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WBCと違う金メダルを目指す男

Iの実家は駄菓子屋だった。中学の頃、仲良かった。いつもニコニコしている明るいやつで、よく一緒に釣りに行ったりして遊んだ。

その後つきあいが薄くなったが、誰かからIは大学卒業後に青果の卸会社で働いていたものの、上司と喧嘩してクビになり、ひとりで八百屋をやっている…と聞いた。Iが他人と激しく揉めるというのは僕の記憶とは馴染まない。ある日、ほらあの西鉄S駅の近くの…と教えて貰った場所を通ると、Iの八百屋はなくなっていた。

先日Iの実家があった場所を通ると、駄菓子屋が焼き芋屋になっている。中学の頃とぜんぜん変わらないIは、それでもしっかりおっさんになっており、ひとりで芋を焼いていた。

「ふるさと納税の焼き芋部門で今4位。金メダルが欲しいんよー!」と焼き芋部門という耳慣れないジャンルで、思いのほか仕事にハングリーなIがおかしかった。今は朝から20時過ぎまで芋を焼く毎日だという。忙しくて一緒に呑みに行くのは難しそうだったから、焼き芋をひとつ買った。甘く大きな芋だった。

「6月になって芋が出らんようになったら、もう仕事せんけん。明るいうちから飲もうー。」とIが言った。だから6月は金メダル祝勝会と決めている。違和感を感じながら働き続け気付いたら老いているより、自分に合った金メダルを狙いにいく方がいいに決まっている。

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