心象の旅

心象たちはいつからか自身と同じ心象を求める旅に出た。
物理法則の箱の中で電気信号を使って別の心象を探し求めた。
結論から言って、旅をしても全く同じ心象に出会えることは無かった。
あるものは、「出会えなかった」と電気信号をかき乱し「涙」という何か透明なものを流した。いつからかこの心象は「孤独」と名付けられた。
全く同じ心象と出会えずとも、心地よい心象と電気信号を交わし続けたものは、その少しの間「涙」を流さなかった。

この世界にはもう一つの不思議があった。
心象が備えた「肉体」と呼ばれる何かがそれであり、例えばこの世界との壁の役割も果たしていた。その「肉体」は個々に「型」を持っていた。
「型」は、もともとは単純なピースからなるが、組み合わせの多様により全く同じものは一つとしてなかった。
「型」は選ぼうとして選べるものではなく、心象が現れたときから、或いは、現れる以前から、オートマチックな物理法則により形作られていた。

ある心象は己れの「型」が気に入らないと言い、ある心象はお前の「型」は醜いと言い、ある心象は気に入った「型」を見つけては焦がれ、ある心象は「時」と呼ばれるこの世界の絶対法則の中で変化していく己れの「型」に絶望を抱いた。「型」はこれ程までに、心象自身に作用した。そしてまたその心象が「型」に作用した。

この「型」は、新たな「型」を作り出す機能の「半分」を備えていた。
そして、新たな「型」を作り出すには、別のもう一つの心象が保有する「型」の「半分」が必要だった。

幸運な二つの心象は、二つの「型」の嵌合を試みた。結果、新たな「型」が作り出されたかどうかは、例え二つの心象がいかに近しいものであっても、「型」と「時」の宿命に従うしかなかった。心象の中には、新たな心象を宿る新たな「型」を作ることを諦め、かわりの「何か」を見つけてその心象を捧げるものもいた。時に、二つの「型」から、二つの「型」の半分ずつを材料に新しい「型」が生まれ、新しい「型」に新しい心象が宿った。世界に「産声」という電気信号をあげて。
新たな「型」はやがて次の新たな「型」を作り出す能力を半分持ち、この営みは、永遠に続くかのように思われた。

物理法則の気まぐれにより、新しい心象が引き継いだオリジナルの「型」の半分さえ、どんな組み合わせになるかは選ぶこともできず、新たな心象は、オリジナルと同じような心象を抱くこともあれば、全く違う心象を抱くこともあった。

こうしてやはり、ひとつの心象にとって、全く同じ心象は、世界に一つも現れることは無かった。

それでもある心象は新たな心象を育むためにその心象を捧げた。

別のある心象は新たな心象をただの己れの心象の写しと捉えた。摂理を知らずして。
それを見てある心象が静かに言った。
(同じ心象に会いたい「孤独」がそうさせたのさ。)

全ての心象にとって平等なことの一つは、不変の物理法則の箱の中で、そして「型」の宿命の中で、その心象がいかに「在る」べきか、「選び」続けることだった。
その心象の営みを、いつからか「生」と呼ぶものがいた。
そして、全ての心象にとって平等なもう一つの「事柄」を「死」と呼んだ。「死」を前に、心象は心象自身が知りえないところへ行くのだと囁かれた。

ある心象が言った。
(「生」と「死」どこが違うんだい?)
ある心象が言った。
(さあてね。ひとつだけ確かなことは、「死」は「生」の次にやって来るってことさ。)

この営みをやはり「孤独」と思う心象は、「孤独」そのものになった。
それでも、「孤独」の心象の片隅に、暖かい心象を宿すものが確かにいた。
少し暖かい心象は、時に、この世界に広がりを持つことができた。
いつしかこの心象を「愛」と呼ぶものがいた。

ある心象が言った。
(全ての心象は心象次第さ。)

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