モノロギア

5
ノート

第14話 風の国

プロローグから読む
前話 目次

 凍っていた。
 白く時間の止まったこの壁のことを氷瀑というらしい。
 何万年もかけて作られた氷の下、樹皮に穿たれたたった一箇所の出口を抜けると月の輝く夜空に躍り出た。空に掛けられたレールにはまだ新しい雪が積もっていた。汽車は月夜に螺旋を描くように、緩やかなカーブを切りつつ少しずつ下層へと向かっている。今のところ目的地は見えてこない。落莫と口を広げる夜に向けてほう

もっとみる

第13.5話 Dreamed a dream(5)

プロローグから読む
前話 目次

 土足でもなんでも、踏みこんでおけばよかったと後悔した。
 物分かりよく空気を読んで、「今はそっとしておいたほうがいいだろう」なんて言い聞かせて、その実、自分がかける言葉を見つけられないだけだったのだと気づいても遅い。「責任を取れないから」だとか小さな体裁に気をとられているうちに、大切なものは取り返しがつかないほど離れていく。
 遠くから見守るふりをして、本当に守

もっとみる

第13話 5人目

プロローグから読む
前話 目次

 ヴォルトとまずは再会を喜び、その後すぐにスフィリア陛下の伝言について話した。
 ――水の国エトリの森林管理官に、第二水門を下ろすように伝えなさい――
 ヴォルトは真っ先に目を見開いて言ったものだ。「レアの姉ちゃんも無事なのか」と。
 何を言っているのだろうと、僕は目をしばたたいた。
 あんな狂った海に、骨一片でも残ると思ったのだろうか。

 エトリはその《巨木》

もっとみる

第12話 水の国

プロローグから読む
前話 目次

 鬱蒼とした密林に、青緑の肌の醜男が立っている。
 よく目を凝らすと、鰐(わに)の皮を剥いで衣としているのだと分かる。元々着ていた服は、魚に啄ばまれてぼろぼろになってしまったのだ。僕も同じだった。だから二人とも似たような格好をしている。くるぶし、ふくらはぎ、膝――つまり下半身を、重点的に爬虫類の皮で鎧(よろ)っている。見た目にはものものしいけれど、肌触りは何かぶよ

もっとみる

第11.5話 Dreamed a dream(4)

プロローグから読む
前話 目次

 北の樹洞(じゅどう)はいつ来ても暗い。
 南とは大違いだ。アザカに言わせると、真夜中は星明りが射しこんで海の底のようにきれい、とのことだが(つまり俺が来る時間が悪いのだと言いたいらしいが)、夜はお世話になってるパーニャばあちゃんの仕事を手伝わなきゃいけないから、俺が榊の宿場を訪れるのはいつも午前中だった。
 山暮らしの俺は知る由もないことだったが、火の国・榊は、

もっとみる