シャドウ・オア/アンド・ムーン

「…………」父か母であろう、背の高いノイズが何かを話す。
背の低いノイズ…兄弟か姉妹?は蠢く。
それは何気ないある日だったのだろう。残された記憶の断片。
恐らくはその日、私は全ての記憶を忘れ、全ての記録から忘れられた。

あれから体は成長しなかった。それすらも忘れてしまったかのように。
記憶は未だに消え続ける。一昨日の記憶も怪しい。もう慣れた。
一昨日を忘れるのならば、昨日の内に全てを再確認すればいいだけだ。
良い事もあった。全て忘れられる。恐怖も罪悪感も。死に顔も断末魔も。

心臓に突き立てたナイフを引き抜く。男の罪は何だったか。どうでもいい。
いつも通りだ。いつも通り殺し、金を貰い、眠り、忘れる。それだけ。
…そのはずだった。

あの夜、あの清廉ぶった修道女に見つからなければ。
あの女が、何故か私に気付けなければ。

【続く】

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