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note Advent Calendar 2014.12.22

『Fクローネとベルのおはなし』

あなたはサンタクロースを知っていますか。

サンタクロースは自分の命の光を使って、
子どもたちへのプレゼントの種を生み出し、
長い時間をかけてプレゼントを育てます。
そしてクリスマス、沢山の子どもたちの元へ、素敵なプレゼントを、
相棒のトナカイと一緒に届けるのです。

そうです、プレゼントはサンタクロースの命のかけらなのです。


Fクローネもそんなサンタクロースの一人でした。
長い長い間、Fクローネはサンタクロースをしてきました。
気付けばもうおじいさん、いえ、おおじいさんになっていました。
そして、彼には、もうあと少しの種を作る命の光しか残っていませんでした。

普通のサンタクロースでしたら、命の光が少なくなってくると、
サンタクロースを引退して、どこか雪の降る国へ行き、
新しい生活を始めるものでした。
それはそうです。命の光をすべて使ってしまったら、
もうそのサンタクロースは消えてしまうのです。

しかしFクローネは、サンタクロースをやめようとはしませんでした。
世界中に私のプレゼントを待っている子どもたちがいる、
これがFクローネの口癖でした。
けれど、彼は知っていました。
自分がサンタクロースを引退すれば、新しいサンタクロースが
子どもたちにプレゼントを届けに行くということを。
それだけ、Fクローネは自分がサンタクロースであるということ、
子どもたちにプレゼントを届け、喜ばせることに誇りを持っていたのです。


彼の相棒はベルという心優しいトナカイの女の子でした。
ベルはFクローネの命の光が少ないことを知っていました。
しかしベルにはFクローネを止めることは出来ませんでした。
彼女は、彼のサンタクロースへの情熱を、痛い程知っていたからです。
ベルはFクローネが大好きでした。なにせ、長年のパートナーですから。
本当ならば、サンタクロースを引退してもらい、
これからもずっと一緒にいたいと思っていました。
何よりも、Fクローネが消えてしまうのが、
彼女にとってはたえられませんでした。

ある朝、Fクローネは空を眺めていました。
ふう、と深呼吸をしました。
大きく、とても大きく。
世界はこんなに広い、
そんな世界中の子どもたちを喜ばせることが出来る私は、なんて幸せなのだ、そう小さくつぶやきました。
Fクローネは、最後の命の光を今日使おうと決めました。

その日の暖かいお昼です。
ベルはFクローネの目を見て、こう言いました。
クローネさん。あなたは世界中の子どもたちを長い長い、
とても長い間喜ばせてきました。
あなたがサンタクロースに誇りを持っていることは知っています。
けれど、あなたがここで消えてしまえば、それはもうおしまいです。
あなたの誇りは、サンタクロースとして消えてしまうことではないはずです。
ベルの声は震えていました。
しかしとても温かでした。

しかし、その夜からFクローネは部屋から出てきませんでした。
夜が明け、朝がきて、やわらかい日差しのお昼がきて、また夜になりました。
Fクローネは出てきません。
そんな日が何日も何日も続きました。

そしてとうとう、クリスマスイヴがやってきました。

すると朝早くに、Fクローネの部屋の扉が開きました。
彼の手にはプレゼントの箱がありました。
ベルの目からは涙が溢れました。

クローネさん、プレゼントを…、命の光を、使ってしまったのですか。
あなたはもう消えてしまうのですか。
いつもは穏やかなベルも、こんな時はどうしていいか分かりません。

Fクローネは、しわしわな声でこう言いました。
違うよベル。君のあの日の言葉を聞いて、
私はサンタクロースにしがみついていることに気付いた。
簡単なことだったのに。目の前しか見えていなかったよ。
本当にありがとう、そしてすまなかったね。
私は、子どもたちが笑顔になってくれるのが嬉しいんだ。
なに、それはサンタクロースじゃあなくったって出来る。
私はサンタクロースを引退するよ。しかしな、ベル。
命の光を使わなくたって、プレゼントは作れるんだ。

Fクローネは、手に持っていた箱をベルに差し出しました。

ベルが涙を流しながら開けてみると、
彼女によく似合うクリーム色のマフラーが入っていました。

はじめて自分の手で作ったよ。
私がこんなに不器用だなんて知らなかった。
そう、Fクローネは笑いました。それを見て、ベルも笑いました。
これからはこうやって、誰かを笑顔にするよ。君も手伝ってくれるかい。
そしてクリスマスになれば、
また世界中の子どもたちにプレゼントを届けるんだ。
ベルはクリーム色のマフラーを巻いてこう言いました。
とびきりの笑顔で。

もちろんです!

その年のクリスマスから、世界中の子どもたちには、
2つのプレゼントが届くようになりました。

1つは、もちろん、
ちょっといびつな、でもとっても温かい、クリーム色のマフラーです。



あなたは、この世界にサンタクロースが二人いるのを知っていますか。

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025 F-krone
026 Bell
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note Advent Calendar 2014
企画者 ならざきむつろさん
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#Xmas2014  #AC2014  #inosentworld #絵本

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