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私のイラストのタッチの変遷の話

最近では作者のクレジットがない状態でも、絵を見て「これは一束さんが描かれたんですよね」と言っていただけることが増えてきました。
「一束さんらしい」「一束さんの個性がある」とも。

まさにそういうものを手に入れたくて試行錯誤を繰り返していたので、やっと目的地の一つ目に辿り着けたようでとてもありがたいです。

ところで最近、Twitterで「#画力ビフォーアフター」というタグが流行りました。


数年前の絵とその後の絵を比べて、画力の変遷を垣間見るタグですね。これ色々な方の絵の変化が見て取れて面白いです。

自分自身も、改めて過去の作品と比較すると、画力はもちろんなんですが、画風がそもそも違っていたんだなぁと改めて実感したりして。

「一束さんらしい」と言っていただける自分の絵は、一体いつからそれらしくなっていったんだろう。
ふとそんなことを考えたので、この記事で今の画風に至るまでの色々をまとめてみました。

イラストレーターを志した初期(2011〜2012年頃)

私がイラストレーターを志した2011年頃は、今と違ってゆるいタッチで絵を描いていました。

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小さい頃から絵を描くのが好きで、漫画やゲームのキャラクターだったり、オリジナルキャラクターをデザインして描いたりしている子どもでした。なのでずっと、どちらかというと少年漫画っぽい絵(ちょっと定義が曖昧ですが)を描いていたんです。

が。

いざイラストレーターとして活動するとなると、いわゆる漫画やアニメっぽい絵はライバルが多すぎて敷居が高く、自分が割り込める気がしなかったこと。加えて、単純に個人的な趣味趣向から、教科書や児童書・チラシのカットなどで使われるような、ほのぼのとして汎用性の高い絵を描こうと考え、

・親しみやすく
・愛らしく
・毒がない

これらを原則に、日常の出来事を絵日記にしてブログを書いたりしていました。

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2011〜2012年頃のブログのイラスト。当時は筆っぽいペンで絵手紙風の絵を描いてました。

ふとある時、当時描いていたほのぼのとしたタッチと、これまで趣味で描いていた漫画っぽいタッチをうまく掛け合わせられないかなぁと思い立ちます。

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2012年の春頃に描いたイラスト。あまり目が漫画的になりすぎないように小さめに描こうとしたような覚えが。

ほのぼのタッチがどこに残っているのか若干の疑問はありますが、この絵を描いた時になんとなく、この方向でいいんじゃないかな…?と手応えのようなものを感じた記憶があります。

そして夏に参加したとある作品展で、絵を見てくださった方から「センスがある」との言葉をいただいたのが励みになり、絵の方向性が確定したように思います。

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2012年の夏に作品展に参加した際のイラスト。

ただ、当時は、ゲームのUIやWEBサイトのデザインなどでもフラットデザインは少数派で、絵を見た知り合いに「これはどういうものに使われる絵なの?」と聞かれても答えに詰まることが多かったです。自分でもわかってなかったので…。

自分を活かす方向を探し続けた時期(2013〜2015年)

2013年、イラストレーターの中村佑介さんが教科書の表紙を描かれたと知りました。中村さんのイラストは、スタイリッシュでオシャレ!そのもので、自分の知る教科書のイメージにはなかったので、なかなかの衝撃を受けました。

いいなぁ、好きだなぁ。自分もそんな教科書を使いたかったなぁ。
それにこういうイラストも、教科書に使われることがあるんだな。

と目から鱗が。

相変わらず自分の売り込み先は分かっていなかったんですが、漠然と可能性の広がりを感じて、思い切ってクリエイターEXPOに出展することにしました。

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クリエイターEXPOのメインビジュアル(2015年)。

結果的に、これがとても良かったです。

イラストを見た企業の方々が声をかけてくださるので、自分では思いもよらなかった案件に「使いたい」と言っていただけたり。また、プロのクリエイターが多く集う場で目に留めていただけたという自信にも繋がりました。

反面、当時流行の絵柄はグランブルーファンタジーのような、ざっくりとした筆遣いの味わいが残るアナログ感のあるものが中心でした。
私はまさに真逆の道を進んでいたので、「これじゃ使い所がないよ」「売れないよ」と言われることもしばしば…。

だけど、流行は変化するし、今とは違うタッチのものを求められた時に、ライバルが少ない方が生き残りの確率が上がるのでは?
もしくは、流行と違うからこそ目立つことができるのでは?

そう考えて、このまま突き進むことに。
でもこう思えたのは、クリエイターEXPOで少なからず手応えを感じられたからだったと思います。そうじゃなかったら流行を追って方向転換してたかも…。

ただ、この頃からずっと悩んでいたのが、色使いでした。
自分の描いたイラストを、単品で見る分には構わないんですが、他の方の作品と並べると目立たないのです。妙に埋もれちゃう。

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桜Exibition2015に出展した作品。気に入っていましたが、他の華やかな作品に囲まれるとちょっと見つけにくかった…。

書店に並んだ時に、他の本より目立たない表紙なんて需要がありませんよね…。これは長らくの課題になりました。

とにかく量をこなした一次成長期(2016年)

イラストレーターとしてまとまったお仕事をいただけるようになったのは、2016年頃からです。
転機になったのが、NHK出版様の「基礎英語2」のメインイラストを担当させていただいたこと。1年間自分の描いた絵が全国の書店に並ぶという…今思い返しても、なんとありがたいきっかけだったのか…。

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2016年度版基礎英語2の4月号から。表紙以外は2色刷りでした。

本編は2色刷りだったんですが、グラデーションは極力使わず、カラー時のフラット感を保てるようにトーン処理で濃淡を表すようにしようと考えました。これは漫画にも影響を受けてると思います。

人物以外の小物なども描く機会が多くて、線画で適切に描くことをしっかり勉強できる機会になりました。小物とか背景とか。実践って一番身につくよね…!

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「基礎英語2」から。背景を細部まで描き込むように。

この頃は、いかにクオリティを落とさずに早く描けるようになるかに心血を注いでいたので、画風どうこう悩む暇はなかったように思います。
今の画風を評価してご依頼いただけたのだから、ひたすらそれに応えようとだけしてました。

描き込みとデフォルメのバランスを模索(2017年〜)

2017年になると、大阪の阪神百貨店で「ガールズアートコレクション」なるイラストの展示販売イベントが開催されるようになりました(2019年までの3回で終了)。

実は私には作家の知り合いがほとんどいなかったのですが、このイベントを機に交流が持てるようになったり、他の作家さんの作品を身近で見る機会が増えて、すごく勉強になりました。

私はずっとデジタルでしか描いていないんですが、アナログであれデジタルであれ、他人の技を見るっていうのは、本当に刺激になるし勉強になるよね…!

そして色々な作家さんの作品を見て回っている中で、上手い人はみんな丁寧なんだと気付きます。
(絵のタッチがラフだったとしても、いい加減に適当に描いてるんじゃなくて、ある種の丁寧さ、妥協のなさがある)(と個人的には感じてる)

例えば、「Dr.スランプ アラレちゃん」も、登場人物は頭身が低めにデフォルメされているけど、メカとか靴紐とか服の金具とかは省略されずにきっちり描かれてたりするんですよね。

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靴底や靴紐、ドリンクの色など細かいところまで意識して描くように。

あとは兼ねてからの課題だった色使い。自分の画風の方向性を保ちつつ、見栄えのする塗り方を、いろんな作家さんの作品を見ながら試行錯誤していました。

なんでそこにそんな色使うの…?それをその色で塗ろうと思ったのはなんでなの…?と困惑しつつ、配色アイデア帳やフラワーアレンジメントの本を買って色の組み合わせを参考にしたり。

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これまではシンプルでマットな質感の塗り方だったのが、ハイライトや差し色を使うようになってきた。

また、2017年はLive2Dとの出会いもありました。
「Live2D」は一枚のイラストをアニメーションのように動かす事ができる技術なんですが、この出会いのおかげで、2Dの絵も「静止画」ではなく「連続した動きの内のワンシーン」と捉えられるようになりました。

Live2D Creative Awards 2017でグランプリをいただいた作品。

Live2Dで何が衝撃だったかというと、自分の絵が自分の想像を超えた表情や仕草をすることがあることです。

それまでは割と無表情な女の子を描く事が多かったんですが、Live2Dを使うようになってからは、表情や仕草が豊かになったように思います。
自分の作ったモデルの表情を参考にしてまた絵を描くという不思議なサイクル…。

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2018年になると、背景はしっかり描き込むというより、メインの人物を引き立たせるために馴染ませるようになってきます。

即売会や展示会に出展して、初見の方に足を止めてもらう事が増えたのはこの頃からかもしれません。(あれ、結構最近…?)

〜現在(2020年)

2018年後半からは、描いている絵の幅が結構広がった感じがします。

ソーシャルゲーム用のイラストから、児童書のカットまで、幅広く描かせていただけるようになったので、絵のテイストから作画ツールも色々試してますね。

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しっかり描き込むことと、程よく引き算する練習。

また、最近だとデザインの勉強もしたくて関連書籍を読むようにしているので、その影響もあるかもしれません。
サムネイル化されても目に留まりやすくすること、程よく余白を作ることなど。サムネイルについては、作画中に小さくナビゲーターを表示して見栄えを確認するようにしています。

ところで最近、コミティア131にサークル参加したんですが、購入してくださった方々の「戦利品報告」(イベントで買ったものの写真を撮ってSNSに投稿すること)を見ていて気が付いたことが。

それは、自分の作品集が一目で見つけられるようになっていたことです。

昔は、たくさんの作品の中にあると紛れてしまっていたけど、今はすぐ見つけられる…!
最近だとこれが自分の成長を一番実感できた瞬間だったかもしれません。嬉しい。

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最近作った作品集「花束」の表紙。

まとめ

「一束さんはどうしてこういうタッチで描こうと思ったんですか?」と聞かれることもちらほらあるんですが、なるべくしてそうなったというか…。こうやって見てみると、最初から今の絵柄を目指していた訳ではなかったんですよね。

あとは感覚に頼って描いてきたというよりは、考えながら作っていった感じが強い気がします。
また、お仕事で描かせていただいていると、自分でも思いもよらなかった扉が開いたりするので、誰かの依頼や指示を受けるのもめちゃくちゃ勉強になってありがたいです。

ただ、方向性として

・どんなシーンにも馴染む/使えること
・老若男女に愛されること
・一目で私が描いたものと気が付いてもらえること

という指針はずっと共通して持ってるので、これを軸にこれからも勉強と試行錯誤をしていきたいと思います。
なのでそんな部分も含めて、今後も見てもらえると嬉しいです!!!

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