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書いて途中で折れた小さな話


そうだあいつを殺そう。
死んでしまえばいいんだ。
あの時。私たちは若すぎました。
命の重さを知りませんでした。
いいえ、今も命の重さはよくはわかってはいません。
だけど、今私たちはわかっています。
命が、一人の命が、たった一つなことを。



雪が溶け始めた2月の終わり。思い出の桜の木の下で、私たちは忘れられない寒い春を過ごした。
泣き叫んでいた。違う違うと叫んでいた。赤くなった冷たい手で青白いその手をとって泣いている。
あぁなんでこんなことに。ってもらした小声は私の黒髪の間をすり抜けて寒空を抜けていく。頬をほんのりと伝う涙を指先で拭って見下ろして、青白いあなたを見つめて、やっぱり「あぁなんでこんなことに。」って言ってしまった。
「殺そうとしてた。殺す気だった。」
そう言って桜の木に寄りかかって三つ編みを撫でている。葉のなっていない枝を見つめて、そうでしょって言われた。確かに。確かにそうなのかもしれない。
私たちは、あなたを殺したかった。
命が空を飛ぶその瞬間を。
「見たかったの。」
好奇心旺盛な私たちは高校二年生。来年は受験が控えてる。そんな他愛のない。普通の高校生。
そう。どこにでもいて。どこにだってある好奇心に溢れた私たち。
高校生の青さが滲んだような真っ青な高い高い空の下。
桜の木の下。
そして、同級生の冷たい体の上。
私たちは飛び立つ命を見た。



4月の桜は満開で、新しいクラスを春色に染め上げていた。
地方の私立の女子高校。夢の花園ようでそうでない。だけど、どこか近寄りがたくって危ういその存在に今年もなる。
1年目は、そんな華やかで、そう桜のようなピンク色の生活を夢見て、そして装っていた。
2年目のこれからはちゃんと桜色なのか少し不安に思う。知ってしまった現実は本当につまらないものだ。どこの高校生とも変わらない私たち。特別にはなれない。特別ではない私たち。私たちが高嶺の花のような特別に見えているのなんて、色眼鏡をかけて私たちを見ていないクソな大人と、現実を知らない子供だけなんだ。
ごきげんようなんて言わないし、うふふふなんて笑わない。田舎の私立女子校なんてたかが知れていた。
特別になりたかったし、特別だと思いたかったんだ。
ただそれだけの感情は、現実を知っても尚捨てられない。心のどこかでくすぶっていた。
桜の中で、新入生たちがまだ若い赤い頰を上げてこちらに向かって歩いている。その顔は、私たちと同じように特別な存在になれると期待をしていた。あぁでも特別にはなれないのよ。って私は窓辺から見下ろして心で言ってあげる。
「入学式始まっちゃうよ。」
「すぐ行く。」
スカートを翻し、体育館に向かった。春の麗らかな風とは反対に心は憂鬱で梅雨のようだ。



ここまで書いて私の筆は折れました。

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