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ディラックの歴史的論文(1926年:デルタ関数)を探して

毎日気晴らしに数学や物理学の本を読み返しています。それも現代の古典というべきものを、です。

ポール・ディラックという物理学者さんの思索遍歴についてまた興味がわいてきたので、論文を再読しています。詳細は省きますが彼が量子力学の発展において画期な貢献をしたひとつであるところの「デルタ関数」の応用は、いつ提唱したものなのかを再確認しました。

このテーマについては2年前にちゃちゃっと調べてはあります。この論文ですね。"The Physical Interpretation of the Quantum Dynamics"(量子力学の物理的解釈) 1926年12月2日受理とあります。全文閲覧はこちら

"delta function"(デルタ関数)の名称はこの頃は使っていないのですね。4年後に書籍で刊行した『量子力学』がこの名称の初出のようです。

ここに出てきますねこの関数の定義式が。δ(デルタ)記号が見られます。

Strictly, of course, δ(x) is not a proper function of x, but can be regarded only as a limit of a certain sequence of functions. All the same one can use δ(x) as though it were a proper function for practically all the purposes of quantum mechanics without getting incorrect results. One can also use the differential coefficients of δ(x), namely δ'(x), δ" (x)... , which are even more discontinuous and less “ proper ” than δ(x) itself.

δ(x)をxの関数と呼ぶのは数学的厳密さに反するので、ある特定の関数列の極限と見なすべきであろう。だがもしこれを関数とみなして使いこなすならば、量子力学の事実上あらゆる目的について正しい結果を算出できる。さらには微分して δ'(x)、δ"(x) といった、δ(x) よりさらに不連続ゆえに「関数」とは呼び難いものについても同じことがいえる。


そういえばこの論文には「probability」(確率)が12か所出てきます。シュレディンガーの波動方程式(Schrodinger’s wave equation)と、ボルンの理論(Born's theory)への言及絡みでです。つまり波動解釈と行列解釈の両方を説明してみせるために欠かせない、特殊な関数を提唱したいと、そういう内容です。うわーい。

ただ、彼がこの関数の最初の発明者ではないようです。ジョゼフ・フーリエの1822年論文まで遡れます。これがその後電気工学系のオリヴァー・ヘヴィサイド(1850 - 1925)によって電気回路の計算に応用されて、その著作を学生時代のディラックが読んでいたものと思われます。電気工学は波を基本とするけれど実用においては点(パルス)が欠かせなくて、それで波と点の両方を扱える関数が編み出されていました。それをディラックが思い出して、量子力学黎明期における波動解釈と行列解釈の衝突に、橋を架けてみせたのです。


今アメリカで『オッペンハイマー』という映画が大ヒット中だとか。原爆開発の中心人物だったこの方と、ディラックは一時期同じ大学に在籍していました。あまり馬が合わなかったそうです。オッペンは才気をまき散らすひとで、緘黙症のディラックとは正反対。ちなみにこの映画にはディラックもシンイチロー・トモナガも出てこないようですね。アインシュタインは出て来るのに。演ずるは「戦場のメリークリスマス」でビートたけしと漫才コンビを組んでいたビートきよし…ではなくてトム・コンティです。ふっくらしたアインシュタインですね。


おあとがよろしいようで。ちゃんちゃ~ん、てけてんてけてん ♪

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