【雑感】2019年J2リーグ 第27節 対鹿児島ユナイテッド~各ポジションに与えられたメッセージ~

東京ヴェルディ 3-3 鹿児島ユナイテッド

残り10分からのカオスな展開。。。勝ち点3を失ったのか、勝ち点1を手に入れたのかとその表現はなかなか難しい結末になった。内容を振り返ってみると、何とかして主導権を取ろうと、試合中に何度も変更したヴェルディ選手たちのポジション。すると、次第に分かり始めた各ポジションの役割をこの試合を通して考えてみた。

スタメン

前節・京都に0-4で大敗を喫して、主力の平は負傷、そして主将だった渡辺皓太の横浜F・マリノスへの電撃移籍が発表されたヴェルディ。悪い流れを断ち切りたいなかでこの日は50周年記念となる黒×金色の特別ユニフォームを着用した。CBに近藤と内田が久しぶりの先発起用、前節欠場した藤本寛也が新主将としてフロントボランチで起用、新加入のカンスイルが左ワイドに入り1442システム。対する鹿児島ユナイテッドは前節・千葉に勝利して連敗を5で止めた。残留争いのなかではあるが攻撃志向が強いチームだ。5年ぶりに味スタ凱旋が期待されたニウドは残念ながら出場停止。代わって平川がDHに入り、14231のシステム。
※フロントボランチ=インサイドハーフ 今回から永井監督が使用するワードでポジション名を極力書いていきます

両クラブの攻撃時の狙い

 攻撃志向で前線に人数をかけて前がかりになる両クラブ、試合は開始早々からヴェルディは右ワイドストライカーの小池を中心に攻撃を仕掛ける。小池が大外で幅を取り、鹿児島SB砂森を引っ張り出して、空いたスペースにフロントボランチの寛也を使う。見事な連携からクロスを上げてPAでレアンドロとカンスイルが仕留めるという狙いが見えた。

 対する、鹿児島もお馴染みとなりつつある2SBが高い位置を取る攻撃を魅せる。2CB+2DHでビルドアップを組み立てて、2SBが大外、2SHがハーフスペースに位置取る。最終ラインから斜めのロングパスをサイドへ入れてそこからシュートチャンスを作る。

 良い立ち上がりを見せたと思った矢先、アクシデントに見舞われる。7分、寛也がレアンドロとのワンツーで鹿児島守備を攻略してPAへ入り、シュートを打とうと切替えした際に右膝を捻って倒れ込む。自ら×サインを出してそのまま担架で運ばれてピッチを去る。痛がるそぶりからしても重傷の可能性もある。

ワイドストライカー・井上潮音の役割

 寛也に代わって森田晃樹が投入されたタイミングでヴェルディは選手のポジションが変わる。右ワイドに居た小池が右サイドアタッカー、右サイドアタッカーだった奈良輪が左へ、左SBの理仁がアンカー、潮音が右ワイドへ、晃樹がフロントボランチに入る。おそらくプロ初と思われる潮音の前線での起用にはどのような狙いがあったのか考えてみたい。まず、潮音をアンカーからポジションチェンジした理由として永井監督は『360°の広い視野が確保出来ていなかった』からだと云う。そこで前目に立つことで『時間を確保』して欲しいというメッセージがあった。ここまでは小池が大外に張って、鹿児島最終ラインの横幅を広げてその間を突く狙いがあった。潮音はハーフスペースに居る事が多く、ここで砂森をピン止めさせて大外をサイドアタッカーになった小池に使わせて2対1の状況を作る(晃樹も加わると、牛之濱も下りてきて3対2になる)。

 突然降り始めた大雨、そして劣悪なピッチコンディションに苦しみ、両者ともに思う様にボールを動かしていけずにスコアレスで前半を折り返す。

真打ち・ハンヨンテ登場

 後半立ち上がり、選手を入れ替える。鹿児島は平川に代わって中原秀人、ヴェルディは初出場のカンスイルにかわって佐藤優平がそのまま左ワイドに入る。時折、そのポテンシャルの高さを見せたカンスイルであったが、守備面ではポジショニングや身体の向きなど所々でミスが目立ち改善の必要性を感じた。続けて、鹿児島はストライカー・ハンヨンテを投入する。ヴェルディがこれまでも苦しめられてきたパワー系FWの一人であり前半戦でも苦汁を飲んだこの男の登場で試合は動く。右サイドの低い位置からのスローインを牛之濱がボール奪取して、フリーの枝本へパス、ボールを受けた枝本は落ち着いて流し込み、57分に鹿児島が先制する。前半からサイドを使われてきた小池に対して牛之濱、潮音には砂森がそれぞれのマークすることで時には5バック気味になりながらも役割を明確にして守備を固めて追加点を目指す。

前線で巧みなポストプレーをするハンヨンテへ手数をかけずにロングボールを蹴り込むことも始める。73分、そのポストプレーが起点となり、追加点が入る。左サイドからボールを繋ぎ、PA内で再びハンヨンテが落として、牛之濱が豪快にシュートを放ちネットを揺らす。

変化をつけた河野広貴

 2点ビハインドのヴェルディは負傷した理仁に替えて河野広貴を投入。ここで再び選手のポジションを変更する。広貴が右ワイドに入り、潮音が左に回り、アンカーを優平が務める。広貴は大外に張り、そこからブロックの中へカットインするように中央や左サイドまで切れこむ動きを見せて変化をつける。広貴が入り攻撃の圧を強めることでこれまでは小池をマークしていた牛之濱も最終ラインに吸収されて始めて532気味になり、3の横を晃樹と近藤が効果的に使い始めた。

 85分、右サイドから流れてきて左サイドに開いていた広貴が潮音からのパスを受けてPA内にドリブルで侵入。深く抉ってマイナスのパスにレアンドロがワンタッチで合わせてゴールに流し込んだ。

 同じくアンカーの優平もスペースを見つけては縦横無尽にピッチを駆け回り、反撃に出る。中央でボールを受けると、左に流れるような動きから相手の重心移動を見るや否や、中へ切れ込み、雨で濡れたピッチを活かしたかのような強烈なミドルシュートはGKの前でワンバウンドさせてキャッチ出来ずにそのままゴールへ突き刺さり、ついに同点に追いつく。

 勢いが止まらないヴェルディ。91分に中央の梶川が鹿児島最終ラインの背後に浮き球を入れると、小池が抜け出してクロスを入れる。一度はDFにブロックされるが、こぼれ球を広貴がボレーで合わせると、これがゴールに流れ込んで土壇場で逆転に成功した。

 しかし、このままでは終わらなかった。リスタートから鹿児島が猛攻に出て、前線でボールをキープしようとしたレアンドロが潰されて、そのボールを繋ぎ、萱沼のシュートをハンヨンテが押し込んで93分に同点に追いつかれた。終了間際、自陣ゴール付近でパスを繋いだヴェルディだったが、ボール処理を誤った近藤が相手を倒してPKを与えてしまう。鹿児島サポーターは勝利を信じて雨が降るなかスタンド最前列へ集まる。ヴェルディサポーターは上福元のチャントで絶体絶命のピンチを鼓舞する。勝敗を分けるラストワンプレーのPKは、ハンヨンテが枠を捉えられずに外れ、ここでタイムアップ。残り10分からの目まぐるしい展開は3-3の引き分けに終わった。

まとめ

 2試合無得点の状況でかつシュートも少なかったヴェルディ。この試合も小池のポジションを工夫するなど攻撃の形を作るがフィニッシュまで持ち込むことが出来なかった。瞬くに奪った3点のきっかけになった広貴が見せたようなブロックの中へ強引にでも切れ込んでいくプレーを積極的に行なっていくべきだろう。ワイドアタッカーに潮音を起用するという新しい采配からもサイドで起点を作って崩す考え方は一貫している。優平が務めたアンカーには広い視野を持ち試合をコントロールするというメッセージがあり、各ポジションの要求がだんだんと読み取れ始めた。常日頃から言われているように『相手を見て』戦い、各自の明確な役割のなかで適切な判断を選んでいくことが大事になってくる。