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たかちゃん(岩谷孝子さん)が語る(3)みんなの「かあちゃん」でありたい

長野に来て、実際に始めてみてわかったことがあるの。日本の社会的養護の環境って、すごい遅れてるわけ。いちばん手薄なところの真っ只中!っていう感じ。インターナショナルどころか、発展途上なんだよね。

家庭崩壊とかで親が子供を育てられなくなると、9割の子が児童養護施設に行くんだよね。でも、施設の職員さんは3交代勤務だったりして、いつも同じ人に見守ってもらえるわけじゃない。職員さんもバーンアウトして入れ替わりも多いし。

自分の家庭はおろか、親代わりの人もいないところで育ってさ、子供たちが自立できるわけがないのよ! 人は衣食住が足りれば生きていけるわけじゃない。子供たちは今、心の飢餓状態なんだよね。とくに家庭が崩壊した子たちは余計そうでさ。うちに来るような子たちは、本当にみんな大変なトラウマを抱えていて、愛と善意だけでは育たないのよ。

そういう意味でね、自給自足以前の問題です!っていう感じ。そういう子供たちといると、「食べ物は別にもう、買ってもいいわ」と思えてくる。それよりも今は、安心で安全で愛されていて、自分が求めたときにいつも大人は対応してくれて、自分は守られている、っていうことを、この子たちが体験できることが大切。私が田畑に疲れきって「もう、うるさい!」ってなるようじゃダメ。その辺りがちょっと難しくてね。田植えとか稲刈りとか、自分たちの小さい畑なんかはやってるんだけど、当初描いてたような自給自足の生活とは違ってきたかな。

今、私が力を入れてるのは、とりあえず必要なことは里親を増やすこと。うずまきファミリーは、里親が家庭に迎え入れて養育するっていう形のファミリーホームだから、定員は6人までと少ないの。だから、子供たちを受け入れられる大人を増やしていかないと。

フリーキッズに来てる子にとっては、本物の「かあちゃん」が機能してるわけなのよね。お休みになれば実家に帰れるし。でも、うずまきファミリーの子たちはそこが機能してなくって、帰りたくても思ったようには帰れないわけ。つまり、ここが家庭なのよね。私はその子たちの「かあちゃん」のような存在でありたいの。子供には絶対「かあちゃん」が必要で、その存在なしに育っていくなんてとっても考えられない。

こういう活動をしてると、教員免許とか保育士の資格を持ってると思われがちなんだけど、私の自慢は「普通自動車免許しか持ってません!」っていうところね。教育者でもないし専門家でもなくて、そこが私の取柄だと思ってる。「専業のかあちゃん」っていうのが私の肩書。自分にできないことは専門家に頼んでいけばいいし。でね、実は子供の問題のほとんどは、「かあちゃん」がいれば解決するのよ!

お隣に100歳のおばあちゃんが住んでててね、立派な太いネギをつくるの。最初はそういうあり方が目標だったんだけど、もうね、そうはなれないなって思うよね。こういうところで生まれ育って、お天道様とともに寝起きして、クルマがなくても生活できちゃうわけだから。やっぱり私なんかとは違うよね。

そういうおばあちゃんにはなれないかもしれないけど、「みんなのばあちゃん」でいたいなって。周りに子供たちがいて、それぞれいろんな辛さや課題を抱えつつも、健やかに育ってて。この場は平和でさ、みんな大人に愛されていて。で、感謝がある。だって、いろんな恵みをいただいて、こういう暮らしを続けていられるだけで、もう自然に感謝じゃない?

こういうこと、「2代目かあちゃん」に託していきたいな。まだ出会えてないんだよね。体力と健康が続く限りは自分でやるけど、あとは若い里親さんや実親さんたちの支援に回って、自分の経験を生かさせてもらえるような状況になったらいいなぁって思う。何年後かはわからないけどね。

(聞き書き・鈴木慈子、構成/編集・小島和子)

*以上3回をもって、たかちゃん(岩谷孝子さん)のシリーズは終了です。次はどなたが登場するのか、どうぞお楽しみに!