そして彼女はあだ名も付けない

深夜のコンビニに入店する時、ほんのちょっとだけ緊張する。強盗がいたら…とか、こんな小汚い格好で思わぬ知り合いに出くわしたら…とか、毎週日曜深夜のほぼ同じ時間に入荷したての少年ジャンプと週刊プレイボーイ買いに来てるから店員に影で「集英社」とかあだ名付けられてるのでは…とか、そういうことではなく。

まず、24時間営業というのが大きいんじゃないか。24時間365日稼働し続けるものと言えば、自然、社会、人体、時計あたりが思い浮かぶ。錚々たる顔ぶれだ。24時間営業の店は、稼働しながら常時メンテナンスを繰り返す、もはや生き物みたいな凄みがある。しかも、その中に自分が体ごと入っていくのだ。羊水の中以来じゃないか、そんなの。

すると、コンビニっていうのは一番身近な体内に入れる生き物かもしれない。周りがほとんど機能を停止してる深夜には、なおさらそれが際立つ。お気に入りの商品が無くなったり、何となく顔を覚えていた店員さんがふといなくなったりしつつも、全体としては機能を保ったまま、毎週何の支障もなく同じ雑誌の新しい号を売ってくれる。日曜の真夜中にほろ酔いでジャンプを買いに来る奴に「少年じゃねえだろ」などということは言わない。代金を栄養として摂取できればいい。

そして、そのレジにもう何年も同じ人が立っていて、かったるそうにもせず、腐った様子もなく、むしろテキパキと、妙に生き生きと効率的に仕事をしていて、それでいて店長とかでもなさそうだったとすれば、なるほど確かにそれはこういう人かもしれない。1日2ページずつくらい、ゆっっくり読み進めてた「コンビニ人間」を読み終わった。

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