【読書レポ】かわいいとセクシーのジレンマの渦中から自分の物語を紡ぎはじめる

1.女性グループが訴える他者依存からの脱却

前回、「BLACKPINK」の≪Kill This Love≫を中心に取り上げて、精神的自立を目指す女性像について論じました。それが以下。

今回は、これの補足版として韓国女性グループへ向けられてきたまなざしの問題について議論した本を共有します。

文章に登場する芸能人については、各自Google先生に聞いてくだされ。

共有する本:『K-POP 新感覚のメディア』

2.個性を発信して既存の価値観から脱却する

今回は、第3章、2の「ガールグループの時代」を取り上げます。

2018年の平昌オリンピックで元2NE1のCLが登場したことを、「オリンピックの場にふさわしくない」という批判がありました。金は、この批判について以下のように疑問を呈します。

ならばCLに対する不満は、本当にその歌詞だけだったのだろうかという疑問をもたざるを得ない。本当の原因は、彼女の真っ黒なドレスとスモーキーなメイクアップ、自信に満ちたしぐさとパフォーマンスが、これまでオリンピックのような大舞台で演出されてきた純白のドレスや韓服(ハンボク)、優雅さや上品さ(だと思われるもの)にこだわったパフォーマンスのような伝統的な韓国の女性像に反するものだったからではないだろうか。p.118

韓国のアイドル専門ウェブマガジン『Idology』は、韓国のガールグループイメージを図を用いて分析しました。横軸を少女的イメージと成熟したイメージ、縦軸を日常的イメージと非日常的イメージにとり、各グループを位置づけしました。

この基準を参考にすると、CLは、非日常的イメージと成熟したイメージを強く持ちます。これは、韓国の伝統的な女性像から大きく離れたものです。

女性アイドルは、与えられたアイデンティティから外れた言動が許されてきませんでした。たとえば「Red Velvet」のアイリーンは、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだと発言しただけで、とくに感想を述べていないにも関わらず、「女性アイドルがフェミニズムの本を読んだ。」として攻撃を受けました。

ガールグループは、かわいがられるために「かわいい」路線で行くか「セクシー」路線で行くかの極端な選択を強いられてきました。そのなか少女時代は、人々から憧れを受ける存在としてのガールグループを確立しました。象徴的事例が、2016年に起こった、梨花女子大学学生による学内経営陣による生涯教育支援事業推進に反対するデモの最中でした。学生たちは、運動で一緒に歌う楽曲に少女時代の≪Into the New World≫を選びました。これは、アイドルグループの社会的意味が大きく転換した瞬間でした。

これを受けて金は、ガールグループが果たした成果とその歴史を確認する意義について以下のように述べます。

ガールグループが歩んできた道を振り返るのは、許されたアイデンティティとの緊張感のなかで「彼女たちのポップ」がいかに拡張してきたのかをみることに他ならないだろう。pp.120-121

2NE1とWonderGirlsは、少女時代と同様にK-POPで新たな地位を獲得しました。この2つのグループは、過去10年間で成功したK-POPグループとしてビルボードから評価されました。彼女たちは、異なる方法でアメリカ市場に挑戦したグループです。WonderGirlsは、英語の歌詞を用意し、アメリカ全土を回って、現地ステージ重ねる方法を取りました。同時期に2NE1は、YouTubeを中心に韓国で活動しながら、アメリカでデビューする前からファンを獲得することに成功しました。

2NE1と同じ事務所から輩出されたBLACKPINKは、YouTubeとコンサートの活動に集中する活動方法を引き継ぎ、日本にも多くのファンを抱えます。彼女たちは、2NE1のように個性を強調する楽曲とパフォーマンスを強みとし、YouTube動画の再生回数やビルボードチャートでその人気を示しています。

現在ガールグループは、上の世代のかたちを受け継ぎつつ、急速にその存在感を増してきています。そこで問われるのは、ガールグループに与えられたアイデンティティの拡張についてです。つまり、少女時代、WonderGirls、2NE1が課題とした、かわいがられることしかできなかったガールグループを乗り越えることは、意識されているのでしょうか。さらに、韓国社会にあるガールグループに決められたアイデンティティしか与えない保守的認識、工場のようなシステムで生産される「アイドル」という規格化された商品に対する疑問から脱却できるのでしょうか。

これらの問題について金は、カギを握るのは自ら楽曲を製作することで強烈な個性に基づく物語を発信することではないかと、BIGBANGの成果を根拠に述べます。そして以下のように結論づけます。

上の世代のDNAを受け継ぎつつ、自分をより積極的に表現しながら、より完成度の高い音楽やパフォーマンスを披露していくことは可能か。ガールグループに対する認識と視線は変わるのか。個々のアーティストとしての能力と物語を表現する十分な機会は与えられるか。それによって、ガールグループの系譜はもちろん、K-POPという世界の拡張性もまた大きく変わるだろう。p.136

3.日本と異なる「かわいい」を提示するK

10年前のK-POP第2次ブームの時に、ガールグループはファンから飽きられないために「かわいい路線」から「セクシー路線」へ変化せざるを得ない現実があるという言説を聞いたことがあります。また反対に、男性であっても「かわいい路線」から「セクシー路線」への変化は、そのまま「少年」から「戦う(暴力性をもった)男性」とも捉えられます。日本からみればそれらを完璧性や成熟的と表現していたと思います。

第3次ブームの現在、K-POPの魅力は、以前よりも親しみやすさが強くなっています。防弾少年団のメッセージやBLACKPINKのリーダーを決めない対等な関係のありようは、憧れを受ける対象から一歩進んでいるのではと感じます。BLACKPINKのセクシーに見えるファッションは、男性の目線を意識しているというより、女性の開放性を表現したスタイリングなのではないでしょうか。かつて「かわいい」から「セクシー」の変化を強いられたアイドルグループは、赤を象徴としてファッションに取り入れていました。しかしながら現在のK-POPのイメージカラーは、ピンクをはじめとする淡く鮮やかな色彩です。この色彩は、過去の「かわいい」とも「セクシー」とも異なる路線を示しているのではないでしょうか。

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参照文献:金成玟『K-POP 新感覚のメディア』岩波書店、2018年、pp.117-136

文中で登場するアイリーンが読んだ本が以下。

「BLACKPINK」について取り上げた記事は、以下。

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