モノロギア

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ノート

第11話 「4人目」

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 静かに。
 静かに、静かに。
 まるで「死」という色の絵の具があって、それが水に溶けていくようだった。いつかの新聞記事の下品な大見出しを思い出していた。紫のインクが貯水槽に溶けて、マーブル模様を描いていたあの感じ。けれどあのときよりずっと深刻だ。
 マーブルに触れた人は死ぬのだから。
 息が苦しい。
 口を開くと、ごが、と血の混じった気泡が漏れた。
 その気泡の

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第10.5話 Dreamed a dream(2)&(3)

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 先輩たちと別れるなり、わたしは自室のベッドに倒れ込んだ。
 起き上がる気力もなく、ぼんやりと室内を見渡した。
 水竜の亡骸を居城としているフラムスティード王城の中でも、第二王女の間はその肋骨を居室としている。心臓を守っていた部位だからか、他の部屋に比べたら支柱となっている骨がたくましい。ちなみに女王である姉の居室は頭蓋骨だ。
 抵抗を感じたことは一度もなかった。

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第10話 光の国

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 誰かが、固く絞った布で僕の額を拭いていた。
 覚えのある感触だった。布越しに伝わってくる指のきめ細かさ。いちいちためらうような不器用な触れ方もひどく懐かしい。夢でも見ているのだろうか。ぼんやりと薄目を開くと、ローズブロンドの髪が視界に入った。
 ……ああ。
 あてが外れて、僕は小さな落胆を感じながら呟く。

「レア……?」
「それはわたくしの妹です」

 ……面

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第9.5話 Dreamed a dream(1)

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 ――あれは美しい水しか飲めなくなった生きものだ。
 ――おまえはああなってはいけないよ。

 師の最期の言葉を、複雑な気持ちで思い返していた。
 祖国フラムスティードでは、クジラは水竜と呼ばれている。
 水竜は美しい水にしか棲むことができない。
 だから、六大国のいずれかが水質保全条約を破り、汚染物質を漏出(ろうしゅつ)すればすぐに分かる。
 最初に水竜がもがき

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第9話 3人目

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 ざらりと、天井から砂がこぼれてきた。
 突然のことに驚いて禁書を取り落とした。コォン……と、音叉を弾いたような涼やかな音を響かせて、一度は浮かび上がった文字が消えていく。
 宙に拡散した光の残滓に、どうしてか自分の心まで砕け散ったような痛みが走った。
 あと少しだったのに。
 いったい誰が水を差したのだと後ろを振り返ると、ちょうどヴォルトが飛びずさった砂の小山に

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