ユビキタスコンピューティングの今

コンピューターサイエンスの研究者で、Marc Weiserの代表的な論文であるThe Computer for 21st Centuryを知らない人はいないでしょう。

一般的には、Pervasive Computingのようにあらゆる場所に技術が浸透しているといった意味で捉えられている。

晩年では、Calm Technologyと称していたように、その本質は偏在ではなくAmbient interfaceとしての性質の方であり、この文章に彼のビジョンがもっともよく表現されている。

The most profound technologies are those that disappear. They weave themselves into the fabric of everyday life until they are indistinguishable from it.

Ubiquitous Computingから始まったそのアイディアは、石井宏氏などを中心に今も研究が進められている。

ユビキタスコンピューティングはコンピューターの未来?

Ubiquitous Computingは21世紀、つまり未来のコンピューターに関する洞察を与えた。そのビジョンに共鳴した多くの研究者や企業により、様々な製品やサービスが作られてきた。

では、現代においてそのビジョンはどの程度実現したのでしょうか。

iPhoneをはじめスマートフォンが普及した現在、あらゆる場面にテクノロジーがインストールされ、日常生活を送る中でテクノロジーのない場所を探す方が難しいでしょう。

もちろん、テクノロジーの偏在が本質ではありません。ただ、昔と比べると意識されず作動するテクノロジーの比率は高まっていると言えるでしょう。

インテル在籍時のGenevieve BellとPaul Dourishによって発表されたYesterday’s tomorrowsでは、Ubiquitous Computingの実現性に関し、永遠に実現しない近未来であり、既にたどり着いた未来でもあるとされている。

後者に関しては、Mark Weiserの描いたSal’s world程のものは実現していないものの、モバイルホンは先進国だけでなく、途上国においても広く普及していることを挙げている。

それでは前者はどういった意味が込められているでしょうか。ここに、Yesterday’s tomorrowsが発信する重要なメッセージがある。

ユビキタスコンピューティングが目指す未来は私たちの未来ではない
言葉のままであり、深い意味はない。

Ubiquitous computingが発表されたのは1989年であり、その頃から見た未来とは、まさしく現代のことである。

the future that ubicomp has been attempting to build is not our own future, but 1989s future — yesterday’s tomorrows. Weiser envisioned ‘‘the computer for the twenty-first century.’’ Having now entered the twenty-first century that means that what we should perhaps attend to is ‘‘the computer of now.’’

彼らが新しく示した方向性が、”Messiness of everyday life”である。

Drawing on crosscultural investigations of technology adoption, we argue for developing a ‘‘ubicomp of the present’’ which takes the messiness of everyday life as a central theme.

Bellらによると、デバイスは消失するどころか、日常の中により強く意識されるようになっている。その原因として、現実世界がクリーンで整然としたものではなく、社会や文化、使われる文脈が無数に存在するMessinessが支配する世界であり、テクノロジーの開発者の想像をこえる用途に用いられることが大半であることを挙げている。

このアイディアは、人類学を起源にもつ彼らならではであるが、私たちの日常を省みた時に非常に納得感が高い。

かつては、iPhoneのようにタッチスクリーンによってあらゆる操作感が実現でき、単一のデバイスで無数の問題を解決するかに思われた。

しかし、現実に存在する無数のニーズに完全に対応することは不可能であり、今もどこかで私たちが想像できない問題を、私たちの想像できないテクノロジーの応用によって解決が試みられている。

ユビキタスコンピューティングが実現した今、私たちがすべきことは?ユビキタスコンピューティングは実現した。しかし、かつて私たちが想像し、熱狂したものとは遠く離れているだろう。

こんなYesterday’s tommorowsに絶望すべきだろうか。

いや、そうではない。

彼らの主張は、シンプルかつポジティブである。

We do not take this to be a depressing conclusion. Instead, we take the fact that we already live in a world of ubiquitous computing to be a rather wonderful thing. The challenge, now, is to understand it.

デザイン思考、リーンスタートアップ、ジョブ理論。

少しずつ、ツールが用意されてきた。今こそ、もっと真摯に、彼らの言うMessinessに取り組みべきではなかろうか。


参考文献

Yesterday’s tomorrows関連

Divining a Digital Future: Mess and Mythology in Ubiquitous Computing (MIT Press)


イノベーションフレームワーク関連

21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム


The most profound technologies に向けた設計論

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

デザインの輪郭


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