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ヴィーナス誕生

その絵の前に立ったとき、全身に勢い強く風がぶわっと吹き抜けた。

こんな感覚は初めてだった。今までに沢山の絵を観てきたけれど、静的である絵から、動的な体感を得たのは、ボッティチェッリの『ヴィーナス誕生』だけ。あまりの迫力に、しばらく絵の前から動き出すことができなかった。


ルネサンス時代のこの作品は歴史的背景からして大きな意味を持つ。

フランス語で「再生」を意味するルネサンス。古代ギリシャ・ローマ時代の思想が復興したことを指す。

ボッティチェッリは、メディチ家をパトロンとし、メディチ家が主宰するネオプラトニズムのサークルでその思想を勉強し、この作品を完成させた。

当時のイタリアにおいて、ネオプラトニズムにどういった意味があったのか。それは政治的な意味合いが強い。メディチ家を始めとした組合(ギルド)によって、君主と教会の支配からの脱却を図ろうとしていた。

中世のイタリアを実質的に運営していたのは、金融業や繊維業を筆頭とした主要産業の組合(ギルド)からなるグループで、話し合いによって都市国家を運営していた。彼らは手本として共和政ローマを学び、そして古代ギリシャ・ローマの文化と思想を取り込んだ。

それまで、中世キリスト教によって人間は卑しい存在だと考えられてきたが、古代ギリシャ・ローマの文化によって、人間の尊重、地位向上が図られた。当時の思想の変化がありありと見て取れるルネサンス期の作品に、私はとても勇気をもらえる。人間が、人間らしく表現することに。

特に、このボッティチェッリの「ヴィーナス誕生」は、高い表現力、技術力だけでなく、類稀なる知性によって激動のルネサンス期のスタートを美しく切ったことに、非常に魅了される。



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