サミダレ町スケッチ 9 遊びの発明
ぼくはいま10歳かそこらだそうだ。周りのやつらもだいたいそのくらいの歳なのだろうと思う。背の高さが似たようなものなのだ。ついでにいえば体格も。いつも食べものがあんまりないから、みんなやせっぽちだ。
今日も昼近くになり、おなかがへった。何人かで連れ立って食べものを盗んでくることにした。
道路をぞろぞろと歩いていく。ぼくたちを避けるやつと避けないやつがいる。避けないやつらはぼくたち同様、汚い身なりをしている。これ以上は汚れないというわけだ。
中央市場には常連として通っている。布でできた低い天井の下、人混みに紛れるのは簡単だ。大人の客の背中にすっと張りつき、客の脇から手を伸ばし、パンなんかをすばやく取る。ときどきは店のやつに見つかって怒鳴られるが、そんなときは「130メートル走」で鍛えた脚で、市場の外まで走っていけばオーケーだ。ぼくたちが追いつかれたことはない。
今日、ぼくはバターロールの詰まった袋を盗めた。ビスケットを盗めたやつもいた。公園のほうまで歩いて行って、草むらに座り、みんなで分けて食べた。
脚が鍛えられる「130メートル走」というのは、ぼくたちのよくやる遊びだ。ぼくたちが住んでいる地域にはバラックが並んでいて、その前にある道の、端から端までがだいたい130メートルで、共用のスニーカーを履いてそこを駆け抜ける。ルールはひとつだけ。全速力で走ること。スタートの合図やら競争やらはどうでもいい。
遊びはまだある。最近ぼくたちがハマっているのは「犬追い」というものだ。犬肉として食えもしないような病気の野良犬を取り囲み、野良犬が逃げたら追いかけて、逆に襲われたら逃げる。すごいスリルだ。何しろ噛まれたら病気が移って死んでしまうだろうから。
最近の遊びでもうひとつ、誰がいい出したことかはわからないが、新しいことをやろうという話になった。きれいな身なりの大人を狙い、後ろをつけていって、背中をみんなでどんと押して倒して一散に逃げるというものだ。
やってみるとやみつきだった。これは愉快だ。倒れた大人は驚きで顔が真っ白になる。地面から顔を上げたとき、何が起きたんだ? という表情をしているのがたまらない。
こうやって大人を襲ったっていいだろう。だって、ぼくたちが汚くてひもじい、ひどい暮らしをしているのは、こいつら大人たちのせいなんじゃないのか?
ねえあんた、それは違うっていえるか。
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