アニアーラ、アマプラ見放題終わっちゃいましたね。なんか前回終わったときは終わった瞬間見放題が始まったのでまた帰ってきそうですけど。
駆け込み需要（なんで？）で新年早々アニアーラを見てげんなりしてる人をたくさん見たので僕も久々に見返してきました。楽しかったね。楽しくはないよ。

アニアーラのげんなりポイントの一つに死の日常化があると思うんですよ。宇宙漂流の恐怖に耐えかねて自ら死を選ぶ人が日常的に発生するし、その処理をする船員たちもなんか特段感情を表に出さないし、人工知能も自爆するし、天体観測士のおばさんは口封じに殺されるし、終盤では大事なものを自ら殺す所が描かれるし、祝祭でのスッカスカのホールからも察せられるし、最終的に600万年後ですからね。全員死にました。
しかしアニアーラでは人以外にもとんでもない者がバタバタ死にました。
神です。

みんな神にはなれなかった

神は信仰です。信仰が形を取ったものが神です。信仰とは生きる希望です。

まず最初に死んだのがMIMAです。苦しい漂流のなか懐かしい美しい地球の映像を見せてくれる神。人類はMIMAを信仰し、嘆き悲しみ苦しみ助けを請います。MIMAは人々が生きる希望となるような映像を与えました。しかし人類は何も与えてはくれません。MIMAは神ではないのでそんな一方的に嘆きと悲しみと苦しみを訴えられることに耐えられず自殺しました。
皮肉にも死んだMIMAには温かい言葉がたくさん与えられました。

天体観測士にとっての神は酒でした。事実を知っている彼女にとって生きる希望は酔って正気を失う事だったのでしょう。タッパーでワインをがぶ飲みしている時点でもうその神は死んでいました。もう希望ではなくただただ体に入れるだけになっていたのですから。

次にたくさん生まれて死んだであろう、カルト神たちです。宇宙空間を崇拝したり、なにやらお面をつけて船内を闊歩したり、よくあるSEX教団みたいなのを始めたり……。何かにすがらないと生きていけない人々はオリジナルの信仰を始め、オリジナルの神を見出し、そして飽きて捨てて、その神々は死にました。
この時点でトラディショナルな一神教の神もだいぶな所まで来てたと思います。

トドメは『槍』の件でした。
『槍』は神の子を殺し、そして神の子は後に復活するあの『槍』を想起させるものでした。が、アニアーラの『槍』はアニアーラを貫くことはなく、アニアーラは必死にあの『槍』を回収するけど何も起きません。『槍』はなにかなのもわからないただの物体でした。おわり。
あの瞬間アニアーラではあの神が死んだのでしょう。十字架をして「こんな物がなんの役に立つ」なんて言ってましたし。

主人公・MIMAローベは神を復活させようとしました。あのMIMA神の残骸を使ってスクリーンを作りMIMA神のやってくれた懐かしく美しい地球の映像を映し、人々の生きる希望となろうとしました。そしてそれが彼女の大切な神を亡くす原因となりました。

イザベルの子も神でした。イザベルとMIMAローベにとって生きる希望でしたが、結果はご覧のとおりです。

シェフォーネ艦長もまた神になろうとしました。人々に生きる希望＝神が必要であることを知っていたんでしょう。だから彼は信頼しがいのある有能で偉大な艦長をずっと演じました（天体観測士を殺したのもそのためです）。その限界は祝祭のとき右手のリストカット痕に出てましたね。彼もまたおそらく遠からず亡くなったのでしょう。

最後に光を失ったMIMAローベは神にすがります。人が生きる希望ではない神は純粋な神なのではないかな。どうかな。
光あれ。

こうやって振り返ると疑って疑って疑うことすら疑って最後に残った「我思う故に我あり」みたいじゃないかしら。神であるものと神になるものとかみであろうとするものを否定していけば純粋な神が生まれるのかなあ。という実験的要素も多分にあったように見受けられました。

ところで

映画アニアーラではアニアーラ内でのスペクタクルな事件がピックアップして描かれてますけど、その間間には年単位のスパンがあるし、事件が起きてる中でもピックアップされてる以外の人物たちは割りと楽しそうに生活してるんですよね。
彼らには彼らの生きる希望、神がいて、わりと絶望せずにやってるんだと思うんですよ（そうでないひとたちはもう死んだので）。そう思うと神はちゃんとしぶといんだなと思います。ピックアップされたところが特別しんどかっただけで。いやアニアーラ全体の状況はしんどいんだけどね。

おわりに

ポールワイスの思考実験
・試験管にひよこを入れすりつぶす。失われたものはなにか？

これをアニアーラに置き換えて考えると興味深いよなーから始めた考察なんですが、最終的にパスツールの白鳥の首フラスコ実験
・滅菌し密封した水から生物は発生しない

に落ち着いたのはわーってなりました。わー。