【雑感】2019年J2リーグ 第8節 対モンテディオ山形

モンテディオ山形 2-1 東京ヴェルディ

 『幅を取る』とこの試合のDAZN実況担当した清水春樹氏は何回コメントしていただろうか。現代サッカーに欠かせない基本的な要素であり、試合運びを上手くするためにバロメーターの一つと考えられている。このワードに注目してみると逆転勝ちをした山形の方が一枚上手だっただろう。両クラブの差も踏まえて試合を振り返ってみたい。

<スタメン>

 ヴェルディのスタメンはここ最近起用されていた端戸がベンチ外で渡辺皓太をトップ下で今季初先発に起用。強固な守備を武器に6戦負けなしで上位につける好調・山形は水曜開催の前節から4名を入れ替えてストライカー・ジェフェルソンバイアーノや古巣対戦となった南秀仁が起用された。

<渡辺皓太への期待>

 豊富な運動量、小柄ながらも当たり負けしない屈強なフィジカルを武器にクラブやU22日本代表でも昨年活躍した渡辺皓太。キャンプでの負傷で出遅れていたが、ようやく今季初の先発を果たした。これまでは中盤ボランチが主であったが、この日はトップ下と少し前でのプレーとなった。期待とおり試合立ち上がり早々に相手PA内へ侵入して持ち前のフィジカルの強さでボールキープしていきなりゴールへ迫る場面を作り、そのあともボール奪取から長い距離のドリブルでボールを運ぶといった”らしい”姿を見せた。小柄でありながらも前線でボールを収める役割や運動量活かしてプレーをするが、ここまで3失点と堅守山形が立ちはだかった。風の影響もありロングボールを蹴ることも躊躇わないヴェルディ攻撃に対して山形は前向きの守備をすることでターゲットマンの林陵平に仕事をさせず、攻撃の形が無くなり次第に流れを失い始めた。

<幅を取る攻撃を見せた山形>

 ボールを丁寧に扱い最終ラインから組み立てていくヴェルディと山形の両クラブであったが、その完成度には大きな差があった。まずは、ヴェルディの組み立ては基本的に最終ライン4枚でこの日はGK上福元が加わることは少なかった。山形は541を敷き南秀仁、ジェフェルソンバイアーノ、坂元がヴェルディDFへプレッシャーをかけることでSB若狭と奈良輪が高い位置を取ることがなかなか出来ず、中盤の佐藤優平、小池純輝と連動する動きも少なく脅威を与えることが出来なかった。

 一方の山形は基本的に3CB+1DHで3バック中央の栗山が下がり、DHが対角になってひし形を作ることが多かった。そこに両WB三鬼と山田、シャドー南秀仁、坂元が上手く連携することでヴェルディの林陵平、渡辺皓太らのプレス回避してボールを運ぶことで全体的に押し上げる。ここでサイドプレーヤーが『幅を取る』ことによってチャンスになる場面が目立った。

しかし、先制点は意外な形で生まれた。なかなか良い場面がなく、ここまで劣勢になっていたヴェルディが前半終了間際に得たスローインから林陵平がポストになり、小池純輝がドリブルで抜け出して左足を振りぬきネットを揺らした。

<熊本雄太の攻撃参加>

 後半、追加点を目指すヴェルディは攻撃を仕掛けるがセカンドボールを山形に奪われる展開が続く。前線の坂元が自慢のスピードを活かして攻撃の基点となる。さらに、両WB 三鬼と山田に加えて右CB熊本が攻撃参加して『幅を取る』場面が増える。フリーになりパスを供給することや前線へ上がりボレーシュートを放ちサイド攻撃を中心に俄然、勢いを増す山形の攻撃。同点の場面も熊本が持ち上がることにマークが緩く、楽々前線へフィードをすることでゴールが生まれた。

<明暗を分けた選手交代>

 同点に追いつかれたヴェルディはプレーに精彩を欠くリヨンジ、佐藤優平に替えて森田晃樹、藤本寛也を投入。さらに井上潮音に替えてコイッチを入れる。3142へシステム変更をする。対する山形も山田、ジェフェルソンバイアーノ、坂元に替えて柳、阪野、大槻を入れる。

ボール保持して攻撃を仕掛けていきたいヴェルディであったが、ピッチの中央でパワー溢れるプレーを見せていたリヨンジを下げたことでボールを跳ね返す、奪う力を失ってしまいさらに山形の圧に負けてしまい苦労することになった。そして決勝点は試合終了間際に劇的に訪れた。間延びした展開でCB熊本がボール奪取後に右サイドをワンツーでそのまま駆け上がりクロスを折り返し途中出場の大槻がヘディングシュートを決めて山形が勝ち越した。そのあとヴェルディもパワープレーで上がった近藤の惜しいシュートもGK櫛引に防がれてそのまま試合終了となった。

<まとめ>

町田戦のようにDHの相手PA内への攻撃参加や金沢戦~徳島戦までの連動した攻撃など積み上げてきたアグレッシブなプレーが一気に崩れ落ちて振り出しに戻ったような3連戦の締めくくりになった。守備が良くなれば攻撃が停滞して歯車がうまく噛み合っていない。昨年の大分の戦いぶりを観ても分かるように同じような攻撃で誰が出ても満遍なく得点出来る『再現性有る攻撃』が出来るようにならなければいけない。フィニッシュまでの道筋をどう『設計』するかが監督の腕の見せ所になる。攻撃を牽引している佐藤優平が痛々しいテーピングから分かるように精彩欠く動きを感じるが、彼に依存することなく代わりに出る選手たちでも同じような攻撃をして精度を上げていくことを日頃の練習で落とし込んでいく必要がある。アグレッシブにサイド攻撃を仕掛けていく志向が見えるなかで対戦相手により戦い方を変えていく結果として重心が後ろにかかりすぎている。セカンドボール回収、ボックストゥボックス、『幅を取る』ことを意識したビルドアップからの設計・選手配置、トランジションの強度などを見直す課題は多々あると考える。そろそろ第1クールも終わりが近づき自分たちのやり方を示すときである。