大塚 啓志郎 / 編集者

海とタコと本のまち兵庫県明石市の出版社、ライツ社の代表です。本のこと、編集のこと、料理…

大塚 啓志郎 / 編集者

海とタコと本のまち兵庫県明石市の出版社、ライツ社の代表です。本のこと、編集のこと、料理、子育てについて、書きます。

マガジン

  • ライツ社 航海日誌

    • 38本

    わたしたちライツ社の挑戦自体が、出版業界の明るいニュースになればと思っています。このマガジンではライツ社の普段の活動から、印象的なトピックスを公開していきます。「本」に関わるお仕事をさせている方に向けた、ちょっと専門的なお話です。

最近の記事

祖父が亡くなる3日前のハイタッチ

祖父が今朝亡くなった。東京へ出張に来ていて、ホテルの部屋で一報を聞いた。いま飛行機で家に帰ろうしている。 3日前、老人ホームにいる祖父に会いにいった。チアノーゼになったからもうそろそろ...ひ孫の顔を見せてあげて、と父から連絡を受けたからだ。子どもたち2人と妻と一緒に、会いにいった。 何ヶ月かに一度会いにいっていたけれど、もう喋れなくなっていった。部屋に入っても目をつむって眠っている。耳はよく聞こえていた祖父だったから、おじいちゃん、と声をかけると目を覚ました。じっとこち

    • 1億総編集者という時代の中で

      「1億総編集者」という見出しをメディアで見た。 なるほど、と思った。「1億総カメラマン」というのはよく聞くけど、編集、と聞くと確かになと思った。あふれる「まとめ記事」もそうだし、「楽天ROOM」なんかもそうだし、好きなアカウントをまとめる「twitter」や「instagram」なんて、もはや自分専用の雑誌みたいなものだ。好きなもので身の回りがあふれる暮らしは、素晴らしい。その環境を自分でつくれるなんて、最高だ。 いい時代になった。みんなが編集しながら生きる時代になった。

      • 年間400冊の絵本を読む息子は、どうやって本を選んでいるのか、一度振り返って観察してみた

        ぼくが暮らす明石市には、「子育て支援センター」という小さな子どもの遊び場がある。そこには、子ども用の小さな図書室も併設されており、毎週末、3歳の息子と絵本を借りにいくのが我が家の習慣だ。 この図書室では、1人につきカード1枚が発行され、1枚で2冊、本を借りられる。ぼくの家族は4人なので、4枚×2冊で8冊。毎週末借りにいくので、年間で計算すると52週×8冊で416冊。借りた絵本だけでも、ざっと400冊以上の絵本を、息子は読んでいることになる。 大きな図書館だとそもそも絵本が

        • やがて「不完全な世界」を生きることになるなら、「間違いだらけの絵本」をつくりたい

          年が明けた。 3歳の息子は、正月休みの間にトトロを4回も見た。ハマっている。まだ絵本も一人ではうまく読めない子どもを、1時間集中させられるジブリは本当にすごい。 そして、息子が生まれてから「絵本をつくりたいなあ」と思い始めて、はや3年が経つことを思う。まだつくれていない。少し、焦っている。 絵本というジャンルは「昔のものがずっと売れる棚」だから新規参入のハードルはとても高い(親の目線になってみても、そりゃできればずっと売れてる安心できる絵本を読ませたいもの)ので、手が出せ

        祖父が亡くなる3日前のハイタッチ

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          38本

        記事

          編集者は、「できれば著者と一生を添い遂げたい」と思う生き物である。

          やっとこのnoteが書ける。 ーー書きたくても書けなかった。いろいろな事情があって、書いたらいけなかった。 11月9日に、ライツ社より新刊『この世界で死ぬまでにしたいこと2000』が出ます。著者は、世界でいちばん旅が好きな会社「TABIPPO」です。 このnoteは、そのTABIPPOに宛てた、いち編集者の私信です。 2012年TABIPPOとの出会いは、2012年。前職で、初めての旅の本『僕が旅に出る理由』を出版したあとのことだった。 「僕たちのイベントに本を提供し

          編集者は、「できれば著者と一生を添い遂げたい」と思う生き物である。

          会社を辞めて2年が経って、前職の先輩と初めて商談したときのこと。

          ぼくが前職を辞めて数ヶ月後に、同じように退職して、別の雑貨メーカーに転職した先輩がいた。 当時ぼくは出版部門の事業部長で、その先輩は雑貨部門の事業部長。事業部長(もしくは同等)の役職を担っていたのは6人だけだったので、数少ない同じ立場で苦楽を共有できる人だった。 今日、その先輩の会社に初めて事業提案に行った。辞めてから、前職の同僚と一緒に大きな仕事をするのは初めてのことだ。 緊張していた。 でも先輩は、ぼくの提案をすぐに聞き入れてくれて、今後の流れまで明確に示してくれ

          会社を辞めて2年が経って、前職の先輩と初めて商談したときのこと。

          家族との時間を増やすために起業した

          独立してから、よく聞かれた。「なぜ起業したんですか?」「これからの展望は?」 「出版業界を変えたいから」「人生を変える本をつくりたいから」。いろいろある。でも、なんというか、こういった理由は表向きの回答でしかないような気がする。 決まって最後に僕はこう言い直していた。「でも結局は、家族との時間を増やしたかったからですかね」と。 出版業界はイメージ通りの過酷さだ。 日をまたぐなんて当たり前だし、入稿前はどうしても徹夜になってしまう。土日もない。ぼく自身も前職では、わざわ

          家族との時間を増やすために起業した

          会社を辞めて2年が経って、結婚式で前職の社長に会ったときのこと。

          前職の出版社を退社したのが2016年8月。そして、独立したのが9月。あれから2年が経った。 先週末、前職時代の後輩の結婚式に呼んでもらい、行った。そこには懐かしい後輩の面々がいた。そしてもちろん、社長もいた。 受付前、ぼくがエレベーターを待っていると、後ろから「ワッ」と驚かされた。社長だった。 式が始まった。細やかな気配りが特徴だった彼女らしい、丁寧できちんとした、とても良い結婚式だった。 招待状が届く前、彼女と食事をしたとき、言われた。「先輩は絶対来てほしいんですけ

          会社を辞めて2年が経って、結婚式で前職の社長に会ったときのこと。

          故郷を離れて、東京で生きることを決めた人に贈りたい「東京ガイド」

          3月が終わり、4月になりました。別れの季節が終わって、出会いの季節になります。 その変わり目の中で、故郷を離れて、東京の街で生きることを決めた人がたくさんいると思います。そんな人たちを応援したい、という気持ちで新しい東京のガイドブックをつくりました。 ガイドブック、と聞くと旅行にいくときに買うもの、というイメージがありますが、今回はそれがいちばんの目的ではありません。 この本は、故郷を離れて、1年365日を東京で暮らす人のためのガイドブックです。 ガイドにはめずらしく、こ

          故郷を離れて、東京で生きることを決めた人に贈りたい「東京ガイド」

          『弱さに一瞬で打ち勝つ無敵の言葉 超訳ベンジャミン・フランクリン』

          『弱さに一瞬で打ち勝つ無敵の言葉 超訳ベンジャミン・フランクリン』   基本的に、本をつくるなら、できるだけ「日本で初めて」と言える部分を持った本をつくりたいと思っています。今回の本は「世界最古の名言集」を日本で初めて超訳した一冊です。ベンジャミン・フランクリンとは、100ドル札にその肖像画が描かれている「アメリカ建国の父」です。 今日はこの本の紹介と、それより何より、編訳をしていただいた青木仁志さんという人物の偉大さと感謝をここに書きたいと思います。 まずは少しだけ本の

          『弱さに一瞬で打ち勝つ無敵の言葉 超訳ベンジャミン・フランクリン』

          「満足しないままの自分でいるより、いい方向になのか、悪い方向になのか、わからないけど、変われた方がきっとマシだ。」

          (会社のHPには、本一冊に対する誰にも伝わらない細かいこだわりや、著者への半分恋をしているかのような私的な想いは書けないので、個人的にnoteに書いてみるという試みです) こんばんは。ライツ社の大塚です。9月29日、ライツ社の新しい本が出版されました。 『人生を狂わす名著50』著:三宅香帆 まずは、本の簡単な紹介をします。 著者は23歳。現役の京大院生。文学研究をするかたわら、京都天狼院で書店員として働く文学マニアの女の子です。この本は、『京大院生の書店スタッフが「正

          「満足しないままの自分でいるより、いい方向になのか、悪い方向になのか、わからないけど、変われた方がきっとマシだ。」