓太も相手PAへ入りアシストを決める昨年の好調時のパフォーマンスを久しぶりに見せ、今後も期待が持てる。

<ハーフスペースの使い方、使われ方>

 福岡は先制を許すも、ボール保持して攻撃を仕掛ける姿勢は崩さない。自陣では2CB+1DHの3枚で横並びになりビルドアップを図り、敵陣侵入していくと2DHと2CBが四角形になる。ヴェルディはボール非保持時に451からIHが福岡CBへプレスかけることで442へなった時にSHとアンカー間に生まれる一瞬のスペースに福岡SHが中に絞っていることで縦パスが通る。そこから攻撃参加する左SB輪湖からのクロスでチャンスを演出する。1トップを務めるコイッチは中盤の選手たちに深追いしないようにとしきりに指示を出して、プレッシングを意図的に弱めた。25分ごろ、2トップの一角だった松田が前川と位置を替えてSHになり(この試合中は松田、前川、田邉らは頻繁にポジションチェンジを繰り返す)、ハーフスペースにいることで対面する若狭と寛也は松田と輪湖のマークに手を焼き、芋づる式にスペースを作られてピンチを招く。福岡は4222で大外とハーフスペースを上手く使いサイド攻撃を仕掛けていくところがよくデザインされている。

32分、鈴木のパスから左サイドをドリブル仕掛けた輪湖のクロスに松田が囮になってPA内で待ち構えていたヤンドンヒョンのヘディングシュートが決まり福岡が同点に追いつく。コイッチ1枚で福岡のビルドアップ陣をチェイスするため、そのあとも司令塔の鈴木がフリーになる場面が目立つ。

<輪湖対策が実る>

福岡は左サイドを中心に再三、よい動きを攻撃を見せ、寛也が押し込まれてヴェルディは攻撃リズムが悪くなる。37分ごろDAZN中継リポートでもホワイト監督からの輪湖への対応指示が伝えられ、39分ごろに左SH小池と右SH寛也がポジションチェンジする。同じタイミングで福岡も松田と田邉が左右入れ替えていた(後半開始時にはまた戻る)。

個人で仕掛けることが出来る小池が輪湖と対面することで守備リスクを考えて積極性が落ち着き始める。反対サイドでは、守備から解放された寛也が攻撃力を発揮し始めて、43分に寛也が中央へドリブルで入り右サイド小池へチャンスメイク、44分には抜群のコンビネーションを誇る寛也と皓太が狭い距離感でパスを繋ぎ左SB奈良輪がインナーラップからクロスを上げてコイッチを通り越してPA内中央にいて小池がトラップから上手くボールコントロールして反転シュートを決める。この日32歳となった小池のバースデーゴールでヴェルディが勝ち越して前半を終える。

<アクセントをつけるヴェルディの攻撃>

ボールサイドに人数をかける攻撃に厚みが出てくるヴェルディ。後半早々には佐藤優平が長い距離を走り、シュートを放つがセランテスの好セーブに合い追加点を奪えない。福岡もヤンドンヒョンのシュートがクロスバーをかすめるなど一進一退の攻防が続く。ここで流れを変えたのが優平だった。ボールサイドであった右に選手が密集することで左の寛也がフリーになり大きくサイドチェンジ。タイミングよく攻撃参加した奈良輪にパスを出して早いクロスボールを上げることでウォンドゥジェのオウンゴールを誘い3-1とする。

<アグレッシブさの守備で試合を終える>

61分、ボールを自由に持つことが出来た鈴木が遠い位置からの無回転ブレ球シュート決めて福岡が1点返して3-2とする。ヴェルディはコイッチに代わり永田が入り、SH寛也がトップを張る。対する福岡はフェリペミコルタが入り田邉がボランチとなり同点を目指す。1トップに入った寛也は巧みなボールキープ力をみせて相手CBを背負いながらも時間を作る。それによってヴェルディの選手たちの押し上げ、陣地回復に大きな役割を果たす。実質ゼロトップのような布陣であるが今後のオプションにもなる可能性を示した。そのあとはフィジカル面に優れるリヨンジが交代してそのまま1トップに入り体を張ってボールキープをする。木戸、北島を投入して追いつきたい福岡に対してヴェルディは終盤に佐藤優平に替えて梶川が入る。この日は決して5バックにするのではなく451を継続する。中盤にフレッシュな選手を入れることで強度が落ちてきた横スライドも再び早くなり、自分たちの前で福岡にボールを持たすことが出来た。攻めの姿勢を崩さないことで課題だった押し込まれる機会も大幅に減り、このまままリードを守り切り3-2で勝利を挙げた。

<まとめ>

スタメン起用されたコイッチが試合早々に得点を挙げたこともあって、良い雰囲気で試合を進めることが出来た事も大きかった。ここ最近の課題であった試合の終わらせ方を変えたことで今季初の連勝を飾り、4勝5分4敗とようやく星を五分に戻した。ボール保持する場面が少なく、潮音や皓太、優平の強みをあまり出すことが出来なかったが、勝利を得ることで自分たちのスタイルにも自信を深めつつあるように見えた。やっとJ1昇格レースのスタートラインに立ち、試合を積み重ねるごとに1つずつ課題を乗り越えていく姿から、だんだんと一体感が生まれ始めてきた。さぁ、反撃を始めよう!