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2019 ヨルダン渡航記 PART③「難民にとってのWell being “幸福”とは?」

>海外、というか非日常的な空間が大好きな自分ですが、人気の地域に友達と行って観光や買い物を楽しむ!といったようないわゆる“王道的な”渡航はあまりしたことがありません。正直うらやましくも思いますが。それどこやねん!っていう土地に1人で飛び込み、教育や報道などその土地で必要とされる方法で貢献しながら、そこで暮らしを営む現地の人と一緒に過ごす。そんな生活で見られる何気ない街の風景やキラキラした人々の笑顔が美しいことといったら!好奇心が満たされ、写真に写る自分はいつもとびっきりの笑顔。帰るころには仲間も思い出もたくさん抱えて、心が豊かになった状態になります。これが自分にとってのWell beingな瞬間です。前置きが長くなりましたが、今回のテーマがそのwell beingです。ある程度の暮らしができるようになれば人道支援は終わりですか?難民も他の人たちと同じように生きがいや幸せを求めてはいけませんか?その問いを探っていきます。

 難民はあくまで一時的に①国内②隣国③離れた第三国の比較的安全な場所で保護され、事態が収まれば元の場所へ戻れるようにするべきだと定義づけられているし、特別なケースを除きそれが基本形であるべきという認識は皆が共有しているところだ。しかし今回のヨルダンのケースでは、帰る土地がそもそもない(パレスチナ)であったり、不安定な状態が続いて帰れない(シリア)といった事情で問題の長期化が進んでいる。パレスチナ難民を支援するUNRWAは当初3年間の期間限定の機関といわれていたのにも関わらず、いまや70年の歴史を持つ。国家予算の4分の1が難民に使われ、公共機関のキャパシティーや治安の不安などの問題が山積している状況は、ヨルダン国民の不満がいつ爆発してもおかしくない状況といって差し支えないだろう。西欧諸国からすると遠く離れて文化も違う西欧に難民が来るよりも、文化や言葉も近い隣国に逃れた方が難民の精神的・身体的にもよいという考え方を持っているが、お金や物資の支援だけでは難民にとっても限界が近づいているのかもしれない。

 そんな中政府主導で現在進められているのが「ヨルダン・コンパクト」だ。政治・経済活動・個人の幸福の追求を円滑に回していくべく、支援を効率的に管理しフレームワークを通じてヨルダン国の能力強化へとアプローチしていくのが狙いとなっている。その中で重要となってくるのがNGOの役割だ。公的機関の限られた予算・人員をカバーし、難民たちの自立を支援するにはさまざまな分野の専門家とニーズに合わせた細かな支援が必要になるからだ。今回の訪問ではWorld Vision, Teenah, Ruwwadなど9つの団体を訪問してそれぞれのターゲットやプロジェクトについて話を聞くことができたのでテーマにあわせていくつか紹介していく。

 まず政治的に解決しなければならないのが雇用の問題だ。ヨルダンでは30歳以下の若者の失業率が30%を超えており、優秀な人材の海外流出やミスマッチングが社会問題となっている。そこで難民問題という考え方でなく1つの国内問題として各国の支援を受けることで国力をつけ、それが難民への政策にもつながるという考え方が生まれ、支援のターゲットがヨルダン国民を含むようになった。既存の民間企業の98%は中小企業で、1人以上の従業員を持つ会社は全体の0.4%に過ぎないことを変えるべく、今年新たに起業家の育成やスタートアップのサポートを行う省庁を設置した。非資源国だからこその知識型経済の成長を掲げてIT分野やインフラ分野を中心に生産主管部門での雇用創出を目指している。NGOの一つ、World Visionを例に挙げる。事業としては主に海外企業と協力して水道設備や発電所の建設、ごみの再利用処理システムの構築などを行い、それらを通して人々の知識量に合わせた雇用を生み出している。それらが今後自立して増え続ける雇用を吸収でき、国のニーズに合った産業になるよう、プロジェクトの始まりと終わりを意識しながら持続的な援助になるように毎日考えているとインタビューの中で答えてくれた。

 次の経済活動の主なターゲットは難民だ。キャンプ内での雇用は一時的なものが多く、就労許可を得たは全体の20%に過ぎず、さらにセクターが限られている。女性の雇用はほとんどなく、不法労働も多いようだ。そういった現状を打破し、難民自身による自立促進と将来の帰還後の生活も見据えた経済活動が営めるように取り組まれているのが、NGOによる若者への職業訓練・女性へのスキル研修だ。Teenahを例にとると、難民女性を働き手として中東の伝統的な刺繍文化を取り込んだブランド品を創出し、海外をターゲットに商品を展開している。そのほか、キャンプ内に職業安定所や託児所ができたり、よりスキルや経験が生かせるようにボランティア活動やインターンシップをあっせんすることによる支援も行われている。

 3つ目の個人の幸福の追求は最も重要で、かつ最も多様化して難しい課題の一つだ。上の例のように働くこと、自分が社会のために役立っていること、個人として尊重され自分の能力が存分に生かされていることも重要なポイントであるといえる。一緒に渡航したメンバーの中で話し合ったときにでた自分たちにとっての幸福は愛・希望・生きがいの3つで、子供ってその3つがすべてそろっているから宝物なんだろうななんて話も出た。話をまとめると、「社会への参加権や当事者意識を持ち、自分らしくいきていける環境」が幸福の追求に重要で、それらは人から与えられるだけ(キャンプ内の生活)では得ることが難しいということだ。ここでは子供たちに放課後教育の場を提供しているRuwwadを紹介する。2部制で副教科教育や学校行事を行う余裕がない学校に通う難民の子供たちにとって、スポーツや芸術、キャリアについて考える道徳的な時間はとても貴重で、多くの子供たちがモチベーション高く参加していた。学校と家庭以外に3つめのコミュニティーを持つことは、子供たちの人間関係や社会性にとっても重要な要素だ。それらは本来公教育で提供されるべきなのだが、優先順位や問題解決のためにやむを得ない事情もあり、そういった公共政策の手の届かない点をサポートするのがNGOの役目であり強み、存在意義なのではないかと思う。職員の方も「本来ないのがベストなのかもしれないが、政策に隙間があったりセーフティーネットからこぼれそうな子供がいる限りは続けていきたいし続けなければならない使命感がある」とおっしゃっていた。

 ここまで見てきてわかるように、難民問題の1つ1つを見ていくとよくある国内問題の集合体であり、幸福の追求はどこに暮らす人にとっても難しい課題だ。ここには取り上げられなかったNGOでは保健やジェンダーの分野に踏み込み、公的支援からあふれた、またサポートしきれていない部分をカバーすべく素敵な活動を行っていた。そうした、目立たなくてもしっかりと現地の人々に必要とされ、信頼をつかみ、役に立っている人たちや組織を知っていく、紹介していくのもジャーナリストの役割であり醍醐味なのかもしれない。

>今回も長文を読んでくださりありがとうございます。今回特に思ったのは国際協力、とくに人道支援の現場は国際機関やNGO、政府が必死になって考え、世界中から頭の切れる人たちが派遣されてトライ&エラーを繰り返しながら前進している世界なんだなということです。そんな強くてたくましい人たちと時間を共有することで、自分も彼らの仲間入りをしたかのような気分になり、未来へのモチベーションとなっています。次回は国際機関の役割と働いている人の生きざまに迫ります。

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