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思えば遠くに来たもんだ | カナダ横断の旅最終地 - ハリファックス -

どこか遠くへ、もっと遠くへ。

こんな思いに駆られたことはないだろうか?

20代の頃、いつもこんな思いに掻き立てられていた。

仕事から逃げたい。
日本から逃げたい。
そして、社会から逃げたい。

何もなかったあの頃の私は、そんな風にいつも考えていた。
思いはいつしか"ワーキングホリデー"という形で現実化することとなる。


29歳の私は自分探しの旅に出た。

最初の入り口はバンクーバー。
この街で6ヶ月の生活を終えた頃、私はこの街を旅立つことを決意する。1枚の鉄道チケットを持って。

Canrail Pass

今考えても魔法のチケットだ。なんせこれ1枚で大きなアメリカ大陸の西から東へ放浪しながら旅を続けることができるのだ。

行けるところまで行ってみよう。

遅くやってきた私の青春心に火が灯った。

*恐らく現在は発売が終了しているチケットなのでご注意ください。

2010年5月2日。バンクーバーを後にする。
列車はカナディアンロッキーの山々を抜け、広大な平野地帯をひた走る。
何もない大地。何もない時間。ただぼーっと流れる景色を眺めていた。

2010年5月6日。
バンクーバーを出てはや5日。カナダ最大の街トロントに着く。

久しぶりの都会、久しぶりの外の空気。
そんな気分に一服しつつも、次なる目的地に向かい足早に歩みを進める。

トロントからモントリオールへさらに5時間。モントリオールで1泊し、1日移動の後、赤毛のアンで有名な島プリンスエドワートアイランドにもう1泊。さらにそこからバスで6時間、ようやくハリファックスに到着した。


カナダの海岸沿いの都市の中では、バンクーバーの次ぐ二番目に大きい港町。とはいえ人口は40万人程度の街。日本で言えば完全に地方都市だ。

やはり辺境だけあって何もない。日本から来る旅行客も恐らく皆無だろう。

ただ、どこかとても居心地の良さを感じる街並み。

特にやることなんて何も決めてこなかった。そもそも何があるのかさえも知らなかった。ただチケットがあったから、ふらりと来てみただけ。そんな状況だった。なので、とりあえずガイドブックを片手に街を散策してみた。

ガイドブックによると、どうも「シタデル」に行くのが、この街の観光の定番らしいということに気づく。散歩がてらに行ってみることにする。

歩いて回れる程度に街はコンパクトだ。それでいて、この適度な街並みの古さ、道の狭さ、緩やかな勾配が、この街への愛着を育んでいるように感じた。

シタデルに向かうため、まずまず坂道をただひたすらに登る。坂を登るごとに見えてくる街の景色。素敵な光景に思わずシャッターが進む。

シタデルまでは後少し。丘を吹き上げるまだ少し冷たい風の中を頂上を目指して一歩ずつ登っていく。

オールドタウンクロックの横を通り過ぎ、ようやくシタデルへ。

まずはこの敷地の広さに圧倒される。歴史ある建物と大砲。丘の下へと広がる景色。まるでタイムスリップしたかのように、アメリカ大陸発見時代の景色が頭の中でどんどん妄想として広がっていく。

ここからアメリカ・カナダという国の歴史は始まったんだなと実感した。これってなかなか得られない感覚だよな。少なくとも他のカナダの都市では感じることのできない感覚を覚えた。


夕食は適当に安宿の近くで取ることにした。カナダの定番料理プーティーンをオーダー。ビールとポテトさえあれば、大抵食事の問題は解決する。ポテトに本場があるとは思えないが、やはりカナダやアメリカで食うそれは、日本で食べるそれとは、味わいが全く異なるように感じる。

そしてライブ。もう随分前のことなので、あまり覚えていないのだが、やっぱりライブミュージックはいい。トロントやニューヨークといった大都市だったらこんなにゆっくりとは聞けないだろうが、そこは田舎町ハリファックス。ゆっくりと時間を楽しむことができた。(たぶん)


翌朝。

前日の曇天とは打って変わっての晴天。予約した電車の出発時刻まではまだ数時間ある。ここぞとばかりに前日の写真を撮り直すため散策に出かけた。

もうどこを撮っても絵になる。

私の自分探しの旅において、この街が何ら私にとっての特別な体験をさせてくれたわけではない。何ら特別な思い入れがあるわけではない。ただ、なぜかいまだに思うのは、私はこの長い旅の果てで、このハリファックスという田舎町を訪れることができたのは、この旅のハイライトとして本当に良かったなということだ。

恐らくもう2度といくことのないであろうこの街に、いつまでも感謝の思いを抱きながら。

#わたしの旅行記


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