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数字感が変なときは数字の方を疑ってみることも


なぜか全然報道されていないが、日本人男性のギャンブル依存症の有病率は飛び抜けていて、世界一だ。
これは大変な問題だぞ。

これは2019年8月5日のtwitter上のツイートとその添付画像の引用だ。

このグラフを見ての私の第一感は、「(日本だけ男女を分けて数字を際立たせようとしている作為感はともかくとして)男女合計でも極端すぎて数字感が変だから、集計基準やサンプリングの方法がなんかおかしいんちゃうかな?」というものだった。


「数字は嘘をつかない」というが、数字は自ら発信することはなくて人間が取り上げるものだから、人間が「数字に物を言わせる」ために都合のいい数字を見つくろってくることがある。また、意図的なものでなくてもミスによって数字の算定を間違えることもある。

そのため、びっくりするような数字に出くわしたときは、鵜呑みにするのではなくて、批判的に検証してみることも必要が場合がある。最近ではインターネット上でも相当な情報が得られるようになっている。あるいは、他者の意見を聞いてみることも有用だろう。


データソースの確認

冒頭のニュースのフリップ表の元資料は、厚生労働省のワーキンググループ『依存症者に対する医療及びその回復支援に関する検討会』において田辺等委員(全国精神保健福祉センター長会 副会長。当時)が平成24年12月21日に引用した資料だろう。

精神保健福祉センターとは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第6条に基づき、各都道府県に、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るために置くものとされる機関であり、国はその設置及び運営にかかる経費の一部を負担するものとされている(同法第7条)。


関係情報の検討

主に以下のサイトのデータ等を検討した。

✔ Wikipedia『ギャンブル依存症

✔ 篠原菊紀 公立諏訪東京理科大学教授のブログ記事
日本のギャンブル等依存症の回復率はやたら高い&ギャンブル等依存症話は過去一年有病率で

✔ 研究論文(これらWikipedia記事及びブログ記事で引用されているもの)
Problem gambling worldwide: An update and systematic review of empirical research (2000–2015)(Mark D. Griffiths 他)


詳細は各引用元のチェックに任せるとして、私が着目した主な内容は以下のとおり

① SOGS
サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS)という質問表を使用して、12項目の質問を設定し、その回答から算出した点数が5点以上の場合にギャンブル依存症と診断される。3点ないし4点の者は将来ギャンブル依存症になる可能性が高い(問題ギャンブリング
(例)
1.ギャンブルで負けたとき、負けた分を取り返そうとして別の日にまたギャンブルをしたか。
2.ギャンブルで負けたときも、勝っていると嘘をついたことがあるか。
・・・

② 最近の日本におけるギャンブル等依存症率に関する調査(SOGS5点以上)
平成29年度 生涯有病率3.6% 過去1年以内有病率0.8%
平成28年度 生涯有病率2.7% 過去1年以内有病率0.6%
平成25年度 生涯有病率4.8% 過去1年以内有病率N/A(調査していない)

ここで生涯有病率は、生涯のどこかでギャンブル依存症の疑い(質問が生涯を対象)、過去1年以内有病率は過去1年以内でギャンブル依存症の疑い(質問が過去1年以内を対象)となる割合である。

これらの最近の結果と比較すると、田辺氏の資料における「ギャンブル依存」の率(男女比率が1:1とした場合に5.6%)は、サンプリングの偏りなどの母集団を代表しない要素があった可能性がある。


③ 最近の諸外国におけるギャンブル等依存症率に関する調査(SOGS5点以上)
・生涯有病率
12か国の報告、デンマーク(2006)0.5%~韓国(2010)3.8%。
平均1.51%、中央値1.05%。
(2017年日本3.6%)
・過去1年以内有病率
17か国の報告、オランダ(2011)0.15%~南アフリカ(2001)4.80%。
平均0.83%、中央値0.40%。
(2017年日本0.8%)

④ ギャンブル依存症を検討するのに生涯有病率を利用するのは妥当か
篠原教授の前掲ブログでは、『生涯有病率は過去のどこかでギャンブル障害の疑いがあったことを示すので、基本的に減らず累積していき、ためにギャンブル障害対策の効果の検証には使えない。』(文章は原文ママ。太字による強調は吉田)という指摘がある。

たしかに、ギャンブル依存症は、依存状態でなくなれば、その後の社会的生活を特段の障害はないだろう(この点は身体的影響が残ることもある薬物の依存症などとは異なる特徴だ)。したがって、個々人の問題としても、社会問題としても、ギャンブル依存症の実態を把握してその対策を取る等の検証をする上では、生涯有病率よりも、現に障害を生じている疑いのある1年以内有病率を取り上げることが妥当ではないだろうか。

この点、日本の1年以内有病率は、③のとおり諸外国並であり、特段、世界の中でも特に相対的に重点的な対策が必要であるということにはならないのではないだろうか(対策が不要であると言うわけではない)。


まとめ

冒頭報道のフリップの表では、日本のギャンブル依存症の実態が異常で、「深刻」である。という印象を受けるような数字の見せ方をしている。この表を見ると、そのように受け取る視聴者が多数に上ることが予想される。

しかし、検討のとおり、「異常」とまでは言えない数字感が実態である可能性が高い。

数字は取捨選択されて見せられるものだから、出し手の意図や動機を考えてみることも有用だろう。例えば本件ではテレビ局はセンセーショナルな数字を示したほうが視聴者はチャンネルを変えづらく視聴率は取りやすいだろう。また、縦割り行政の弊害として語られることもあるように、行政庁は問題がある課題に対する事業をしていると社会的に認知される方が、予算獲得や人員の維持のためには有利だろう。



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