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令和6年5月7日 参議院法務委員会 参考人意見陳述 浜田 真樹弁護士

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浜田・木村法律事務所弁護士
浜田真樹参考人
 
浜田でございます、着席のままで失礼いたします。お手元に資料をお配りしておりますので、ご参照くださいますようにお願いをいたします。大阪で弁護士をしておりまして、今22年目になっております。この間も多くの子どもに関わる事案を扱ってまいりました。今日はそのような立場から、今回の家族法改正について意見を述べたいと思います。
 
資料3ページをご覧ください。親権には権利の側面と義務の側面があると言われております。ただこと親と子の関係について言えば、親は子の養育等に関する義務を負っているという側面こそが重視されるべきと考えております。
 
今回の改正法案でも、817条の2でその子の人格を尊重するとの文言が入るとともに、818条では、従前の子どもは親の親権に服するという表現がなくなっておりましてこういった点からも子どもの利益権利を重視すべき方向性が打ち出されるものと理解をしております。
 
資料4ページをご覧ください。通常の時においてもですね、子どもの利益というのは、大切なものでありますが、親と親の紛争が生じたときには、その要請は一層強まるものであります。言うまでもなく、父母間の紛争は子どもにとっては全く望まないものであるからであります。
 
父母間の紛争について、多くの子どもさんが悲しかったとかショックだったと思っていたという事が、今までの数々の調査でも確認をされております。加えて、親同士の紛争はあくまで親同士のものであって、子どもはただ巻き込まれる立場なんだということを強調して申し上げておきたいと思います。
 
親権の義務性という観点に着目いたしますと、離婚によって親権が一方のみになるという事は、子どもにとってみれば、義務を果たす人が1人減るということでもあります。ともに暮らす事がなくなるというのは致し方ないといたしましても、親は2人とも引き続き子どものことを考え養育に対して責任を負担する人であってほしいと考えます。
 
つまり私の意見では、離婚後の監護してない方の親御さんは、養育費を支払い、お子さんと面会交流を行うだけでは足りないんであります。これらに加えて子供にとっての重要な決定に責任を持って関与し、お子さんから相談があれば真摯に応じ、お子さんから説明を求められれば、丁寧に回答しというような作業を、離婚後であっても行ってほしいと考えております。
 
資料5ページをご覧ください。このような発想に基づけば、離婚後の親権についてはできるだけ共同親権が広く認められるべきということになるものと思います。
 
今回の法案では離婚後の共同親権が原則だというわけではないと理解をしておりますが、離婚後の共同親権はお子さんの利益のために必要なものであると考えます。加えて親権制限審判などと比較をいたしますと、協議離婚によって簡単に一方の親が親権を失う事の方がむしろ奇異にも見えるところであります。
 
私は児童相談所の仕事などでですね、親権停止審判や親権喪失審判も取り扱ってまいりました。いずれも裁判所に認容を受けるためのハードルはかなり高いところがございます。それは子どもにとって親権者の存在が重要であるからであろうと思います。そうであれば、子どもの利益のために共同親権ということが考えられるべきではないかという事であります。もちろん単独親権を望む声がある事や、実際問題として単独親権の方が良いと思われるケースがあることも承知をしております。この観点で改正法案を見ますと、裁判離婚において、裁判所がいかなる基準に基づいて共同親権か単独親権かを決めるのか、条文から直ちには読み取れないという事を、若干心配をしております。
 
弁護士として相談を受ける立場から言いますと、このままでは裁判所がそのケースについてどういった判断をしそうかという予測可能性への観点がまだまだ低く、したがいまして離婚するかどうか、そしてまたその場合にどのような手続きを選択すべきかについて十分な法的アドバイスができない恐れがあるものと考えます。
 
これは法相の効率化にとっての問題というよりか、離婚を考える当事者にとって大きな問題となりうるところだと、危惧をしております。そこで国におかれては、この改正法の施行に先立って裁判所が如何なる基準に基づいて、また如何なる考え方に基づいて判断をするのか、その指針などを明確にしていただくよう希望したいところでございます。
 
資料6ページをご覧ください。共同親権の場合日常の行為であれば単独行使が可能とされております。この日常の行為の範囲についてはある程度広くなるものと解釈をいたしませんと、子どもさんの利益が害されるおそれがあるものと思います。このような場面について児童福祉法では、例えば子どもさんが児童養護施設などに入所している時には、監護および教育に関して施設長が必要な措置をとることができるという条文がございます。そして、親権者はこれを不当に妨げてはならないとされております。
 
これは実際に子どもを監護している側にある程度の裁量がないと、子どものためになる判断や活動ができないという発想のもとに作られているものと評価できると思います。これと同様に考えられるべきではないかと考えます。
 
日常行為以外で親権行使について協議が整わない場合、家庭裁判所が親権行使を決定するとされております。まず、この決定は迅速に行われる必要が極めて高いところです。例えばどの学校を受験するのか、例えば第2志望に先に合格しちゃったけれども、入学手続きをするのかどうか、入学金を払うのかどうかといったところ、例えばですが、判断すべき時間が極めて限定的になるということが多いと考えております。こういった場面で急迫の事情ありといえば、親権の単独行使ができることとされておりますが、ここでの課題は、この急迫の事情ありと当たるか否かを先ず判断するのは親御さん本人だということであります。無論裁判になるかもしれませんが、それは事後的な話であります。そうしますと、この急迫の事情ありと言えるかどうかについて、一般の市民にとってもわかりやすい明確な判断基準が示される必要が極めて高いものと考えます。
 
資料7ページをご覧ください。ここまで親と親の意見が合致しない場面を見てまいりましたが、その際に子どもの意見がどう扱われるかについてであります。親権行使も、離婚後の親権者の指定も、すべからく子どものためであると考えますと、その内容を決するに当たっては、子ども自身が意見を言う機会が与えられるべきと考えます。これは子どもの権利条約で定められました意見表明権の発言場面であり、家事事件手続き法でも子の意思を把握して、子の意思を考慮すべきものと定めているところであります。
 
児童福祉法でいいますと、令和4年の改正で意見聴取等措置、意見表明等支援事業という規定が入りました。いずれも児童相談所等が行う措置に当たって、子どもが意見を言う機会をきちんと保障しようというものであります。
 
また、意見を聞くためにはその前提として子どもさんに対して十分な説明がなされなければなりません。これがないとお子さんも意見表明をしようがありません。しかし実際のところ、特に家庭裁判所の手続きに入ってからは子どもさんに十分な説明を行って、その上で子どもの意見を十分に聞くということはそんなに簡単なことではありません。
 
そこで、そのために利用できる制度として、子どもの手続き代理人についてご紹介を差し上げます。資料8ページをご覧ください。定義と制度概要をそこに書いた通りでございます。離婚や親権者の指定、面会交流など子どもに影響のある事件類型において利用が可能でございます。
 
これらの手続きに子どもが関与する場合に、弁護士が子どもの手続き代理人としてサポートを行うという制度です。資料9ページをご覧ください。具体的なサポート内容もそこに書いた通りでございますが子どものために主張立証を行うとか、子どもに情報を提供して、その意思決定を援助し、子どもの利益にかなう解決がなされるような、働きかけも行います。
 
日弁連では最高裁判所と協議を行った上で、子どもの手続き代理人が有用と思われる事案の類型というペーパーをまとめております。平成27年のことでございました。ここに記載された累計は、裁判所に目から見ても有用と言えるものであるということが、まず指摘しておきたいと思います。
 
資料10ページをご覧ください。この制度に対してはよく家庭裁判所には調査官がいるので、子どもの意思とはそこで十分把握できているんだというような指摘もなされるところです。ただ、それでは十分ではないと思います。子どもの手続き代理人は家庭裁判所調査官と対立をしたり、役割が重複するような存在ではなくて、役割を分担しながら協働、あのともに働く協働を気づくことができるものであると考えます。
 
特に私が強調したいのは、子どもの手続き代理人であれば、子どもに対して十分な説明を行うことができるという点であります。先ほども触れました通り、十分な説明は子どもさんの意思形成・意思表明の前提として大変重要でありますが、家庭裁判所調査官は中立の立場であり、また職責上もこういった活動は困難であります。実際の事例でも弁護士は放課後とか週末とかを含めて、お子さんと会ったり、またLINEなどのSNSでやり取りをしして何度も交流を持ち、その中で信頼関係を形成して、その上で意思決定意見表明などの支援を行っております。
 
資料11ページをご覧ください。この制度の課題は、利用件数が極めて少ないというところであります。家事事件手続き法制定から10年以上が経過をしておりますが、今もなお、そもそも制度の存在すら広く知られているとは言い難いところがございます。
加えて報酬の問題もあります。裁判所が選任するその意味で国選と言ってよろしいかと思いますが、そういう方法もありますが、子どもの手続き代理人の報酬が公から支出されることはありません。実際には、お父さんお母さんの双方で分担をいただくということが多くなっております
 
さらにお子さん自らが自分に代理人を付けたいんだという場合でも、法テラスの民事法律扶助制度を利用することができません。このためお父さんお母さんから報酬支払いの協力が得られない場合には、日弁連が行っている法律援助事業を利用することになります。
 
しかしお子さんにとって大変重要な制度であり、結局は離婚等の家族紛争の解決全体にとっても有益な活動であるものですので、この手続き代理人についても民事法律扶助制度を利用できるような制度改正を期待しております。
 
続けて12ページをご覧ください。裁判所側の体制整備も大変重要だと考えます。家庭裁判所の事件数や業務は大きく増えておりますが、裁判官はあまり増えておらず、調査官にいたってはほぼ増員がありません。また、全国の裁判所の支部や出張所では、裁判官や調査官が常駐していないところも複数ございます。
 
そうなるとその地域の住民は仕事を休み、小さな子を連れて遠方の裁判所まで出向かないと、と言うような事態も生じます。住まいからなるべく近い裁判所で裁判を受けることができる、このことは裁判を受ける権利の実質的補償の観点からも重要なことであると考えます。さらにお子さんに関することで言いますと、お子さんに対する関する調査を行ったりし、施行面会を行ったりする児童室などと呼ばれる施設がありますが、家庭裁判所支部の約半数には設けられておりません。こういった点も充実させることが不可欠であると考えます。
 
資料13ページをご覧ください。裁判所の問題だけではなくて私どもを始めといたします弁護士の関与も一層広がっていくべきものだと考えます。今でもその関与は十分ではないと言わざるを得ませんが、今回の改正法によって親権保護者の指定の事件などが新設されることになりまして、こういった中では、弁護士がその専門的知見を生かして活動することが必要不可欠であるものと考えます。
 
資料14ページをご覧ください。私の意見は父母の紛争等、親子関係とは一旦切り離して別のものだと考えて下さいということであります。ただこれは実はそれなりに大きな意識の変革を求めることになるかもしれません。またその点以外のところでも、離婚をするにあたって考えなければならないことは沢山あります。そうであるのに私ども弁護士を初めとするような専門家へのアクセスは必ずしも十分とは言えません。そこで離婚を考える全ての当事者に対して情報提供をする機会が設けられるべきと考えます。
 
これは親ガイダンスとか離婚後養育講座などと言われるものでありまして、法制審家族法制部会でも一時期導入が議論されておりました。今回それを受講すべきことが義務になるというようなことにはなりませんでしたが、子どもを持つ親御さん双方にとって有益なツールとなるものだと考えますのでぜひ広まってほしいと考えております。
 
最後に資料15ページをご覧ください。今日触れてきたような考え方からいたしますとそもそもこの親権という用語そのものを変えてしまってはいかがかというご提案でございます。ここに記載をいたしました6つほど新たな用語としてご提示を差し上げております。これは法制審議会家族法制部会の中間試案に対するパブリックコメントの際に、私も所属いたします日弁連の子どもの権利委員会の有志でですね、新たな要望として考えてみたものでございます。
 
今回の改正法案には入ることはなかったですけれども、これから先将来に向けての議論の参考になればと思ってあえて記載をさせていただきました。
 
私からは以上でございます。ありがとうございました。


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