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2019 ヨルダン渡航記 PART①「日本にとって中東という地域がなぜ重要なのか」

 >昨年の南米以来となる、久々のField視察。今年のテーマは学生時代あまり触れてこなかった、というか複雑すぎて手を付けなかった平和構築・人道支援です。SWY(Ship for World Youth)の国際協力コースで議論してみて、もっと深く知りたい、知らなきゃと思ったことがきっかけでした。今回使ったのは国連フォーラムのスタディプログラムで、国際協力に関心のある社会人を中心としたメンバーと1年間活動します。ロールモデルと呼べる人たちと出会えて技を盗めるし、国際協力との距離感を保てるし一石二鳥ですね!前置きが長くなりましたが、本題に入ります!PART①は大使館・JICA等、政府系機関訪問の際の仮説と検証結果、気づきについてです!

 成田空港から飛行機で12時間かけてイスタンブールへ、そこからさらに乗り継いでプラス2時間。ヨルダンの首都アンマンは、地図上で見るよりもはるかに「時間距離」の遠い場所だった。近年日本でも“アラブの春”や“シリア内戦”など中東地域のニュースが報道されたが、その距離はもちろん、文化的な親近感や当事者意識を感じられることは少なく、学生だった私は当時そこまで高い関心を持っていなかった。おそらくそれが多数派だろう。

 一方で米国や欧州への留学中は彼らの中東問題に対する関心の高さに驚いた。米国ではイスラエルにルーツを持つ“ユダヤ系”が経済活動の中で大きな力を持っているほか、9.11の衝撃、キリスト教も含めて宗教的に重要な地が存在することなどが主な理由だと政治学の先生から聞いたことがある。また欧州はそもそもの距離が近く難民流入問題を抱えているため、中東和平は市民も関心が高い。イスラム教を信仰する人々の割合が増えていることも中東に関する関心を後押ししているだろう。日本で得ることができる中東のニュースも、BBCやCNNなど、あくまで“欧米目線”のメディアによる情報が多いことからもこの傾向は感じられるのではないだろうか。

 ここで浮かび上がる疑問が、冒頭の問いかけの「なぜ中東問題が日本にとって重要なのか」という問題だ。難民問題をリードする国連機関UNHCRへの日本の拠出金はおよそ1年で70億円、パレスチナ問題をリードするUNRWAへの拠出金はおよそ1年で18億円とかなり高額である。協力隊としての派遣人数も現在の派遣が28名(ヨルダン・19年現在)でその数は年々増えている。これらの数字と重要度が自分の中で釣り合わないので、その答えを探すべく渡航初日の午前中、日本大使館とJICA事務所でインタビューを行った。

 そこで見えてきたのが、「難民問題は決して特別な問題ではなく、世界のどこででも起こりうる問題の集合体に過ぎない」という視点だ。ヨルダンではシリア・パレスチナ難民への支援が緊急性のあるフェーズ1からより中長期的なサポートが求められるフェーズ2へと段階が進んでいるところがほとんどである。彼らの抱える問題も、雇用問題・生活習慣病対策・ルーツの違う人たちとの共存問題など、より一般的なものとなり、それに伴って関われるアクターも多様化しているのだ。日本の貧困問題・難民問題が抱える問題とも似たところがある。

 もともとヨルダンはアラブ諸国の中でも「世渡り上手な国」として知られている。対内的には、第二次世界大戦後のイスラエル建国に伴って発生したパレスチナ難民を受け入れ、王族・元からいたトランスヨルダン人・パレスチナ難民の3つのグループに対して国王の下効果的な政策を出すことで、国民の不満を解消し忠誠心を促進してきた歴史がある。アラブの春で反王政・独裁の流れが起こった際も、法改正などの素早い対応と国際機関の支援によってうまく立ち回った。対外的にもスンニ派・シーア派のイスラム教における両派閥の国との関係を保ちつつ、周囲で反欧米の機運が高まる中でもアメリカ・EU諸国との関係も強固なものにしていくなど、中東における仲介者としての地位・信頼を確立していった。ちなみに日本への現ヨルダン国王の訪問数は2桁にのぼっており、全首長の中でトップだ。パレスチナ・イラク・シリア・イスラエルなどの国・地域に囲まれ、天然資源がなく、地理的に恵まれない土地柄だからこそ、自国の強みと弱みを理解した戦略的な政策でどの国・どの国民から見ても「倒れては困る」と思わせる役割を果たして生き残ってきたのかもしれない。まさに日本の目指すべき姿だ。

 このような背景から、日本とヨルダンは2018年から「戦略的パートナーシップ」を結んでおり、ヨルダンに地域事務所を置いている多くの国連機関と同様、ヨルダンの持つバランス力と治安の安定性を評価して対中東諸国政策の中心と位置付けている。それが中東諸国の中からヨルダンへの渡航を選んだ一番の理由だ。対外援助をする上での一般的な4つの目的(①人間としての道理的理由②その地域の平和や安定が回りまわって自国の利益になるという間接的理由③ダイレクトに自国の利益につながる直接的理由④SDGsや国連憲章・条約等の全体ゴールの達成に向けた共通的理由)の中で、今までは化石燃料確保のための②の目的が対中東諸国では大きかったのに対し、これからはスタートアップ分野・IT分野・インフラ分野を中心に③の目的を二国間援助で支援していく流れが鮮明になったのだ。

 アメリカファーストを掲げるトランプ政権やイギリスのEU脱退などのニュースが目立つ中、日本の国際協力も「ODA大綱」から「開発協力大綱」へと改定され、以前よりも「国民への国益」や「有償・技術支援の強化」を意識したものへと変化している。多国間援助や無償資金協力などのお金による支援だけでなく、ODAを通じて民間やNGOを含めたALL JAPANとしてヨルダン・そして中東地域の課題解決に取り組んでいくことがまず1つ重要になる。さらに、中東の抱える問題においてヨルダン政府や国際機関が実行している解決策を日本の貧困問題・難民問題に生かすべく、自分事としてとらえ解決へと導ける人材を育成することも取り組むべき課題の一つで、国際協力を双方向に行う理想の形になるかもしれない。それが大綱改定やパートナーシップ締結に込められた日本政府のメッセージであり、日本にとって中東地域が重要になってきていることを示しているのではないだろうか。

※本文は個人的な理解や意見を書いたものです!

 >長文、読んでいただきありがとうございました。訪問先の性質上固い話になってしまいましたが、次回からはより現場の声を載せていきます。インタビューさせていただいた皆さん、ありがとうございました。次回PART②は実際の難民キャンプの取材でみえた各キャンプの現在地、PART③は長期化する難民滞在とWell Beingの観点から見たNGOの役割、PART④では国際機関の政策から見た人道支援の未来について書きます!お楽しみに!

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