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『本を守ろうとする猫の話』-4ヶ国の装丁くらべ

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『本を守ろうとする猫の話』とは?

ベストセラー『神様のカルテ』シリーズ著者・夏川草介 先生が初めてシリーズ外で手がけられた長編ファンタジー。

夏木林太郎は、一介の高校生である。
夏木書店を営む祖父と二人暮らしをしてきた。生活が一変したのは、祖父が突然亡くなってからだ。面識のなかった伯母に引き取られることになり本の整理をしていた林太郎は、書棚の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。トラネコは、本を守るため林太郎の力を借りたいのだという。

「本」にまつわる物語の本です。
こちらが刊行されたのは2017年ですが、その後アジアの複数の国で同じイラストを表紙にした翻訳本が出されました。
今年2019年に中国版も出たので、ここで各国の装丁をご紹介します。


日本版

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表紙では、現実世界の少年と異世界のトラネコが対面して、「これから何かが始まるぞ」というワクワク感と少しの不気味さを煽るイメージ。
反対色の青とオレンジでバキッと分けて、店頭でも目立つといいなぁと思いながら描きました。

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ブックカバーの下には、ネコのパターン柄。
パターン柄と扉カットは、カバーイラスト納品後に追加発注されました。
そういうこともあるんだなぁ、と驚きましたが、それはそれとして
カバー下が二色刷りってすごくないですか??
(納品時に「ここも二色でできたらおもしろいのでは〜」と色付きのデータをお渡ししたんですが、実現されるとは思ってなかった…)
紙質がまた…ザラザラっと古書っぽいかんじでよいのです…
開くと、遊び紙も二色。豪華…!!

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表紙で主人公が青色の異世界と対面して、
扉を開いて冷たい青色から物語の導入が始まって、
異世界で色々な人と対話して、
物語を通りぬけた先には暖かなオレンジ色の日常に回帰・循環する…
というのが造本それ自体で表現されている。と、私は解釈しました。
イラストを描いていた当時はそんな深くは考えていなかったんですが。

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韓国版

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韓国版は開く方向が逆(横文字なので)。
つまり裏表紙が青になるのです。
日本版は青い部分の左端がカットされてしまうのですが、韓国版ではそれがしっかり生かされています。
イラストを描くとき「左端はカバーでは使われないと思うのですが描きますか?省いた方が時短にはなりますが…」とお伺いしたところ「シンメトリーっぽいのがおもしろいので全部描いてください!」とのことで、描くことになりました。やはり使われませんでしたがwebで個人的に公開もできるしまぁいっか〜と思っていたら、まさかの韓国版でうまく活用できてびっくり。
日本の本を韓国で出すとき、開きが逆になるのに合わせてイラストも反転されたり、分割されて使われることがある(もちろんイラストレーターに了承をとった上で)そうです。今回みたいなケースは珍しいのではないかな?

遊び紙も日本と同じで青とオレンジの二色。
そして韓国版は、カバーに使われたイラストのパーツを各章扉に配置して使っています(日本版は扉のハンコ風カットだけ)。

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こういう使い方もできるんだなーと驚き。楽しい。
さらにカバー下はこんなかんじ!↓

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この佇まい、すごく好きです!


台湾版

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台湾版は日本と同じ、右開き。
しかし日本と違ってカバーと本体が一体になってるタイプ。
この上から帯がかかっています。
(韓国版には帯はありませんでした)

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奥付のテキストが猫のシルエットになっています!カワイイ。


中国版

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中国版は左開き。
表紙にはタイトルが日本語でも表記されています。
そして帯がない代わりに右下に宣伝文句(○○万部突破!的な)が直接印刷されているもよう。なんだか不思議なかんじ。

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カバー下は韓国版と似たかんじですが、地の色が薄青です。
遊び紙は白。

目次や各章扉、ノンブルにネコのシルエットなどが入っていました。
(こちらは私はノータッチ)
ちょっとしたところがかわいいですね〜



挿絵の没ラフ


また海外版では、各章扉に描き下ろしで挿絵も入れようという話が出たところもありました。

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結局は1章のラフ案のみの制作で終わり、実現はしなかったのですが。
(ラフ公開についてはOKいただいております)
海外の方と直にやりとりをするのは初めてだったのでいろいろと勉強になりました。
これも各章の挿絵をどう描くか考えるのは楽しかったし、どこかで活用できたら嬉しいんだけどな〜


並べるとこんなかんじ

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左から中国(左開き)・韓国(左開き)・日本(右開き)・台湾(右開き)版。
サイズもちょっとずつ違うんですねー。
スピン(しおり紐)があるのは日本と韓国だけ。



広告、グッズなど

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本以外にもいろいろ使われていました。日本では他に新聞広告とか…

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台湾版ポスターが映画ポスターみたいでかっこいい。
これをSNSに上げると海外の人が「見たよ!」と反応してくれました。
嬉しい〜


イラストを制作していたのは2016年末〜2017年始なのですが、
2017年1月31日に発売されて以降、何度も使っていただけて嬉しい限り。

そして、イラストは使われるたびに使用料がもらえます!
どんなに本が売れようとイラストレーターに印税は入りません(印税契約してない限り)が、文庫化したり、電子書籍化したり、こうして海外版が出たりすると二次使用料がいただける!!
(※電子書籍に関しては、ご依頼の時点でそちらへの使用料込みの報酬額を提示されることも多いです)

書籍イラストは広告(といってもピンキリですが)と比べて報酬がお安い場合が多いと聞きますが、こういうケースもあると知るとすごく嬉しいですね。

さらにこのお仕事がきっかけでその後もいろいろとご依頼をいただき…
本当に、自分にとってとてもありがたい一冊でした。

どこかでお見かけの際はそっと手にとっていただけると嬉しいです。
どの国から出版されたものも、とても丁寧に作ってくださっているので!


試し読み↓



サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!