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彼ら最良の…バトル・オブ・ブリテンデーと「ブラックアウト」「オールクリア」


バトル・オブ・ブリテン ( Battle of Britain )

9/15は「バトル・オブ・ブリテンデー(Battle of Britain Day)」だそうです。
1939年に第二次世界大戦が始まり、ドイツはポーランドに侵攻し占領。次いで1940年にデンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギー、フランスに侵攻し占領、勝利します。
続いてイギリスを狙うのですが、英仏海峡が横たわります。侵攻上陸する海軍を守るために、ドイツは空軍を使ってイギリス海空軍を無力化することを試みます。ここに、「バトル・オブ・ブリテン」と呼ばれる、戦局を左右するほど大規模な空軍による戦いが数ヶ月にわたって繰り広げられます。
9/15は、最大級の大規模な空中戦が行われ、イギリス空軍はドイツ空軍を退けます。2日後、ドイツのイギリス上陸作戦は無期延期となりました。
しかし、この後も空襲は大規模なものも交え、翌年まで続くのです。

この戦いの期間中のイギリス首相ウィンストン・チャーチルによる演説の一節が、「彼ら最良のとき…」(Their Finest Hour)です。

Their Finest Hourと映画(ほんの一部)タイトル

この時期を扱った映画「ウィンストン・チャーチル(2017)」の原題が「Darkest Hour」とされたのも、演説の一節を活用したのでしょう。ゲイリー・オールドマンがオスカーを獲った作品ですね。

原題といえば、「Their Finest (2016)」(邦題:人生はシネマティック!)もあります。タイトル画像は、この映画のポスター画像の一部です。ちょうどこの時期を扱った作品で、士気高揚のための映画脚本を書くことになった主人公と、映画を完成させようとする人々とを描いています。劇中劇もあるのですね。
主要登場人物のセリフに「Their finest  hour and a half」とあります。これは原作小説のタイトルでもあります。当時の映画上映は90分が多いことと、チャーチルの演説とをかけた表現なのでしょう。とても粋な言い回しですね。
わが国でこの邦題は致し方ないと思いますが、タイトルに惑わされず(?)機会があれば鑑賞してみてください。

「ブラックアウト」と「オール・クリア」

文庫版表紙

そして、今回の記事のタイトルである「ブラックアウト」と「オールクリア」です。文庫版4冊で約2,200ページ。著者はコニー・ウィリス。3年前は紙で、昨年は電子書籍でよみました。

西暦2060年の歴史学専攻の学生が、研究のために過去に行く「オクスフォード大学史学科シリーズ」SF小説です。本作の舞台は主として1940年のイギリス。欧州はドイツに席捲され、イギリスの危機感が強い時期です。かの有名なチャーチルの演説、"Their Finest Hour"や「人類の歴史において、かくも少数の人々が…」があったタイミングです。

SF好き、歴史好き(1940年は興味ある年のひとつです)で著者の前作を読んでいた私ですが、手を出すには躊躇しました。2,200ページですから。また、この著者の作品は物語が動き出すまでが長く、それも躊躇する理由でした。

主人公は3人。3人とも1940年のイギリスの異なる場所に向かいます。それぞれ異なる研究テーマを持っており、実地観測に赴くのです。

ところが送り出し側の2060年オクスフォードはトラベルスケジュールの調整のため大混乱。混乱由来の予定キャンセルを嫌い、学生達は慌ててトラベルを実施します。しかし、到着は予定通りにはいかず…

ここまでが導入。

この後は様々な視点からの描写が次々切り替わります。主人公達は旅の目的が果たせるよう現地の人に手がかりを聞いて回ったり、アクシデントに見舞われます。それぞれの場面ごとに当時が描かれるので登場人物は増え、主人公達は歩き回り、訪ね回ります。当時の生活を体験するためにデパートの店員になったり(でも包装は苦手)、新聞記者に扮し記事を書いたり、救急車を運転する羽目になったり…緊迫感ある場面が展開し、次々切り替わります。

自分たちの過去での行動がタイムパラッドクスを引き起こしたり、歴史を変えてしまうのでは…との不安が、主人公たちを悩ませ突き動かし、拙速だったり動けなかったり…

物語の鍵となる情景として、オクスフォード大聖堂(表紙にも描かれていますね)が様々な視点から描かれ、主人公の足取りを彩ります。

これ以上物語の展開を書くのはネタバレになりそうなので避けますが、読んでいて引き込まれるのは、全てを見通している(歴史を知っている)はずの主人公の周囲にいる、先のこと(歴史)を知らない人たちの感情や行動です。この作品で描かれている人物の魅力は、むしろ周囲の人々にあるようにも思えます。彼ら彼女らをひき立てる道具が主人公の役目、としては言い過ぎでしょうか。

大きなネタバレにならない範囲で私の好みを書くと、老シェークスピア俳優です。物語を通じて彼が感じる感情を想像すると、その多彩さに惹かれます。

タイムトラベルを題材とした小説によくあるように、この小説も伏線が張り巡らされていますが、気にしなくても楽しめます。

一度目はそのまま楽しみ、二度目は伏線を発見しながら楽しむのもよいかもしれません。

もっとも、2,200ページなので二度目を読むモチベーションになるまで、私は2年経ちました。これだけ経っていると、ある意味タイムトラベルなのかもしれませんね。主人公たちと同様、歴史(ストーリー)を知っていてもハラハラしました。

そしてラストは大団円。冒頭と最後は、同じシーンが別の視点で語られます。
暗い時代が明けお祭り騒ぎの中を中で感じる人たちと、”暁の先ぶれ”になることを確信して見守る人たちに。

バトル・オブ・ブリテンを描いたボードゲーム(ウォーゲーム)

…ながながと書いてきましたが、
バトル・オブ・ブリテンを扱ったボードゲーム(主にウォーゲーム)は多く出版されています。一部列挙してみます。プレイしたけど記事にしていないゲームが…

  • The Burning Blue ( GMT Games )

  • Battle over Britain ( TSR )

  • Their Finest Hour ( Game Designer Workshop )

  • Eagles over Britain ( Kilovolt Design )

  • Eagle Day ( Decision Games )

  • Skies over Britain ( GMT Games )

  • London's Burning ( The Avalon Hill Game Co.)

  • RAF ( West End Games / Decision Games )

  • Hardest Days ( Decision Games ; World at War誌 )


ここでは、「The Burning Blue」について紹介します。


詳細なレベルで再現したゲームもあります(バトル・オブ・ブリテンだけでなく、その前後をマルチシナリオで描いています)。

  • Achtung Spitfire! (Clash of Arms Games )

  • Wing Leader:Victories 1940-1942 ( GMT Games )


また、バトル・オブ・ブリテンがドイツにとってうまくいってしまい、イギリスに上陸を行う仮想設定のもとに作られたゲームもあります。

  • Britain Stands Alone ( GMT Games )

  • Sealion ( Decision Games; World at War誌 )

以下は、Britain Stands Aloneの紹介です。


バトル・オブ・ブリテンは、空軍の戦いが大局に影響をおよぼした、歴史的にも特異な例であったと思います。そして、空戦といえば飛行機などメカニックにスポットがあたりがちですが、道具(飛行機)の設計思想・技術開発(特にレーダー)・防空設備の連携や運用体制・搭乗員のローテーションや育成など、システムの戦いであったのだと思います。黎明期の技術を組合せシステム化し体制を作り、空という未知の世界に立ち向かった人たちの創意と挑戦を連想しながら、次にプレイするゲームを選ぼうと思います。