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【アイナナ】音のアイコン性から考える"折笠千斗"論

アイドリッシュセブンに登場する先輩ユニット、Re:valeのメンバーである「千」の本名が判明したのは、2017年5月17日配信のアプリ本編ストーリー三部6章だった。
当時リアルタイムでは追っていなかった私は、数年後に自分がアイナナから離れていた数年に出た新情報をかき集めていた時、彼の本名を知って衝撃を受けた。


「折笠千斗」って、名前、恰好よすぎない????


アイナナに限らず、人が生み出した作品に登場するキャラクターの本名は、出生児に名字が所与のものである現実社会とは違って、名字も名前もよく練られた、創作者の想いが込められているものであるはずだ。

けど、そんな中でも"折笠千斗"の美しさは群を抜いていると感じる。
ここ4年くらいずっと友人達と"折笠千斗"がいかに素晴らしいかという話をし続けていたが、最近読んだ『言語の本質』(今井むつみ・秋田喜美 共著)という本で知った「音のアイコン性」が面白く、もしかすると我々の感じている漠然とした"良さ"を解釈する助けになるのではないかと思ったので、以下、妄言を垂れ流していく。

ちなみに、本名と同時に出身が鎌倉だという情報を入手し、即聖地巡礼に向かった時の記事がこちら。ありがたいことに、たくさんのアイナナファンに読んでもらえている。



言語の謎に、オノマトペで切り込む

『言語の本質』では、言語の定義を「一つ一つのことば(単語)がそれぞれ関係を持ち、巨大なシステムになったもの、そしてそのことばをいくとおりにも組み合わせることができるもの」と置いている。著者たちは、言語がどのように発生して、どのように進化していったのか。言語の発生当初からこのように抽象的で複雑で巨大なシステムだったのか。発生したばかりの言語とはどのようなもので、どのように現在の言語の形に進化していったのかを、「オノマトペ」を鍵として考察していく。

「オノマトペ」はいま、言語学の世界では、言語の起源と言語習得の謎を明らかにする上で非常に重要な材料として注目を浴びているらしい。
私が言いたいことに関連する部分だけ紹介していくが、とても面白かったのでこの本は是非みんなにも読んで欲しい。

「オノマトペ」とは、感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持ち、新たに作り出せる語、である。感覚を表す言葉としては形容詞・形容動詞があるが、感覚的でない意味を表すオノマトペがほとんどないことからも分かるように、オノマトペは形容詞よりもさらに感覚を中心に据えた言葉だといえる。(例えば形容詞だと「正しい」「愛おしい」みたいな非感覚的な概念も表せるけど、オノマトペだと難しい)

感覚を「写し取る」というのをもう少し詳しく考えてみると、オノマトペの写し取り方は、物事の一部分を「アイコン的」に写し取り、残りの部分を換喩的な連想で補っていると言える。
例えば「ギクッ」というオノマトペは、驚いたときに体が僅かに動く様子(あるいは関節が鳴る音)を音で表すことで、その動きの原因となった気まずい驚きを換喩的に表している。

オノマトペの持つ「アイコン性」のうち、一つが単語の形のアイコン性。そしてもう一つが、構成する音のアイコン性である。

音のアイコン性

音のアイコン性は「音象徴(sound symbolism)」と呼ばれており、ここ20年くらいで研究が盛り上がり始めているものの、わからないところも結構残されている分野らしい。
本の中で触れられていた代表的な音象徴を紹介していく。

①清濁
gやzやdのような濁音の子音は、程度が大きいことを表し、マイナスのニュアンスが伴いやすい。オノマトペに当てはめてみると、たしかに「コロコロ」よりも「ゴロゴロ」の方が大きくて重い物体が転がる感じがするし、「サラサラ」よりも「ザラザラ」の方が荒くて不快な手触りを感じる。
オノマトペ以外でも、「子どもが遊ぶさま」の「さま」に対して、「ひどいざま」の「ざま」が軽蔑的な意味合いを持っていたり、「疲れ果てる」のに「はてる」に対する「ばてる」がぞんざいなニュアンスを持っていたりなど、清濁の音象徴は結構色々なところで感じることができる。
ポケモンの名前研究でも、進化することによる濁音の増加が報告されているらしい。面白い!

清濁の音象徴には二種類の説明が可能で、発音的特徴としては、清音よりも濁音の方が発音する時の口腔が僅かに大きくなるらしい。音声そのものの特徴としては、清音よりも濁音の方が呼気圧の変動が大きく、周波数が低いため、濁音の方が大きく強いイメージが宿りやすいのだという。

②母音による大きさの音象徴
打撃を表す「パン」と「ピン」では、「パン」は平手打ちのような大きな打撃であるのに対して、「ピン」は人差し指で弾くような小さな打撃がイメージされる。
これは「あ」と「い」の母音の違いが関係している。「あ」と発音するときには下顎が大きく下がるのに対して、「い」と言うときには下顎が上がるとともに舌が前に出てきて、口内空間は「あ」と比べるとグッと小さくなる。
「あ」は大きい、「い」は小さいというイメージによって、音象徴には母音を発音する時の口腔の大きさも関係してくることがわかる。

③阻害音と共鳴音
音象徴には、発音の仕方だけではなく、音が物理的にどのような特徴を持っているのかも関わってくる。
例えば、nから始まる語には、遅い動き、あるいは滑らかさや粘り気のある手触りという意味の傾向が感じられる。例えばオノマトペでいうと「のろのろ」「のそのそ」「にょろにょろ」「ぬるぬる」「ねばねば」「ねちゃねちゃ」とか。動詞でいうと「塗る」「練る」「舐める」とか。「滑らか」のような形容動詞にもこの傾向は見て取れる。この、nが滑らかな手触りと結びつくのは、nが「共鳴音」だからである。

子音には大きく分けて「阻害音」と「共鳴音」の二種類がある。
阻害音は発音するときに、唇や舌などで呼気の流れが妨げられて出てくる音で、子音の破裂音( [p][b][t][d][k][g]など)、摩擦音([s][ʃ][z][ʒ]など)、破擦音([ tʃ ][ts ][dʒ][dz]など)が含まれる。(表記でいうと、p,t,k,s,b,d,g,zなどが該当)

反対に、共鳴音は発音するときに、唇や舌などで呼気の流れがあまり妨げられずに出てくる音である。母音はいずれも共鳴音であるほか、子音だと、鼻音([m][n]など)、はじき音([ɾ]など)、接近音([j][ɰ][β]など)が含まれる。(こちらも子音のアルファベット表記で言うとm,n,y,r,wなどが該当)

阻害音は角張っていて硬い響きがして、共鳴音は丸っこい柔らかな響きがする。オノマトペでいえば、阻害音ばかりの「パタパタ」「カサカサ」「ゴトゴト」は硬い感じがするし、「ムニャムニャ」「ユラユラ」「リンリン」は柔らかい感じがする。

このことを用いた、ヴォルフガング・ケーラーという心理学者の有名な実験がある。(たぶん大学1年のとき心理1でやった気がする)
それぞれ丸い曲線とギザギザの直線とからなる2つの図形を被験者に見せる。どちらか一方の名がマルマ(maluma)で、他方の名がタケテ(takete)であるといい、どちらがどの名だと思うかを聞くと、大多数の人は「曲線図形がマルマで、ギザギザ図形がタケテだ」と答えた。日本語話者である我々からすれば「いや、だって丸いし」と思ってしまうが、この結果は被験者の母語にはほとんど関係がなく、また大人と幼児でもほとんど変わらないらしい。


https://president.jp/articles/amp/58820?page=2から引用


同じような形式でケーラーは「ブーバとキキ」でも名付けの実験をしており、丸みを帯びた方がブーバ、直線的な方をキキと答える人は98%だった。これは円唇母音または唇音/非円唇母音または非唇音の対比らしい。(この辺はあんま調べきれていない)

マルマとタケテ、共鳴音と阻害音の違いには、発音する時の空気の流れ、つまり呼気圧の変動の波形が影響している。阻害音は周りの母音との違いがはっきりしているため、発音しようとすると肺からの空気の流れが突発的だったり不規則的に変動するのに対して、共鳴音は母音との流れが連続的で、空気の流れが滑らかであることが感じられる。

ちなみに共鳴音・阻害音と有声音・無声音の関係性が気になったのでちょっと調べてみたところ、共鳴音=有声音であるのに対し、阻害音は無声音を基本としつつ、声帯振動を伴う有声音も含むので、ベン図で考えるとちょっと違うみたい。(声帯振動を伴う有声音って何?ってのは、ちょっとよくわからない)

私たちはこの物理的な特徴を耳や口で感じ取り、視覚的ないし感覚的なイメージに結びつけていると考えられる。阻害音が硬いのは気圧の変動が荒いからで、共鳴音が柔らかくて滑らかなのは気圧の変動がなだらかだから。なるほど。だんだんと音の持つアイコン性がわかってきたので、とうとう本題、"折笠千斗"の分析に進もう。ここからは本当に私の妄想100%なので一切真に受けないでほしい。

"折笠千斗"を考える

上で見た3つの観点に基づいて考えてみる。
①清濁
まずは清濁を確認。本によると濁音の子音は、程度が大きいことを表し、マイナスのニュアンスが伴いやすいとのこと。「オリカサユキト」は、、たしかに濁音ない!全て清音!!!最高の名前であるという証明に一歩近づいた。

余談だが、フルネームに濁音を複数持つ友人は中学生の頃からずっと自分の濁音に文句を言っていた。「いやー、別に思ったことないけどね〜」と聞き流していたが、濁音と清音にはたしかにイメージの違いがあることがわかった今、なんともコメントしづらくなってしまった。

②母音
次に母音を考える。「オリカサユキト」の母音は「オイアアウイオ」となり、種類でいうとa i o uの4種が使われている。
母音の持つ音象徴について先程は発音的特徴から「あ」と「い」について書いたが、本によると、eには否定的な印象・マイナスの意味が宿る傾向にあるらしい。(関係あるかわからないが、不満があるときに漏らす母音が「いー」でも「おー」でもなく「えーー」なのも、影響していそうな気がする)
オリカサユキトは母音のeを持っていない。さすがである!!

③阻害音と共鳴音
次に阻害音と共鳴音について考えてみる。
オ(o) 共鳴音
リ(ri) 共鳴音
カ(ka)阻害音
サ(sa)阻害音
ユ(yu)共鳴音
キ(ki)阻害音
ト(to)阻害音

並びとしては、共共阻阻 共阻阻となっている。
(どうでもいいが、2つの単語の連続をみると、男女男男女男女のリズムが流れ出すのって私だけだろうか。あれはなんだったのだろう。自分がいつ、何きっかけであのリズムを摂取したのか何も覚えていないが、SNSもあまり発達していない時期に、子どもの間で死ぬほど流行ってたのって今思うとすごい)

まずは名字・名前が共に、共鳴音→阻害音という組み合わせであることに注目したい。共鳴音と阻害音が一音ずつ入れ替わるのではなく、固まりとなっていることによって、全体の印象がバラけず、語としてのまとまりを感じられる。

(例えば私の名字は共鳴音・阻害音・共鳴音・共鳴音の4文字だが、間に阻害音が挟まることによって、全体で一語というよりは前半と後半が独立しているような感覚がなきにしもあらず、である)

共鳴音と阻害音がブロックになっていることによる効果は、全体的な語のまとまりだけでなく、共鳴音と阻害音が持つ音象徴を感じやすいという点もあるかと思う。
共鳴音の持つ柔らかさと丸み、阻害音の持つ硬い響きは、優美でありながらも尖っていて苛烈な部分もある(本名表記となる過去編は特に尖りまくりである)ユキの印象にピッタリと重なる。
『擬音語・擬態語辞典(1978)』によると、破裂音が重なる「kt」は、阻害音の中でも特に硬さを感じられるとされている。語の最後がktの響きで硬く締まることで、名前全体から受ける印象も、どこか近寄り難さを漂わせ、それがキャラクター自身が持つ特徴に合致していることで、「完璧な名前だ」と感じられるのではないか。

今回は音象徴の観点から考えてみたが、他の発音的特徴(それぞれの語の音(イントネーション)の違いとかも面白そう)や漢字といった観点から考えることも可能だろう。
キャラクターの名前だけではなく、一般的に何か(新サービスとか子どもとかペットとか)に名前をつける時も、音象徴の観点は使えそうな気がする。身近な単語に応用させながら、引き続き勉強してみたい。

蛇足

昨年の春から、友人達と交換ノートを始めた。1人1冊ずつ色違いのノートを持っていて、見開き1ページに好きなことを書き、誰かと会うタイミングがあれば持っていって交換する。自分が書かないと交換できず次が読めないシステムであることによって「人のものが読みたいから書く」というインセンティブが働く上に、見開き1ページは誰からも遮られることも、自分ばかり喋りすぎてるな…という申し訳なさを感じることもなく自分の話をし続けられる(書き続けられる)ので、自然消滅することなく、平均するとおそらく月1くらいのペースで交換し続けている。

直近で私が書こうとしたのがこの折笠千斗ネタだったのだが、ノートに書こうとしたところ早々に紙面が足りないことに気付いたので、せっかくだし、と思いスマホで書いてこっちに公開することとした。

こんな感じで、ひたすら各自が好き勝手に言いたいことを書き殴っている手書きのノートは、あらゆる情報にスマホからアクセス可能な今だからこそ、めちゃくちゃ面白いし特別なものに感じられる。書くのも読むのも楽しいので、全員が飽きるまではしばらく続けたい。


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