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ポートレート撮影私的参考図書紹介  「おんなの撮り方 渡辺流」

多くの女優、アイドル、タレントを撮ってきた渡辺達生さんによる“おんなの撮り方”指南です。この2022年だと微妙なタイトル・表紙と思う人もいるかもしれませんが、中身はとてもまっとうです。とりあえず、自分がポートレート撮影に関して最初におすすめしたい1冊です。

といっても、この本には機材や技術的なことはほとんど書かれていません。女の子をかわいく撮るにはどうすべきか、“いい表情”を引き出すにはどう振る舞うべきかという心構えが主になります。初心者には必須の、ある程度撮ってきた人には忘れがちなことをあらためて思い出させてくれるような内容ではないかと思います。

とにかくしゃべっていけ、笑わせて笑われろ、バカになれ。前半ではそんな感じのことが多く書かれています。自分もそれは本当に大事なことだと思っていて、バカにされるくらいがいいといえば言い過ぎかもしれませんが、まあ撮られるほうがちょっと心理的優位というか余裕を持てるくらいの状況がいいんじゃないかなと常々思っています。撮る側にツッコミどころがあるくらいのほうがいいというか、そんな感じです。ツッコミどころというか、あくまで撮る側の意図するものなので“ボケ”みたいなものですね。
そういうことに関して、この本では「おんなを撮るなら会話8割撮影2割」という風に書いています。撮影という目的のため、その場を盛り上げる会話に8割使えということです。それだけコミュニケーションが大事ということですね。あらためて肝に銘じたいと思います。

その他、「ズームは使わずにグッと寄ることでどこをアップで撮っているのか、ひいてはあなたのここが魅力ですということを伝える」、「周りをぐるぐる回ってより魅力的な角度を貪欲に探す」、「決まったポーズなどしてもらわずに動きの中での自然な表情を撮る」など、こういう意識を持っていけということが書かれています。撮る側も撮られる側もとにかく動くことでより魅力的な写真が撮れるという感じでしょうか。

ちなみにですが、こういう「モデルそのものの魅力、個性を撮るポートレート」とは別に、「1枚の絵としての美しさを主眼にしたポートレート」という流れもありますよね。セットを作りこんだ作品であったり室内のシチュエーションにモデルを当て込んだ作品であったり、そういう傾向のポートレートです。この本は、そういった写真を撮りたい人にはあんまり役に立たないんじゃないかと思います。たぶん必要とされている意識が違うんじゃないでしょうか。「おんなは丸く撮れ」ということも書いていますが、絵画的なポートレートってむしろ直線的なポーズの美しさを求めてることが多いように思えますし、そういう意味でも求められるものが逆なのかなという気がします。

ということなので、ポートレートといっても「この子を撮りたい!もっとかわいく魅力的に撮りたい!」という気持ちで撮影する人にとってはこの「おんなの撮り方 渡辺流」はとても参考になるんじゃないかなと思います。文体的にも、先生の気楽な話を聞いてるノリでゆるく読めるのでおすすめです。

あと、興味深かったのは武田久美子の“貝殻ビキニ”に関しての記述です。強烈なインパクトだった貝殻ビキニが収録された写真集「マイディア ステファニー」も渡辺達生さん撮影によるものですが、その時のエピソードが書かれているんですね。それによると、ハワイロケ中で食事に出てきたホタテを見て閃いた武田久美子が「貝のビキニを着てみたい」と自ら提案してきたので、それをうけて急遽市場で形のいいホタテの貝殻を探してビキニに仕立てたというエピソードです。いい話!

この項では「現場での女の子の提案はすべて受け入れます。使う、使わないは別ですよ」と書かれているんですが、これ本当に重要ですね。当然ですが、アイディアを採用することで気分が乗って表情もよくなりますから、よほどでない限りとりあえず柔軟にやったほうがいいに決まってます。あとで見てイマイチだったら使わない(出さない)だけの話です。もちろん時間がないのに必要な絵が撮れてないとかの状況は別ですが。でも、あらかじめ考えていった絵よりその場のノリで撮った絵の方がよかったなんてことも多々ありますよね。やっぱり勢いが表情に出るっていうのは確実にありますから。

そして、この話を知ったうえで青森県むつ市のふるさと納税返礼品の貝殻ビキニのことを考えると「貝殻ビキニに関して武田久美子になんらかの権利はあるのかないのか、大丈夫なのか。」と心配になってしまうんですが、まあそこではどうでもいいですね。

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