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どんぐり(長野修平さん)が語る(2)PRマンからの転身

いよいよプログラムが始まって、講師のギャラはきちんとしたものの、どうしてもBe-Nature School自体は大金を稼げる事業じゃないから、森さんや孝子さん、僕の給料なんか出たことないわけ。2年間、ほとんどボランティアっていうかさ、将来に投資してた感じ。事業運営っていう大変な仕事を、もう、ずーっと手弁当で全部やってた。

で、さすがに「このままじゃぁ、あれなんで、どうする?」って話になって、孝子さんはアイサーチに戻ることに。僕も自分のやりたい道を行くことにした。ちょうど、ネイチャークラフトのほうが徐々に熟成してきた時期だったからさ。

しばらくはまだPRの仕事も同時進行しながらね。いろんなメディアの人と知り合いになるから、ネイチャークラフトの取材してもらって、それがきっかけで雑誌の連載が始まったりとか。やりがいのあるもの、自分にしかできないものっていうのはクラフトのほうだから、徐々にそっちのほうにシフトして、いつの間にかそれだけになっちゃった感じ。どこかでバシッと決断したわけじゃなくて、自然の流れなんだよ。おかげで収入は減る一方だったけどね(笑)。

若いころは20代で独立してって思ってた。会社の社長になって社員をいっぱい雇って、屋上にヘリポートあるようなでっかいビル建てて…。みたいな、超バブリーなイメージ!

今と全然ちがうよね? あっちじゃなくてよかったよ。社長のほうが社会にも影響力あって大きいこともできるんだろうけど、そういう喜びよりも、草抜きしたりしつつクラフトをつくる暮らしのほうが性に合ってるなぁ、という気がするね。

少しネイチャークラフトの話をするとさ、自然素材でモノをつくってるときって、頭で考える言葉だけじゃない感じがあるんだよね。四季折々で気候が違うなかで、同じ植物の素材でも、取ってきた時期によって材質が変わってくるし。その素材について雑学的なことをいくら知ってても、単なる知識レベル以上のものはつくり出せない。どんな素材でも何回も失敗してるうちに、自分なりに「あぁ、これはこうやるといいんだな」っていうのが見えてきたりする。頭で考えるんじゃなくて。

料理もそう。どんなに安い食材でも実はおいしくできるし、どんなに有名でおいしい食材でもまずくしちゃうこともできるよね。

ある意味、人間関係も似たようなものじゃない? いろんな付き合いを重ねていくうちに、「あぁ、この人こうなんだなぁ」って、その人のキャラクターが見えてくる。肩書や実績だけで見ちゃうと、たとえば「大先生」って言われたら大先生にしか見えないんだけど、実際に付き合ってみると意外とダメ人間だったり。

逆に、たいして実績はなくても、すごく素晴らしい人もいる。人っていうのは、肩書や実績じゃない部分のほうが大切だなぁと思うし、人間関係をつくっていくのも、データだけじゃないっていうか。

だから、出会って間もないうちに、あれこれ聞くのって苦手なの。その点で、森さんは雑談が得意だからうらやましいなって思うよ。すごくいろいろ質問するじゃない? でも僕は聞いちゃうと、データでその人を見ちゃいそうで嫌なんだよね。なんかこう、話してるときの眼の動きとか、たたずまいとか所作、しゃべり方とかさ、そういうところに本来の性質が見えるかなぁって思うわけ。

(つづく)

*最終回となる次の第3回では、次世代に何を伝えたいのか?といったあたりを掘り下げて伺います。どうぞお楽しみに!

(聞き書き・鈴木慈子、構成/編集・小島和子)