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イランリヤルをウォッチする【デノミ】(2019/8/3)


7月31日に米国がイランのザリフ外相を制裁対象に加えた。これにより米国は同氏の米国内の資産の凍結と米国人との取引の禁止を実施し、対して同外相およびイランの最高指導者であるハメネイ師は米国はザリフ氏の言論を脅威として不合理な行いをした、と挑発するなど、米国とイランとの関係が一段と悪化していると言われている。

もっとも、イランの通貨リヤルの相場はこのところ落ち着きを見せ、イラン国内ではおおむね1USDの自由市場での120,000リヤル前後となっている。

(USD/IRRのレートの推移。単位は10リヤル)

(出所:BONBAST)


通貨リヤルのデノミを公表

こうした中、イラン政府は通貨リヤルを4桁切り下げて新しい通貨単位を1万分の1とするデノミを閣議承認したと発表した。導入には聖職者などで構成される護憲評議会や議会の承認が必要とされている。

(ロイター社https://jp.reuters.com/article/iran-currency-redenomination-idJPKCN1UR37Yより引用)


イラン政府によれば、これにより、リアルの価値を高め、取引を円滑にし、紙幣や硬貨を印刷するコストを削減することができる等としている。

デノミ実施後には、現在1USD≒120,000リアルである為替レートは1USD≒12リヤルとなる。日本円にすると1リヤルは0.0011円~0.0012円くらいだったものが11円~12円程度となる。

デノミと聞くと、最近ではジンバブエのジンバブエ・ドルや、ベネズエラのバリボルがハイパー・インフレーションにより通貨価値が著しく減価して億単位、兆単位の通貨単位が使用された状況からの苦肉の策として実施された例が知られているところだ。これらのケースでは、ケタを数える難しさや紙幣の量的な必要性から実際上も取引に困難を生じていた。

イランでは、たしかに前回記事(イランリヤルをウオッチする【インフレと金貨の流通】)で示したように物価は過去10年で10倍に上昇するなどインフレは慢性的に進行し、昨年以来の米国による経済制裁の実施以降その上昇率は増加したものの、冒頭に示したように最近数ヶ月での足元の通貨価値は比較的安定はしており、どうしようもなくなってやむにやまれず、というものではないと言える。


デノミへの国内の批判

今回面白いと感じたことに、このデノミに関する国内の批判がWEB上からも見ることができたことがある。

「ゼロ排除は紙幣を印刷するコストさえも減らさない」

「ゼロの排除は、国の優先事項ではありません。議会の反対の可能性」


以上はいずれもタスニム社のWEBサイトの記事で、ペルシャ語版だが、自動翻訳で主張の概要は把握できる。

前者の記事は、エコノミストへのインタビューの形で、「わが国の経済的優先事項は現在のインフレおよび国内生産の状況にあり、すべての優先事項は国内生産に向けられるべきであり、これらの経済状況および制裁において4つのゼロをなくすことを優先したことは驚くべきことである」「設計者はまた、この問題(4ゼロの削除)が国の主要な問題の1つではないことを知っています、そして現在のインフレ状況では、我々は貧しい人々にかけられている圧力を考慮する必要があります。」など、真っ向否定といえる内容を含み、長文記事を掲載している。


Twitterの反応

twitter上で4  صفر
(4つのゼロ)のペルシャ語
により検索をした結果ではも、「それによって何が起こるのだろうか」「一部の問題は解決されるのではないか」といったものが多いものの、「自国通貨のゼロ撤去は、その価値が増加することを意味するものではない」「デノミにより経済政策を変えなかったアルゼンチン、ブラジル、ゼロ、ジンバブエ、ベネズエラは敗北した」などの発信も見られた。


雑感

イランのメディアでは、外交関係は別として、国内の経済に関しては比較的批判意見も多く見られるようだ。今回の件だけでなく、たとえばNIMAレートの自由市場相場との乖離に関しての批判がされていたり、インフレの悪化を取り上げて間接的には経済金融政策への批判と受け取れるものが掲載されていたりしているのを見た。

イランは独裁政治で検閲による言論統制が行われていると紹介されている。しかし私が簡単に比較したところでは経済関係のニュースの内容や現地の生の声っぽさは、北朝鮮などとは比べようもなく、中国に比べても相対的にはリアリティがあるように思われる。(調べる前のイメージを考えると、そこまで悪くはないように思う。というもので、イランの政体や政権を支持するなり評価するということではありません。念のため)







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