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知らなくてよかったはずなのに。

昨日の朝。3月中旬にお電話いただいたご婦人がお元気にしていらっしゃるだろうか、と久しぶりにこちらから電話をかけてみた。
昨年、乳ガンの手術、入院の時、私にお餅を焼いて小皿を渡してくれたご婦人に。
仕事が決まってよかったね、また今度は病院ではなくて別な場所でお茶を飲んだりしたいね、有名なパン屋さんの焼き立てのパンを持ってゆーちゃんを訪ねていくね、お休みはいつ?なんて会話が最後だったから。

留守番電話。
メッセージを入れて電話を切ったその後だった。
「もしもし。」そのご婦人の電話から知らない男性の声で電話がかかってきたのだった。
「あの…。母と仲良くしてくださってありがとうございました。母は3月28日に、亡くなりました。本当にありがとう、ございました…。」
「えっ?…」
私はその後、言葉が出なかったのだった。
ずっと堅い服装で通勤をしてきたから派手なおしゃれがしてみたい、いつか華やかできらびやかなドレスなんか着てみたい、夜にかかってきていたそんな電話を思い出して頭がぐるぐるしたのだった。
約束してね、お化粧してね。ゆーちゃん、遊びに行ったら写真撮ってね…。
・・電話の向こうはそのご婦人の息子さんで、その時に私は何を話したのか覚えていない。
ただ電話の向こうで男性は泣いていたのだった。
母と仲良くしてくださってありがとうございました……。
私よりも、相方R氏よりも若いはずの泣いている声を慰める術もなく、こちらこそお世話になりました、ありがとうございました、と電話を切ったあと、不覚にも私も泣いてしまった。
娘二人と息子がいるんだと話していたことや、甘いもの食べない?と笑顔で羊羮を渡してくれたことや、あんたは治るよ、きっと治るからね、ね、と病院の給湯室で。
頭がぐちゃぐちゃになり、出かける予定はやめにしたのだった。3月に声を聞いた時は元気だったのに。
・・はっきり大ショックだったのだった。
こちらからかけることはなく、いつも彼女からかかってきていた電話だったのに。
なのに。こちらからかけてしまった。
知らない方がよかったのかもしれない。私は泣いた。たくさん泣いた。
それから、しばらく呆然としてから相方に電話をかけた。
   あのね、Rさん、○○子さんが亡くなったって……。
ショックが大きかったのか、私は同じ内容の電話を夜になってまた彼にかけ、心配された。
   今朝貴女からそれは聞いたよ?貴女が大丈夫なの?
   そうだったかしら、ごめんなさいね、私は大丈夫だからね、おやすみなさいね。
眠る前にぼんやりとコスメケースを開けた。
アイシャドウを何個もならべて。
お化粧してね、約束してね…。
…私は約束を守れなかった、とまた泣いた。
昨夜の夢にあの給湯室が出てきた。お餅を焼いてもらった部屋だった。
誰もいない給湯室でタブレットを抱えた私が一人きりで誰かを待っていた夢だ。あのご婦人が出てきたわけではない。一人きり、給湯室でオーブントースターを眺めていて誰かが来るのを待ってるだけの夢だった。

明け方起きたら昨夜並べたアイシャドウや口紅が鏡の横にそのままだった。

        守れなかった約束。

たくさんのパクトや口紅をケースにしまい深呼吸したらまた涙が溢れてしまった。

深いショックだったのだな、とティッシュで涙を拭い鏡を拭いた。
    
                    ゆー。


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