見出し画像

「人生が輝く働き方~働くことが楽しくなる会社づくり」~第20回日本を元気にするセミナー(2)~

第2部 「人生が輝く舞台づくり」 〜パネルディスカッション〜

パネラー:ネッツトヨタ南国 取締役 相談役 横田 英毅氏
パネラー:西 精工 代表取締役社長 西 泰宏氏
パネラー:人と経営研究所 所長 大久保 寛司氏
進 行:ブロックス 代表 西川 敬一

西川 (社員さんのインタビュー映像上映後)ありがとうございました。それぞれ、生き生き働いているという感じが伝わってきたと思います。
今日、私が知りたいことは、どのような条件がそろうと、人は生き生き働けるのか。あのようになるのかということです。どういう環境をつくるべきか。いままでの経営であった管理とか追求とか、そういったものを捨て去って、何か新しい、人間が生き生き働くことを前提とした経営があるのではないかなと思っています。いまから解きほぐせるよう頑張っていきます。では、ゲストをご紹介します。

 まず、ネッツトヨタ南国の横田さん。トヨタ販売店280社の中で、顧客満足度が常にトップクラス。先ほどの映像で社員さんが言っていましたが、お客様との深い絆があります。横田さんが37歳のときに、お父さんから会社を経営するようにと言われ始まったのがトヨタビスタ高知。ネッツトヨタ南国の前身です。その当時から、どうすれば社員が生きがいを持って働ける会社になるかを真剣に考え、全員が経営者意識で働く会社にしようとやってこられました。
「多数決をしない」。みんなが納得するまで話し合うこと。「教えない」。考えることが大事なのだとか、独自の経営をされてきた結果、社員の満足度がすごく高い会社になり、今ではいろいろな方が見学に行かれています。先ほどの映像の中に「人生の勝利者」とありましたが、同社の経営理念は「すべての社員が人生の勝利者になること」です。今回は、横田さんにいろいろお伺いしていきたいと思います。

 西社長をご紹介します。西精工は自動車用、電気用などの小さなネジをつくっている会社です。いまこの業界は、東南アジアなど海外製品の影響で非常に厳しくなっている業界です。取引先から価格を下げられることがあっても、値上げはなかなか難しい。そんな業界です。
西社長のおじいさんが会社をつくられて、西社長は突然、会社を引き継ぐことになりました。そのとき、西さんが会社に行くと社員がやる気を失っていた。自分がつくったネジが平気で床に落ちているというような状況。「これは相当やりがいがなっているな、何とかしなくては」ということで改革をスタートされました。そこから十何年間、理念を明確にしよう、個人の人生を考える場をつくろう、みんなでミッションステートメント、人生の指針をつくってみようと、さまざまな取り組みをされた結果、今では社員が月曜日にわくわくする、そんな会社になられました。
 
そして最後に大久保さん。いま、全国各地の経営者に影響を与えられている方です。もともとIBMでCS向上の仕事をされていたのですが、その後独立をされ、いまは講演や研修を全国でされています。私たちブロックスとは、いい会社を訪問する実践学習会でお世話になり、この日本を元気にするセミナーにもお越しいただいています。
いつもは、大久保さんにファシリテーターをお願いするのですが、今回は私が大久保さんにインタビューをする役割をします。それではご登壇いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。皆さんどうぞ拍手で。


一番大切なことは、
一番大切なことを一番大切にすることである

 いろいろなお話をお伺いしていきたいと思います。まず西社長から。午前中のお二人のご感想などをお伺いできますか。

西 皆さん、こんにちは。よろしくお願いします。
いろいろな角度から見られると思いますが、僕はやはり家庭の環境が大きかったのかなと。お父さん、お母さんが、ご自分の働き方にものすごく影響しているなとを思いました。ご両親の姿って無意識で見ているわけですよね。子どもは生き方を取り入れようと思って両親を見ないですよね。無意識の中でご両親の働き方とか生き様とかを見てきて、それが自分の中に入り、どこかの瞬間で、それがいいときもあるし、悪いときもあるし、発揮していく。それがすごくいいタイミングで発揮されたのではないかなという気がします。

西川 西精工さんでは、社員の人たちにミッションステートメントをつくるときに、自分の人生を振り返りなさいとおっしゃっていますよね。

西 そうですね。うちは全社員、ミッションステートメントというものをつくります。どんな生き方、働き方をしたいのかというのを、ものすごく時間をかけてつくるのですが、そのときに社員さんに言うのは、「おじいちゃん、おばあちゃんはどんな働き方をしていましたか」「お父さん、お母さんはどんな働き方をしていましたか」ということ。自分がいまその働き方に影響されているわけだから、そこから振り返って考えてみたら何かヒントがあったり、つながったりします。実際、僕もおじいちゃん、おばあちゃんの生き方、両親の生き方と自分がつながったときに、すごく幸せになると思うので、社員さんもきっとそうじゃないのかなと思って、そんな質問をします。

西川 自分の原点を知ることが大事だということですね。横田さんはどうですか。

横田 大切なことに気付く、これがポイントですよね。気付く人と気付かない人というのは、往々にして環境が左右しています。お二人(田中さん・神崎さんはそういう環境があったという話が途中ありましたが、ここ(このセミナー)でも同じような環境はありますね。

西川 どういうことですか。

横田 要するに、ここは「何が大切か」を皆さんに気付いていただく場でしょう。ですから、幸せになるとか、人生が輝くとか、楽しく働くとかというのは、そういう自分になりたいと思ったら誰でもなれるんですよね。そんなに難しいことではないのですが、そこに気付くチャンスがない方がひょっとしたら多いのかなと、私は思いますね。

西川 お二人は知らず知らずのうちに大切なことに気付かれた。でも気付けない人もたくさんいるということですね。

横田 「いちばん大切なことは、いちばん大切なことをいちばん大切にすることである」というのは、スティーブン・R・コヴィーの有名な言葉です。何が大切か。これは、ふと立ち止まって考えると誰でも分かるのですが、では、その大切なことを大切にしているかどうかというのはまったく別な話になってきますよね。

西川 皆さん分かりましたか。私はもう少し頑張って掘り下げていただこうと思います。ズバッと言われる言葉を聞くとその場で「なるほど」と思ってしまうのですが、帰ってみてやるのかというと、やはり腹に落ちていない限り実行に移さないと思います。できるだけこの神の領域(笑)の言葉を、もう少し解説していきたいと思っています。


人間って、潜在的に持っているものしか出ない。

大久保さん、今日はよろしくお願いします。大久保さんには、先ほどの西精工とネッツトヨタ南国の映像にどんな感想を持たれたかということを伺います。

大久保 一番インパクトがあったのは、西精工の最後に出てきた女性ですね。感想というよりは、あの人が「家でも優しくなったと言われるようになった」とか、「笑顔になった」という。それがどうしてかを聞きたいというのが一番のインパクトです。僕にとっては、あそこはものすごくポイントだと。どうですか、西さん。そんなふうに変われたってすごいことだと思うのですが。

西 彼女はきっと、もともと優しかったんですよ。人間って潜在的に持っているものしか出ない。絶対。僕は「変わる」ということはないと思っていて、持っているものをいかに引き出してあげるかということだと思うのです。だから、彼女は変わったのではなく、もともと親のことが好きで、優しくしたいとか、もっと関わりたいというのがあったと思います。それがいろいろな障害とか、プライドとか、何かがじゃまをして、そこにいかなかった。でも、そういうものを取って素の自分になったら、そういうのが出てきた。会社の中で自分のことに気付く機会や、あるいは「人と関わったら気持ちいい」みたいな機会がいっぱいあって、それを家でもやったときに、そうなっていったのではないでしょうか。

大久保 いま西さんはすごく深い話をされているでしょう。ないものは出ないのです。あれはすごいキーワードです。いろいろなものがある。そのどこを引き出すか、どこを出るようにするかがポイントだという話ですね。だから、もともとあったと、ないものは出ないという。そこを強烈に自分の中に置いておいていただきたい。ないものは出ないのです。でも、いいものがあっても出ていない人がいっぱいいると。それが西さんのところでは、もともとあったいいものが出るようになったと。

西川 会場の皆さんの会社でもいろいろな人材育成をやっていらっしゃると思います。いろいろなことを教えたりとか、指導したり。西さんの会社の人材育成のいちばんの特徴というか、いちばん大事にされているのは何ですか?なぜ気付くようになるのですか?

西 いろいろなことがあると思います。だから、どれが効いているかというのは、やはりその人によって違うと思います。同じ席の隣の人の対話によってそれが出てくることもあれば、リーダーが叱ってくれることによって出てくるときもあれば、僕が月に4回リーダーシップ勉強会といって「幸せについて考えよう」という勉強会をやっているので、それによって気付くこともあれば・・・。そういう機会は会社の中でいっぱいあります。だから、どれが効いているかというのはわかりません。毎日やっている1時間の朝礼も、隣の人たちやリーダーと関わりながらいろいろなことを考えて、自分の意見を言って、人の意見を聞いて対話する場なので、それももちろん効いていると思うのですが、どれが効いているかは個人によって違うのかなと思います。

西川 西精工について初めての方もいらっしゃるので、どんな会社かなかなかイメージがしづらい部分があると思います。先ほど「1時間の朝礼」と言われていましたが、その朝礼の雰囲気を見ていただきましょう。

(西精工の朝礼の様子を撮影したビデオの上映)

西川 こういうのが毎朝1時間続くんです。大久保さん、この朝礼はどんな意味があると思われますか。

大久保 これを毎朝1時間やっておられます。それも勤務時間内にやっているわけです。初めて西精工に行ったとき、新人に「無駄だと思わない?」と聞いてみました。だってすぐ生産現場ってものをつくりたいじゃないですか。売上も生産も何も上がらないわけですよ。彼は「2、3カ月はそう思いました、でも今は違います」と。「このミーティングがあるからうちの会社があるのです」と、入社1年目の人が言うようになるのです。
これは一人一人の教育の場であり、コミュニケーションの場です。どんな組織でもコミュニケーションが足りない。では、やっているかというとやっていない。西精工さんは、毎朝1時間、コミュニケーションと人材育成をやり続けている。そしてその軸は何かというと、彼が若いときに出し続けたフィロソフィーの解説。「こういうものが大切だ」というのをずっとメッセージし続けた。それを一つ取り上げて毎日やるわけです。
障害を持った人も普通に話すようになっています。実際に行って驚きました。ちゃんとしゃべれるようになるのです。だから、あの朝礼というのは、行かないと分からないですね。


人間関係を良くして、信頼関係をつくった中で
ものづくりをしていくと、生産性は上がっていく

西川 もう少し「大切なことに気付く場がある」というテーマで進めたいと思います。あの場でなぜ気付くようになるのか。もしかすると「自分の思いを言ってみる場がある」ということなのでしょうか。

西 基本的には絶対に否定しない。間違ったことを言っていても最後まで聞く。ずれたときだけ正す。ずれたのを放ったらかしにすると、どんどんずれていくので、ずれたときだけリーダーや先輩、後輩でもいいのですが、もとのところに持ってくる。あとは何を言っても大丈夫。新入社員がしゃべれるのは、そこだと思います。何も否定しないと。何を言っても大丈夫ということです。

横田 その「ずれた」ときと「間違った」ときはどう違うの?

西 ずれたときはテーマからずれるのです。実は、おととしの新入社員で、もう人前で話すのが嫌で、朝礼が始まるとお腹が痛くなるという人がいました。でも、半年経ったら堂々としゃべり、お腹も痛くなくなった。それはおそらく、その場が新入社員を受け入れ、「何をしゃべってもいいよ」という場だったので、そういうふうに変わっていったのではないかと思いますよね。

西川 「何をしゃべってもいい」というのは、なぜいいのですか。その奥にある思いは?

西 それはやはり、考え方がみんな違うから。価値観とか大切にしたいことは一緒だけども、みんな考えていることは違うからです。「そんなことを考えているんだ」と思ったり、こちらの勉強になるという雰囲気があるのではないですかね。

西川 普通だったら、経営者が社員にフィロソフィーを何度も何度も言い聞かせたり、大切なことに気付かせるというアプローチだと思いますが、そうされていないですよね。

西 経営者が「大切なことはこれだけども、それって僕にしたらこれだよね」とか「家に帰ったら、こういうことになるよね」と言ったところで伝わらない。自分に当てはめることが大切なんだと思います。ちょっと言い方が難しくなりますが「フィロソフィーをどう咀嚼して、自分ごととして捉えるか」ということがいちばん勉強になりますよね。自分の仕事に例えたら、家に帰ったらというように自分事として考えてみる。そうすると聞いている人たちもすごく勉強になって「そういうこともあるよね」みたいになる。

西川 それを毎朝やる必要がありますか。1カ月に1回でいいのではないですか。

西 それ、うちの親父が言っていました。「これが大切なのは分かる、俺もよく分かる」と。「でも、毎日やる必要があるのか?いま製品クレームが出ているよね」と。「クレームが出ているときはやめたほうがいい」と僕に言ったのです。僕がニコニコしながら「クレームが出ているからやるんです。」といった。すると、親父が「もう、おまえの言っていることはさっぱり分からないからもういいや」と言って、親父は諦めました(笑)。うちの親父はいま87歳で相談役です。うちの会長は私のいとこで、75歳。すごいですよ。うちの朝礼を1回も見たことがない(笑)。

西川 どっちが普通の感覚なのか分かりませんが(笑)、生産性の概念からいったら、いままでは月1回のほうが正しい。だけど、それをやっていたら生き生きしなくなっちゃった。生産性、生産性と言っていると。だけど朝礼に1時間かけていると、逆に生産性が上がり、やる気が上がった。そこがすごいですね。

西 うちの会社を見学された方から、必ずその質問が出ます。「生産性はどうなっていますか」と。うちの会社は何をやっているかというと、さっき横田さんが言われた、本当に大切なことをいちばん大切だと思って、これでもかと大切にしている。そのひとつが朝礼です。では、生産性ってどこで高まるかというと、分かりやすく言うと、僕は人間関係だと思います。
例えば「あなたには言われたくないよ」という人がリーダーで、そういう人のもとで働いていると生産性は下がりますよね。「リーダーをとにかく信頼している」という人間関係ができている中で働くと生産性は上がりますよね。「後工程のことなんか別にどうでもいい、自分たちの工程だけちゃんとやればいい」とか、「誰が言ったとか、言っていない、俺は聞いていないとか」というような人間関係の中で生産性が上がるかと言ったら、僕は確実に下がると思います。
では、うちの会社はどこを目指すかといったら、人間関係を良くして、信頼関係をつくった中でものづくりをしていくと、完璧に不良品は減るし、生産性は上がっていきます。


人が変わるときのきっかけというのは
いろいろ人によって違う

西川 大久保さん、いまのはどう思われますか。

大久保 まったくそのとおりです。ちょっと振り返りをしますと、人によって変わるきっかけは異なると言われていました。あれは大事なポイントです。多くの人は何かいい事例(やり方)を聞くと、これをやればうまくいくのかと思います。でも、人によって全部違うのです。
それから、「たくさんの要因があって、どれが効いたか分からない」というのは、ほかの要因も機能している可能性があるのです。その上での最後のきっかけになっているのだということ。だから、人が変わるときのきっかけは人によって違うのだと、ものすごく大事なフレーズですね。それがわかっていないと「これをやれば変わるはずなのに、あいつは変わらない」「あいつがおかしい」となる。そうじゃないわけですよね。そこらへんはちょっと深く考えていただきたい。
それともう一つ。「何を言っても大丈夫だ」という、安心できる空間をつくっているというのは大きいですね。ただ、黙って聞いているだけでも駄目なのです。相手の話を聞くときに、顔が否定していたら駄目ですから。
西精工の朝礼を見るとわかります。お互いが受け入れています。正しい、間違いはジャッジしないのです。「あなたの意見はそうなのね」とぜんぶ受け入れている。安心してしゃべれるようになっていく中で、半年間お腹が痛かった人が痛くなくなる。安心してしゃべれるということを体験し、自分で言えるようになって変わっていったのだろうと思います。
いまの西さんのわずかな話の中にも深い気付きを得るポイントがいくつもあるのです。人の話を聞くときはアンテナを立てていないと意味がない。表面的な話だけを聞いて、それを持ち帰っても何の成果も出ない。それは本質をつかんでいない。
だから、表面でしゃべったときに、その奥の見えないところで「何が大事なのか」というころを常に感じ取るような聞き方を、今日、これから終わるまで、ぜひそういう観点で聞いていただけたらいいのではないかなと思います。


リーダーシップは発揮しなかったのですが、
ただ、思いだけは強い思いを持ち続けていました

西川 横田さんの会社では、西精工さんのような1時間の朝礼もありませんし、教育というようなこともあまりされませんね。

横田 ある意味、西さんのところと正反対です。経営理念が浸透しているということにおいては共通なのです。まず、西さんのところは採用であまり人を選んでいないですが、私たちは採用のときに、価値観のできるだけ近い人を採用しようと考えています。やはり人間がいちばん変わりにくいのは何かというと、価値観です。その人が大切にしているものは、いちばん変わりにくいところですから、その大切にしているものは何かというところを見極めて、そのポイントを大事にしています。
あと、西さんのところは、ものすごく短時間で会社を素晴らしい会社にされて、業績も上げられた。私はものすごく時間をかけて、ゆっくりやったんですね。強力なリーダーシップとすごく弱いリーダーシップ。リーダーシップは発揮しなかったのですが、ただ、強い思いを持ち続けていました。「どんな会社をつくりたいのか」という思いだけは強かったのです。ただ、37歳で会社を任されて、自分が先頭に立ってリーダーシップをとると、たぶんうまくいかないだろうと思いました。普通の会社のやり方と違うことを考えていますので、すごく時間をかけてやりました。
時間をかけてやる中でも「急いでやったらいいものは何か」と考えると、採用ということになって、自分自身が採用の第一線の仕事をずっとやっています。37歳から、最初の9年間は担当者の仕事をしました。そのあとも第一線にはずっといます。

西川 採用が大事。それだけでうまくいきますか。

横田 それだけではうまくいかないです。

西川 例えば、もともと「人を喜ばせるのが私の喜び」というような価値観の人が入ったとします。だけど放っておいたら、ずれていくような気がするのですが、横田さんのところは教育もしないのに、なぜそういう価値観が高まっていくのですか。

横田 私たちの組織づくりで、たぶん他社と違うところは「とにかく働きがいのある組織にしよう」。これを真っ先に考えているところが違うかなと思います。
採用のときにも「何のために働くの」と聞きます。私が採用の第一線の仕事を9年間やったときは、全ての学生に「ところで君は、何のために働くの?」ということを、雑談の中で聞いていました。答えられる人はいないんですよ。「生活のため」とか「給料をもらうため」という人もたまにいますが「たぶんそれは正解じゃないな」というのは、いまの若者はみんな分かるのですね。だけど自分は答えを持っていないから、答えられない。何度も何度も会社訪問に来ていただいている中で、また同じ質問をするんです。「何のために働くの?」。給料をもらうために働くのではないのだなと思い始めた人が4月1日にそこにいるという、そんな感じです(笑)。


大切なことに早く気づく組織風土をつくっている

西川 「何のために働くのか」を問われながら入ってくるということは、そこを大事にしている会社なのだろうなと覚悟しながら入ってくるんですね。

横田 先輩を見ると、明らかに給料をもらうために働いているのではではないのだなというのは薄々分かってきます。

西川 こちらは(スライドを見て)先ほどのインタビュー映像を書き起こしたものですが、社員の方のモチベーションの源泉のようなものがいろいろと感じられます。みんな働きがいを感じていらっしゃると思うのですが、横田さんのおっしゃる「やりがい」というのはどういうことなのでしょうか。

横田 私が言っているというより、社員が気付いてきた「やりがい」は大きく二つです。「自分の成長が実感できる」というのが一つの大きなやりがいです。「成長し続ける」ということは「変わり続ける」ということで、画面の一番下にありますよね。伊藤というものが言っていますが、変わり続けられる人が人生の勝利者。私たちの経営理念の中の一説に「全社員が人生の勝利者になる」というのがあります。「全社員」とうたっていますが、これは社員同士が競争しないということです。そこには勝ち負けの境界線がないということです。

西川 自分の成長を実感できる。

横田 そう。もう一つが、お客さまとか同僚とか、ビジネスパートナーとか、地域社会のため、誰かのため、自分以外の何かのため、誰かのために汗を流す。これが働きがい。

西川 そこを大事にしながらも、あまり強制発動をせずにやる・・・。

横田 そうですね。そういう思いで働いている先輩を見たときに、そうなのかなというふうに考え始めるんですね。そして自分もやっているうちに、いろいろな場面でそれに気が付きます。「去年のいまごろと比べたらこんなに成長したな」とか。たまにお客さまが、例えば、入社したばかりのときにお会いしたお客さまが、半年経ったときに「6カ月であなた、ずいぶん成長したね」と言われたりするんですね。そういうときに、やはり自分をどんどん成長させていくということが大事なのだと気づく。それがうれしいという気持ちになる。

西川 さっきおっしゃっていた「大切なこと」に気づく・・・。

横田 大切なことに早く気づく組織風土をつくっているという、そんな感じですかね。

正しい方向に動くように、
どう環境と条件と状況をつくるかというのが大切なのです。

西川 大久保さんはいまお話をどう思われましたか。

大久保 正しい方向を指示しても人は動かないんです。私の持論ですが「人は正しいことを言っても何も変化しない」。もう一つは「人は言うことを聞かない」。これが基本です。言うことを聞いてもらえる、正しい方向に動くように、どう環境と条件と状況をつくるかということが大切なのです。「やる気を出せ」というくらい愚かな言葉はない。「出せと言ったら出るのですか」ということですよね。「ミスをなくせ」。「ミスをなくせと言ったらなくなるのか?」なくならないですよね。こういうコメントを出す人は人間力ゼロです。ミスをしなくなるような環境と、条件と、心をつくること。それがリーダーの役割です。
横田さんのところはやはり自分で気づく環境、状況ができているんです。いちばん大きいのは、たぶん先輩の存在だと思います。
「なぜ気付かないのだ」というコメントがあるじゃないですか。あれぐらい愚かなコメントはない。それを分かっているぐらいだったら誰もが気づく。これだけで何時間でも説明できますけど、愚かな典型なのです。相手は気づかないんです。もっと気づけと言っても気付かないんです。気づく環境と条件と状況をつくるんです。そこが一番大事。
「気づけ」ということは幼稚園の子でも言える。だから、そういう発言をしている人は能力として幼稚園レベル。ただ役職者が言うから、訳が分からなくなっちゃうんですね。

西川 やはり、そういう気づける場をたくさん用意していくということですね。

大久保 場をつくることですよね。

全員が表彰される会社を目指そうというのがうちのやり方です。

西川 西精工の社員さんのインタビューを見ても、いろいろなやりがいを感じておられますね。西社長、社員さんはどんなやりがいを感じておられるのでしょうか。

西 先ほどの横田さんとまるで一緒ですね。自分の幸せは何か、やりがいは何かというと、後輩やチームメイトの成長だと言うでしょう。特に、リーダーに幸せは何かと聞けば、うちのリーダーは全員こう言いますよ。「チームメイトの成長だ」と。うちの会社には表彰のシステムがあります。横田さんのところはありますか。

横田 あります。

西 うちの表彰は、昔、会社の雰囲気が悪かったときは、表彰者は5年経ったら、また同じ人が優秀社員として表彰されるような表彰でした。これは誰が悪いかというと、明らかに会社が悪い。つまり、育てていない、成長させていない会社が悪い。だから、こんなのはやめてしまおう、みんなが表彰される会社を目指そうと、やり方を変えました。先ほど横田さんがおっしゃった「全社員が人生の勝利者になる」と同じところだと思うんですよね。
表彰制度はあるのですが、うちは、誰かと競わせるものではないんです。「みんなが社長から表彰される会社をつくろう」、そう考えています。新入社員がもらう賞で「フレッシュマン賞」というものがあるのですが、これは中途社員でも、40歳で入った人でも2年以内にもらえる賞です。配属された新人を、社長に表彰してもらおうと思って、チーム全体が必死になってそこに持っていきます。だから、全員が表彰される会社を目指そうというのがうちのやり方です。

大久保 お手元のレジュメの2ページ目に、この日本を元気にするセミナーの1回目から19回目のリストがありますが、この中で鮮明に覚えているのは10回目です。ここに会社名がいくつも書いてありますが、この会社のスタッフの人たちに登壇してもらったんです。素晴らしい会社のスタッフに「どんなときに喜びを感じるか?」と聞いたら、実は全員が同じ答えだったんです。全員が同じ答え。何だと思いますか。
「後輩が成長したとき、育ったとき」。先輩の一番の喜びは、後輩の成長。そこに軸足を置いているということです。そして、その後輩がまた同じように後輩の成長に軸足を置く。こうやって働きやすい職場ができるんですね。そこを鮮明に覚えています。打合せもしないで、答えは同じでしたから。

西川 自分の成長ではなく、部下の成長のほうが幸せなんですか。

西 部下の成長が自分の成長として返ってくるのではないですかね。

西川 一番難しいですものね。

大久保 循環ですよね。ブロックスの映像のベストセラー「バグジー」の映像の中にも出てくるじゃないですか。「自分の成長は、部下の成長でしか測れない」という言葉。すごいフレーズですよね。部下が成長していないのは、自分自身が成長していないからだということを、さらっと言い切っていましたね。そういう集団だからこそ、業界は厳しいのに、バグジーの業績がいいわけです。そこに軸足を置いているというところが、たぶん共通しているところだと思います。横田さんどうですか、後輩の成長に軸足を置いているというのは。

横田 そうですね、この逆の場合を考えてみると分かりやすいと思います。「部下が成長してくると困る」と思っている上司がいるような会社も、あるのはあるのです。
例えば、採用活動をやっていると、すごく優秀な若者がいますよね。社内の先輩社員と面談させたりしますよね。すると、その優秀な男が自分の将来のライバルになると困ると思って、ちょっと遠ざけてしまうというようなことが実際に起こってしまうんです。うちの会社ができたころ、よその会社でそういう風景を見たんです。
「なるほど、そうなのだな」と。人間というのは誰でも「弱い心」を持っているわけで、その弱い心に惑わされて、そんな行動を取ってしまうということはあるわけだから、それの正反対の会社をつくろうと考えました。先輩社員が「自分たちより、もっと優秀な若者を採用したい」という思いで採用に携わる、そういう組織風土をつくりたいし、後輩をどんどん育てていって、自分を追い越すぐらいになることを期待している。そんな、後輩の成長を促すようなコミュニケーションを取る先輩が増えてくる会社をつくりたいと思ったら、だいたいそんなふうになりました。
何でもそうですけど「こういう会社をつくりたい」という強い思いを持ち続けること、それが一番大事なところではないでしょうか。できない人とか、やらない人を見ていると、それを一番感じます。思いが弱すぎる。たぶん「業績を上げたい」という思いはありますよね。業績を上げたいという思いは誰でも持っていますが、業績というのは結果ですから、そのプロセスを考えてみる。すると、そのプロセスの中にたくさんの課題があるわけです。
そのたくさんの課題の中に、社員がどんどん成長していく会社、自分以外の人に喜ばれることが働く喜びになるような、そういう社員を増やしていく会社、コミュニケーションのいい会社、チームワークのいい会社、今だけを考えるのでなく、遠い未来を考えながら働く、そういう人の多い会社という、そのあたりのプロセスに対する強い思い。これを持ち続けるというのが、すごく大事だと思います。そこが、できるか、できないかが、一番の分かれ道かなと、最近強く思っています。

私がやってきたのではなくて、
社員がやってきたんです。

西川 40年前、横田さんが会社をつくられた当初、どんな思いだったのか、教えていただけますか。

横田 こういう会社をつくりたいと思いだした?

西川 トヨタビスタ高知を任された時の、最初の思いはどのようなものでしたか?

横田 私は資本家の一族だったので、37歳でいきなりトヨタの5番目の販売チャンネルを任されたんです。おまえ、ここをやれと。そのときに一番感じたのは、世の中というのは、すごく不公平にできているなと思いました。私がもし一般のサラリーマンの家で生まれていたら、こんなふうにならないよねと。たぶん客観的に見ると、自分は幸せに違いない。ありがたみはまったく感じていないのですけど(笑)。かえって迷惑くらいに思っていますけど(笑)。でも客観的に見ると、これは絶対に自分は幸せな人だなと。こう思ったので、では、どうやって落とし前をつけるか。チャラにする方法を考えたわけです。
そのときに「社員を幸せにする会社をつくろう」と思いました。それで、いずれ100人以上の会社になるだろうから、100人ぐらいの幸せな人がそこにいると、自分はやるべきことをやったのかなと思えるはず。そういう未来像を描いていました。それがバブルに突入する前夜だったので、「こんな考え方だと、業績は中の上ぐらいで止まる。トップまではいかないだろう」と思っていました。ところが、バブルがはじけて世の中が普通の世の中になったときに、「あれ、こういう考え方のほうが業績も上がるな」ということが分かったんです。1994年、1995年ごろです。
皆さんにお聞きしたいのですけども、「給料をもらうために、苦しいことも乗り越えて働こうという人が集まっている会社」と、「自分の成長のため、周りの人の成長のため、お客さまや同僚、ビジネスパートナーにどうやって貢献するかという思いを持ちながら働く人が集まっている会社」と、どちらが業績が上がると思いますか?
絶対に後者ですよね。後者のほうが給料は上がりますよね。給料をもらいたいと思って働いている人は、給料をもらえなくなっていくでしょう。いまは、そういう世の中になっているのではないでしょうか。
だから、こういう「人が輝く組織づくりをしよう」という考え方は、同時にその働いている人を幸せにするというだけではなく、業績も上がるようになるんです。これは本当は狙うべき目標ではないのですが、結果的にそうなるのではないでしょうか。

西川 それで、40年間ぶれずに、ずっとやってこられたというのが横田さんだということですね。

横田 そうですね。私がやってきたのではなくて、社員がやってきたんです。社員がつくったオンリーワンの会社を目指している、という感じですね。

大久保 いまのところ、分かりますか。すごいポイントでしょう。「私がやったのではない」と言われたでしょう。社員がつくってきたのだと。客観的に見たら横田さんがつくってきたんですよ。でも、あの感覚が大事なんです。あれが本質なんです。「横田さんのところって、社員がつくったんだってよ」なんて言うようでは学びはゼロですよね。あの方の話って注意して聞かないといけないんです(笑)。「ほんのちょっと」というのが、だいたい10年なんです(笑)。みんな勘違いしてしまう。
それから、冒頭で「いい組織をつくるのはそんなに難しくありません。誰でもできます」とさらっと、とんでもないことを言われています。本当は、その後にすごく文章があるはずなのだけど、この方は割愛する癖があるんです(笑)。だから、その後ろの長い文章を読み解かないとわからないんです。ということで、今後もこの方の話は、そういうものだと思って聞いてください(笑)。
あと「社員を幸せにして人生の勝利者にする」という、最初に「思い」が大切だと言われました。そのとおりですよね。でも「思い」があったら、できると思いますか?できないですよ、何も。「思い」の次には、具体的に行うための「知恵」がいる。「思い」があったら何でもできるというのはナンセンス。「知恵」がなかったら動かない。でも「知恵」があっても、動かし続ける「情熱」がなかったら駄目なのです。だから、スタートラインは「思い」がなければいけないのだけど、具現化するにはいろいろな「知恵」が必要。経営者の話というのは、その「知恵」の部分がいっぱい出てくるんです。でも、その「知恵」を学んでも、冒頭にある「思い」がないと駄目だし、やり続ける「情熱」がなかったら駄目なのです。
それから「やり方」というのも、社風と人によってぜんぶ違うのです。だから、これは自分自身で考えるしかありません。西さんも、沖縄教育出版の朝礼を見て、それから自分なりに考えて、自分のところに合う朝礼をつくられたわけです。そのまま、丸ごとは導入されていないんですね。そこは知恵です。あと、やり続けているのは情熱。やはり、この三つがセットでないと、事を成すことはできないのだということは、ちょっと押さえておいていただきたいところです。

西川 ありがとうございます。

「いい仲間がいる」ということが、
働く人の力になっている。

西川 私はいつも社員さんのインタビューから紐解いたり、想像しながら考えていくのですが、2社の共通点のひとつが「仲間の存在がエネルギーになっている」ということでした。
このあいだのラグビー日本代表のインタビューを聞いていても、同じような感じを受けたのですが「いい仲間がいる」ということが、働く人の力になっている。目的を共有する仲間と働く喜びというのは、相当なものなのだろうと思ったのですが、西社長、やはり、この絆とか強い結び付きということを大事にされていますか?

西 それは大事にしました。ただ、どのようにして強くしてきたかというと、これは、かなりしんどいことですよね。いまは現場リーダーと現場スタッフの関係ですよね。リーダーは、言いたくないことも言わないといけないだろうし、下手したら、嫌われるようなことをやってこないといけないだろうし、やはり、ものすごくしんどいことだと思います。
昔は僕とリーダーがやっていましたが、いまは、ほとんどしていません。いまは現場リーダーが現場の仲間たちとそういうことをやっています。この前、社員さんとの飲み会であったことです。さっき、表彰制度の話がありましたが、その席に社長から表彰された新人と、表彰されなかった新人がいるんです。その飲み会の場で「どうして表彰されたか、されなかったか」とか、本人がいるのですが、それを考えてみようとみんなが言い出して・・・。お酒、おいしいですか(笑)。それが、だんだんおいしくなってくるんです。焼き鳥屋でやったんですが、異様な雰囲気ですよね。最初だけみると、お店の人も「この会社はみんな仲が悪いな」と思っていますよね。だから、そんなことをして楽しいかと思われると思いますが、でも、そこをやらないと絆は生まれない。僕は、もう完全にオブザーバーなんです。うちの会社では、私が参加する「飲み会」を年間約65日していますけど、完全に横で見ているだけなんです。
先輩が関わって、賞を取れた本人はどう思う?取れとれなかったらどう思う?なぜ取れなかったと思う?みたいなことが、焼き鳥屋で交わされています(笑)。もう一回言いますけど、最初は雰囲気が悪いですよね。お店の人はうちの会社をどう思っているのでしょうか(笑)。ただ、そこを通ってこないと、絆とか信頼関係とかにはならないですよね。

西川 ラグビー日本代表チームも、そのあたりをかなりやりあったそうですね。そこを乗り越えないといけないんですね。

西 その飲み会では「では、明日から何をする?」と話し合っていました。その新人は「あいさつ運動をします」とか言っていました。それから1カ月、あいさつ運動をしています。でも、やはり一人にはさせないというので、チームの全員が出てきてやっています。僕と一緒でみんな体育会系なのでしょうね(笑)。

西川 西社長がずっとおっしゃっているのが「大家族主義の経営」ですね。家族のような結び付き。そういう関係が大事だということですね。

西 そうですね。だから「手をつかんだら、もう離さない」みたいな。ただ、「考えさせる」ことをしています。これは横田さんの会社と一緒で、自ら主体的に動くために「どう思う?」と聞くことを、年がら年中やっています。うちの会社は「行動規範」の中に書いてあるのです。「どう思う、こう思う、ではやってみよう」と。いいでしょう(笑)。
横田さんのところから発売されているDVD教材で『どう思う』というタイトルが発売されて、次に『こう思う』というタイトルが出ていましたが、うちは、もうひとつ「では、やってみよう」という言葉が入っています。でも、横田さんの会社と、すごく思想が似ているんです。

大久保 いまの西さんのお話の中で、すごく大事なところがあります。表彰された人と、されない人に「どうだ?」と言ってみんなに議論させているでしょう。これ、普通の組織でやったら崩壊しますよ。これが成立するのは、両方に対しての西さんの思いやりの深さがすごいからなんです。

西 横で聞いているだけです(笑)。

大久保 基本において、西さんは人を大切にしている。表彰された人もされない人も分け隔てなく、この人は本当に一人一人を大事にしている。そのベースがあるからこそ、先ほどのようなアプローチが効いてくるのです。表面上のアプローチ方法だけやったら、すぐに崩壊します(笑)。社員が職場に戻って、話もしなくなるということもあり得るんです。
さきほどお話ししたでしょう。言葉の奥を見ていかないと、本質は分からないのだと。表面のところだけをみて学んだら、全部滑ります。見えないところに本質がある。そこを感じ取る力、洞察する力を、ぜひ身に付けてほしいのです。そうでないと成果を出すことができない、残念だけど。表面だけではできない。同じようにやっても、うまくいかない。ベースができていないと、できない。
西精工は、社員同士の信頼関係もすごいのです。例えば朝礼を毎朝1時間やっているわけですから、ものすごい信頼関係が生まれるわけです。その他にも、いろんなイベントをやっておられます。イベント会社かというぐらい、たくさんのイベントをみんなでやるわけですね。「とくしまマラソン」も全員で出るし。そういうものの中から、お互いの信頼と尊敬という土壌ができているのです。
それから、社員一人一人を大切にすることにおいても西さんの思いは、すごいです。あるとき、西精工を訪問された方が、「何で、そういうふうにされるのですか」と質問されたのですが、西さんは「社員さんが、かわいくないのですか?」と言い返されていて、言った人はびっくりされていました。「社員を本当に大切にしていたら、そんな言葉は出ないでしょう」というぐらいストレートに言われた。西さんは、そういう思いで一人一人を大切にしているのです。そのベースがあって、初めて先ほどのようなアプローチが成果につながるのだと理解しておくことが大事だと思います。

西川 強固なチームが個々のやる気に影響しているんですね。社員の人が「自分のためにやることは甘えが出るが、チームのためだったら、絶対手を抜けない」と言われていましたが、切磋琢磨しあっている感じがします。


表向きは「社員は家族ではない」と言いながら、
最終的に家族のようになったらいいなと思っています。

西川 インタビュー映像に「自分の居場所がある。家族のことまで心配してくれている」という言葉がありました。西精工さんでは、プライベートもみんな気にし合っている感じなのですか。

西 それはもう、できる限りその人の背景を大切にする。例えば家族のこととか。だから「今度、息子が大学に入った」「結婚する」「子どもが障害者認定された」とか、いい話も悪い話も。例えば「親が認知症になった」というような悪いことも、せめてチーム内で共有してほしいと言っています。そうなると、もしメンバーが「早退します」と言ったとしても、彼を早く帰らせてあげようと、サポートすることが自分の幸せになりますよ。そういうところですよね。
うちの会社は子育てをしている女性もたくさんいるので、いつも1時間遅れて出勤するとか、時間休が取れるんです。中国・四国の製造業で初めて、うちの会社が「プラチナくるみん」に認定されたのですが、時間休が取れる制度があります。介護している方とか、子育てしている人が「2時間休みます」「3時間休みます」と制度を使っています。
しかし、何よりも他の社員さんが、それをフォローしたり、カバーしていることが、うれしい。それは、家族のことなど、その人の背景が分からないと、そうはならないと思うんです。

西川 横田さんにお伺いしたいのですが、横田さんのところは大家族主義ではないのに、お互いがとても親密な関わりを持っておられますね。

横田 それは、強力なリーダーシップを発揮して会社を引っ張った人と、自然にそういうふうになるように考えた人との違いでしてね。私は最初から「社員は家族ではない」と言っています。ちょっと冷たいんですね(笑)。要するに「一定以上やる気がなかったら、居づらくなるよ」と。「家族だったら、それでもいられるけれどね」という感じです。でも表向きは「社員は家族ではない」と言いながら、最終的に家族のようになったらいいなと思っています。
結果的にどうなるかというと、忘年会とか懇親会の出席率がどんどん上がってくる、社員旅行の出席率が上がる、社員旅行に奥さんが付いてくる、子どもが付いてくる、お母さんが付いてくる。この前は彼氏が付いてきたりしていました。そういうふうになっていくと、自然に家族のような組織になりますよね。そんな感じです。

西川 それは、やはり西さんのところと同じように、横田さんのところも何でも言い合ういう厳しさの面もあるからですか。

横田 それはあります。結び付きは結構強いですね。社員がときどき、休みの日に同級生に会ったとか、県外で働いている人に会ったとかいうことが雑談の中で話題として出るわけですよ。同級生に「仲のいい社員が家族同士で、休みの日に一緒にどこか遊びに行く」とかいうのを言うとびっくり仰天すると。こういう話はよくしています。

西川 そうなる要因は、やはり多数決をしないということだったり、トップダウンではなく、みんなで考えていくというようなことがあるからですか。

横田 それは、少しは関係があります。いろいろなことが関係していると思います。要するに、お互いが好きなのです。お互いが好き同士。みんな忘年会なんかに子どもを連れて行きますから。みんな、その子を抱っこしていますね。どこの子がどういう感じというのも、だいたい先輩が知っています。最近は、自社で保育園もつくっていますから、そこには子どもが30人ぐらいいて、みんな同級生ですよね。先輩、後輩も含めて30人ぐらいがいます。ずっと大人になるまで交流があると思うんです。仲の良かった子どもが、とうとう両方とも大学生になっていました。その大学生同士の男女が、やはり忘年会なんかに来ます。


「ワークライフバランス、くそくらえ」くらいの勢いで言っています(笑)。やはり境目がないほうが幸せです。

西川 どちらにも昔の会社のような家族同士の絆がある。そこで、これを聞いてみたいと思います。「ワークライフバランス」ということをどう思われますか。

横田 大企業はそういうふうになってしまうのではないかと思うのですが、中小企業は絶対に「ワークライフバランス」は駄目ですよね。ワークライフ・インテグレーション、融合ですね。インテグレーションじゃないと、さっき言った、時間で働いたり、休んだりはできませんよね。例えば、誰かが産休へ入ったら、代わりの人がその人の仕事を手分けしてフォローする。営業の女性などは、産休明けに戻ってくると、その分配してフォローしていたお客さんを全部その人に返すんです。そうやって融合させている。休みの日も、ちょっと用事があったら子どもを連れたまま会社へ来てしばらく仕事をして、また帰ったりしています。

西川 働く時間に家のことを考えてもいいわけですね。

横田 そうですね。お互いに家のことの相談なんかも、よくしていますよね。
だから、ワークとライフは分けたら駄目。バランスさせようと思って、片方にウエイトを置くと片方が軽くなるでしょう。片方にウエイトを置くと片方が軽くなる。それがバランスですから。それをバランスさせるとうまくいかないですね。

西川 西さんはどう思われますか。

西 僕は講演でもよく「ワークライフバランス、くそくらえ」くらいの勢いで言っています(笑)。やはり境目がないほうが幸せです。この前、うちの社員さんの作文で「図面を家に持って帰っている。家に持って帰ってじっと見ながら、どういう設計にしようかなと考えるのが好きです」と。ときどきビールを飲みながら。ビールを飲みながら仕事をすることの良し悪しは横に置いておいても、そういうプライベートな時間でもじっと図面を見ている。僕はそれで一番影響を与えるのは、子どもだと思います。「仕事って楽しいんだ」と感じるでしょう。親が仕事を家に持って帰って、ニコニコしながらやっている。その姿に子どもが一番影響を受ける。「お父さん、仕事って楽しいものなんだね」と。そういう意味においても、仕事とプライベートの境目ってないほうが、幸せに近づく働き方・生き方ができるのではないかなと、僕は絶対に思います。

大久保 まったく同じ感覚です。「ワークライフバランス」と言ったときに、日本人は、あまりに仕事ばかりでプライベートを犠牲にし過ぎた、いき過ぎた面は現実にあったわけです。そういう点では振り返る必要があると思うのですが、そもそも、この言葉自身が私もおかしいと思っています。本当に分けられるのかと。会社から家に戻って仕事のことを考えてはいけないのかと。それが楽しかったらいいわけですよね。
ワークに対する考え方が、日本人と西洋人と違うわけです。西洋人は「仕事は罪」という思想で、神様が罰として働けという発想。片や日本は「働くことは尊い」という国ですから、ベースが全然違うわけです。そこであんな言葉を持ってくること自体がナンセンスだと思います。だけど、いき過ぎたところは修正が必要ではないかなと思っています。
いい組織の共通項目で出てくるは、「プライベートの情報共有のレベルが高い」ということです。公私を分けて「これはプライベートだから」と言っていたら、実は本当のチームワークはできないというのが私の考えです。先ほど、西さんが言われたように「親父さんの具合が悪いんだろう。だったら今日はちょっと早く帰ったらどうだ」「俺たちが補うぞ」。これが本当のチームワークです。
ところが、仕事とプライベートを分けたら「ちゃんと5時までやってください」となってしまうわけです。これは働いていてつまらない職場です。もう少し言うと、辞めたくなる職場なのです。いい会社は、行き詰まったときにプライベートでも助けてくれる。それはプライベート情報の共有化ができていないと駄目なんです。会場に四国管財の中澤社長がいらっしゃっていますが、あの人は、スタッフの中にどんどん入っていかれます。「社員の家庭の中まで入って行かない限り、社員が幸せにならない」という思いなんです。普通だったら、やっちゃいけないことですよね。でも、それが結局、社員の幸福度を高めている。
西精工さんに訪問して感動したのは「社員の幸福度を上げる」と言われること。「社員満足」は、よく言われますよね。社員が会社で満足していても、プライベートで行き詰まっていたら幸福かというと、幸福ではない。「社員幸福度」を追求するというのは、その人の全部を見ていかないとできないんですよね。
だから、ESだ、社員満足度だと言っていたことが、実にレベルの低い話だなというのを、ずいぶん前に西さんの話から感じました。社員の幸福度を追求する。これは横田さんもまったく同じだし、中澤さんも同じなのです。社員の幸福を追求する、そしてそれを実現する手助けをする、会社はその場である。社員は幸せを感じているから、働けと言わなくても働く。だから結果は出る。こういうことではないかなと思います。

西 ブロックスさんでつくっていただいたDVD(DOIT!97・98号)の中で、係長の橋本が率いるチームが出てきます。鬼軍曹みたいなリーダーです。少し前の話なのですが、その橋本のチームメイトの奥さんが乳がんになったんです。「奥さんが乳がんになりました」ということをチーム全員に発表するわけです。そしたら、みんなが「絶対にこいつだけは残業をゼロにしよう」「奥さんが回復できるまでは、絶対に定時に返してやろう」と言ってやっていました。
そういうことを提言してやることが、彼らにとっての幸せなんですね。それを横で見ていて、僕が一番幸せな気分になりました。だから、プライベートのことも境目なくチームのみんなに言って、その中でみんなが協力し合うといったところが大事なんだと思います。ただ、黙っていたらそんなことにはならないですよね。

西川 強固な人間関係、深いつながりが、働く時間の楽しさをアップするというのが分かりますね。


自分の使命を考えて「それをやっているときが一番幸せ」ということになれば、主体性というのは自然と出てくるのではないかなと思っています。

西川 次に「主体性の発揮」について伺います。社員のやりがいに大きな影響を与えるのが、「自分がやりたいと思ったことを、やりたいようにできること」。主体性が発揮される舞台をつくってこられたと思うのです。でも、「好き勝手にやる」ことが主体性なのかというと、そうではない。先ほどのネッツトヨタ南国さんの映像の中で「目的に沿った上の自由」と言っていましたね。その主体性についてですが、横田さんは、主体性の発揮について、どのように思われていますか。

横田 主体性という言葉で思い浮かべるのは、同じような意味でいくと、リーダーシップかな。

西川 自らやる。

横田 主体性というと「前向き」というだけではないですね。リーダーシップを誰でもとれる、全員がリーダーというような組織を最初から目指しているんです。そうするためにはどうしたらいいのか。これは、具体的なノウハウの話ですが、「発言する」ことの重要性を常にアピールする。私たちの社訓の3番に「参画とは、参加することではない、発言することである」と書いています。とにかく、発言することの大切さというのを、常にうたっています。
例えば会議では、一つのテーマに対して順番に、時計回りで意見を言ってもらうんです。最初のうちはパスする人がいましたけど、それをしばらくやっていますと、パスする人はいなくなっていきます。ということは、意見のない人はいないということなんです。「このテーマについて順番に、必ず意見を言ってください」と言うと、みんな意見を言うのです。何回まわしても、みんな意見を言います。それをぐるぐるやっています。
同時に、先輩とか上司にあたる人は、変な意見に対して「眉をひそめる」ということを絶対にしないようにするんです。ポーカーフェイスです。「そうか、彼はそういうふうに考えているんだな」と受け止める。要するに、問題発見の場なんです。そういうふうに捉えて会議を進めていくと今度は、しばらくすると、「しばらく」と言っても4、5年ですが、みんなが手を挙げて、新入社員でも誰でも、意見のある人がどんどん積極的に発言するようになります。みんなが発言するようになると、主体性を持った人が増えてくる。そういうイメージですかね。リーダーシップですね。

西川 まず自分の意見を発言する。理念の中にも「考える、発言する、行動する、反省する」ということがありますが、これが大事なんですね。

横田 「主体性」という言葉の意味と同じなのですが、結局「成長」なんです。人間の成長というのは、発言することによってすごく促される。いくら、いい話を聞いても成長しません。それは知識が増えただけ。

西川 今日のセミナーは成長の場ですね(笑)。

横田 成長するように島をつくって、対話形式でやっていますから、成長する人はするでしょうね。

西川 発言が大事だということですね。

横田 発言するからいいのです。

西川 ありがとうございます。

大久保 初めて横田さんの会社へおじゃましたときのことを覚えています。小松さんという方が横田さんのことを何と言ったかというと、「戦略的に存在感を消している人」だと言ったんです。戦略的に存在感を消すことができるのか。これはちょっと深い問いになるので置いておきますが、横田さんが職場にぶらぶらっと出ていかれる訳です。すると見事に社員は無視しています。誰一人、「社長が来た」という感じはないのです。だから、横田さんのリーダーシップというのは本当に珍しい形だと思います。普通は、社長が来たとなると、ちょっと空気に変化が出ます、波が。

西川 良い変化が?

大久保 良いも悪いも含めて、何もないです。「あ、いたの?」というぐらいで、もう全員に無視されている(笑)。すごいですよ。ネッツトヨタ南国は全員がお客さんのほうを見ているのですね。片やすごい会社がありますよね。社長が現場に来たとたん、お客さまと対談している社員まで、全員が立って社長に挨拶する会社があったのですが(笑)、それとは対照的ですよね。それを思い出して「戦略的に存在感を消している」と。

西 以前、私が横田さんのところで講演したときのことです。講演の最後の方は、ちょっと泣くような話だったのです。横田さん、すごいんですよ。そっと明かりを暗くするんです。すごいなと思いました。

西川 西社長、主体性、リーダーシップはどうやったら高まってくるのでしょうか。

西 どうやって、社員の主体性が自ら自然と発揮できるようにしたかと言うと、やはり、本人に自分の人生を考えてもらうことですね。会社には「ミッション」や「ビジョン」がありますが、個人にも、ミッション・ビジョンを持たせようと思ってそういう場をつくりました。これは横田さんの言うように、5年かかりました。月に1回の勉強会を5年くらいかけて、ようやく社員が一つの紙にまとめられるようになったんです。「私はこんな人生をおくりたい」とか。

西川 少しご紹介いただくと、ミッションステートメントには、どんなことを書いていくのですか。

西 ミッションステートメントには「どんなときに幸せを感じるか」、それと「どんな人になりたいか」、「自分の役割、役目は何なのか」。会社で、家で、地域でどんな役割なのか。「何をいま頑張っているのか」、「自分の十カ条は何か」。このへんは目的なのですが、そのあとに目標をつくります。「死ぬまでにやりたい30のこと」というのをつくります。時間をかけて本当の自分と向き合ってやっていくんです。
人は「使命」を帯びたら動き始めますよね。使命を帯びるように帯びるように、悪い言い方をすると、仕向ける。すごく分かりやすいのが、お母さんですよね。お母さんは、子どもを産んだら「子どもを育てる」という使命を帯びるじゃないですか。これ以上の例えはないと思うんです。
使命を帯びると、勝手に動きますよね。だって、子どもを育てないと子どもは死んじゃうので。何かに命令されて動いているのではなくて、子どものためにおいしいご飯をつくって、うんちの面倒を見て、お風呂に入れてということが、やらされ感なしでやりますよね。「子どもを本当に幸せにしたい」と思っているので勝手に動きます。それが「使命」。
うちの社員さんもそういうものを自分で考えていきます。自分の使命を考えて「それをやっているときが一番幸せ」ということになれば、主体性というのは自然と出てくるのではないかなと思っています。ただ、やはりそこに行くまでには、5年ぐらいはかかりましたね。

西川 今日の午前中の田中さんも神崎さんも「自分の役割はコールセンターの受付ではなく、人を幸せにすることだ」と。「おじいさん、おばあさんに幸せになってもらうことだ」と、そんな使命感で働いておられましたね。

西 そうですね。一番大切なのは「誰のために」ということだと思います。先ほどの映像でも社員さんが言っていましたが、自分のためには頑張らないけど、みんなの為になるとサボれないというのがある。うちの社員さんは残業が大好きです。休日に出てきたいと思ってしまう。なぜなら、やはり「お客さんのために」とか「営業部のために」となったから。だから、残業したい、出てきたいとなる。

西川 その辺が霞が関の人たちは分からないのですね(笑)。

西 だから「やらされ感がある」とか「残業が嫌だ」と思うのは、誰かにつながっていないというところからだと思うんです。「仕事」と「誰かのために」がつながったら、少しくらいの重労働だって、ハードワークだってしたいと思うのではないですかね。

大久保 西さんのところにもずいぶんおじゃまさせていただいているのですが、1回、2回では西精工の素晴らしさが、分かりませんでした。何回か訪問してきて分かったことがあります。それは、とにかく人が伸びている、成長しているんです。今日来られている、ヨリタ歯科クリニックさんもスタッフが伸びている。
数年前に見つけたのですが、頭が良くなる、成長できる方法があります。いまからちょっとだけ紹介します。どうしたら頭が良くなると思いますか。使えばいいのです。頭を使うとはどういうことか、ブレイクダウンするとこうなります。まず「考えること」です。その次に「書くこと」。そして先ほど、横田さんが言われたように「発言すること」。「評価をもらうこと」。西精工はこれをくるくる回しているのです。これを続けると成長できるし、頭も良くなります。
ヨリタ歯科クリニックさんでも同じです。みんな書くのです。こまめに書く。そしてその書いた内容の質の向上が、能力向上、生産性アップ、スキルアップ、全部につながるのです。
僕が西さんのところから学んだ一つは、やはり考えるだけでは駄目で「書くこと」と、発言して、コメントをもらってということを何回も繰り返す。これがすごく大事ではないかなと思います。いい会社は、これをきっちりされているなと思います。西さんのところでは、組織としてやっているわけですが、これは個人としてもできるわけです。その回転をさせていくと頭が良くなります。一番良くないのは「いろいろと考えているんだけど・・・」といって書かないこと。考えていることは消えてしまいますし、ぐるぐる同じことばかり考えるので、成長しないですね。考える、書く、発言する、コメントをもらう、そしてまた考える。西さんの会社では、これを全社的に仕組みとしてうまくつくっておられます。

頑張っていない、楽しんでいるという感覚なのです。
これが一番パワフルなんです。

西川 「使命感の醸成」というか、使命感が生まれるプロセスについて横田さんに伺います。先ほど映像で新人が先輩の姿を見て「先輩がつくったお客様との絆を壊してはいけない」と発言しておられました。なぜ、自分の役割を使命として感じられるようになるのでしょうか。

横田 その「使命感」というものと「自分のやりたいこと」というのが一致してくるといいですね。価値観というのは、要するに会社で言うと経営理念ですね。普通はどこの会社でも経営理念があって、それを社員に対して浸透させよう、浸透させようとしていますよね。

西川 普通は・・・

横田 ええ。私は、それを逆の方向でやったのですね。もともと良い価値観を持っている人をできるだけ集めて、「みんな、自分がどうなりたいの?」「自分はこの会社がどんな会社だったらいいの?」というふうに問いかけていくわけです。無記名のアンケートを取るのですが。
問いかけていくと、いろいろな「きれいごと」がどんどん出てきます。間違って理性が働くのですよね。普段、頭の中には「もっと給料がほしい」「楽をしたい」と思っていますよね。だけど「この会社がどんな会社だったらいいのか」とか、「君はどんな人になりたいのか」なんて聞くと、ちょっと理性が働いて、きれいごとを言うでしょう。そのきれいごとを全部集めると、マズローの欲求5段階で言う、上のほうの3段階が全部入ってしまうようなことが出てきます。それに基づいて経営理念をつくっていますから、それに基づいて働いているうちに、やりたいことと、使命とがだんだんくっついてくるような感じになっています。

西川 西社長のところは理念を浸透させる前に、まず個人が理念をつくらないと駄目だと思われたのですよね。

西 僕は、会社の創業の精神や経営理念と、個人の思いとか考え方って、おそらく、そんなに大きく変わらないはずだと最初から思っていました。自分の言葉とか、自分のいままでの環境から導いて考えていくと、やはり発揮しやすいじゃないですか。やりやすい。それと、会社の理念とを重ね合わせるというやり方ですね。

西川 ありがとうございます。

大久保 西精工のことが初めての方のために、少し説明させていただきます。日本経営品質賞、おもてなし経営企業選、ホワイト企業大賞とか、いわゆる経営の質とか素晴らしさにおいて評価する賞を、日本で唯一総なめにしている会社なのです。これは数字、データもしっかりしていないと取れないものですが、それだけの会社を創り上げた方です。
この人が三代目です。最初に彼が会社に行ったときは、道具から部品から、全部工場に落ちているような会社だったわけです。いまはもちろん、ものすごくきれいです。そしてモチベーションの高さ。何を申し上げたいか。本人を目の前にして持ち上げ過ぎかもしれないですが、ほとんど奇跡の経営者だと思っています。製造業でそこまでやれた人はほとんどいないだろうなと思います。とんでもない馬力。べつにラグビーをやっていたからということではないと思うのですが、西さんには、ものすごい情熱と人を愛する深さと強さがあります。
でも、さっき申し上げたように、いろいろな知恵も複合的にうまく活用されているのです。だから、職場に行くとびっくりされます。ずいぶんいろいろな人をブロックスの主催のセミナーでお連れしました。工場を見学すると、社員さんは、うれしそうに働いている。うっかりすると、ラインに従事している人が、そこから離れて説明しに来てくれる。うれしそうに話すわけです。そんな会社にしたのです。
少し大げさですが、どっちかと言えば、若干ふてくされ気味で働いている人ばかりだった。だから会社を引き継ぐときに母親から「あんたは可哀想ね」と言われた。「お父さんの会社に行くのね」と。そんなことを自分の息子に対して言ったぐらいの会社だったのです。それをそこまでレベルアップし、全国から経営者が見学に来るところまで持っていったというのは、めったにない経営者ではないかと、僕は思っています。

西 僕は、頑張っている感じはないです。よく「頑張っているな」とか言われますが、それはうちのリーダーもみんな、ないですね。「頑張っていると思っていないよな?」と言うと「思っていません」みたいな感じで返してきます。

大久保 傍から見たらめちゃくちゃ頑張っているんです。逆に、傍から見ると全然頑張っていないのに、「いや、僕はすごい頑張っています」っていうのは最悪のパターンですね。これはよくあるパターンです。それに対して、彼の場合は、確かに何としても頑張っているという感覚はないと思います。だから続くんですね。

西 (頑張っていると)楽しくないですよね。

大久保 楽しくない。おっしゃるとおり。

西 うちの会社がすごいなと思うのは、リーダーがみんなそうなっていること。「僕たち頑張っていないよね」みたいな空気があります。

大久保 頑張っていない、楽しんでいるという感覚なのです。これが一番パワフルなんです。

西川 今日は最初から一貫して「楽しむ」ということですよね。楽しい時が一番能力を発揮すしますよね。


昨日LINEで、社員の知的障害者の女の子が
「社長が出張に行っているから寂しいです」
と送られてきたのですが、それが幸せです。


西川 最後に、どうしても聞きたいことがあるのですが。ネッツトヨタ南国や西精工のような会社がもっと世の中に増えていってもいいはずなのに、なぜ増えていかないのかと考えた時に、やはり仕組みばかりを真似するからではないかと思いました。そうではなく、「幸せって何だろう」とか「豊かな人生を送るために大切なことは何だ」というような、経営者の「幸せ」や「輝く人生」に対する考え方の起点が違うと、いくら手法を真似しても成功しないだろうと思うのです。
そこでお伺いしたいのです。では、幸せな輝く人生を送るために大事だ思われていることは何ですか?西さんにとって幸せな瞬間は何ですか?まずそれからいきたいと思います。

西 僕にとって幸せな瞬間は、例えば昨日LINEで、知的障害者の女の子が「社長が出張に行っているから寂しいです」と送られてきたのですが、それが幸せです。そんなちょっとしたことが、僕は一番幸せですよね。僕は直接、その知的障害者に仕事を教えることはできませんが、その子は一生懸命頑張ったときに「頑張ったね」と社長にハイタッチされるのが一番幸せらしいのです。だから、この何気ないことがものすごく幸せです。

西川 横田さんは「横田さん、何が幸せですか」と聞かれると?

横田 もうずっと幸せですけどね(笑)。瞬間というのはないですね。瞬間うれしい。いま瞬間と言ったけど、瞬間ってだいたい「満足」ですね。うれしいというのには二種類あって。満足はだいたいあまり長続きしないうれしい状態。幸せというのは一度幸せになったら、もうずっと続きますね。そういう感じです。

西川 では、しみじみと幸せだなと感じることは?

横田 何がって、もう生きていること全般ですからね。この歳になっても、まだ社会の役に立っているのかなとか、そんなのが幸せです。

「勝利って何だろうか」と
一人一人が考える機会を持つ。発言する機会を持つ。
そういうプロセスが大事なことだなと思っています。

西川 横田さんにもう一つお伺いしたいのですが「人生の勝利者」というのはどういうことでしょうか。それを理念に掲げているということは、これが幸せのイメージなのかなと思うのですが。

横田 幸せな人生が送れたら、その人は勝利者です。全社員というふうに頭にうたっているのは、要するに「社員同士がお互いに競争するのではないよ」というメッセージが入っているわけです。だから、社員の中での敗者と勝者はいない。どうやって勝利と定義するかということですが、うちの会社では、たまにプロジェクトチームが立ち上がるのです。誰かがリーダーシップをとって、いついつミーティングをやりますと。そこで「人生の勝利ということについて話し合いをします」なんていうポスターを社内へ貼るのです。そうすると、その日のお昼休みに、みんながお弁当を持って会議室へ集まってきて、三、四十人で、それぞれが「自分にとっての勝利とは何だ」というのを発表するのです。そんなことをして「勝利って何だろうか」と一人一人が考える機会を持つ。発言する機会を持つ。そういうプロセスが大事なことだなと思っています。
意見はいろいろあります。「もう一度生まれてきたら、この会社に入りたい」とか、そう思えたら勝利という人もいるし、定年で退職するときに「この会社へ入れて、ここで働けて本当によかった」と思えたら勝利という人もいるし、「変わり続けることができたら勝利」という人もいるし、「多くの人に幸せとか満足を提供できる、そういう自分になれたら幸せ」という人もいるし、もう無数にあります。

西川 そうですね。それで社員はそれぞれ考える。では横田さんの勝利は何ですか。

横田 勝利。そうですね。地方のトヨタの一番小さな販売店を任されたんですね。いくら車をたくさん売っても、都会の大手ディーラーの1拠点か2拠点分ぐらいしか売れないわけですから、そんなことをやってもあまり意味がないですよね。だから、一番目に社員を幸せにする、二番目にお客様さまの幸せ、3番目にビジネスパートナーですから、メーカーに対して、トヨタ自動車に対して貢献するというのが3番目の大切にしたいことだったのです。
最近、トヨタ自動車が私どもの会社を海外に紹介する映像ができたのですが、小さいながら、そういうふうにメーカーに貢献することができたかなというのは、一つの私の勝利です。

西川 これは初めて聞きました。ありがとうございます。
会場には若い人もいらっしゃるのですが、たくさんの若い人を育ててこられた西さんから、こういうことをまず大事にしていく、これが輝く人生を送るための出発点だというのはどんなことですか。

西 「自分の使命は何なのか」ということを考えることですね。使命はみんな違っていい。みんな同じ使命でなくてもいいし、得意技がみんな違っていい。うちの会社の中で言えば、創業の精神の一番目が「人間尊重の精神」なんです。人間尊重とは何かというと、みんな違っていい、みんな得意技が違う、みんな特技とか資質とかが違う。でも、そんな中でも、世の中のお役に立つことはできると思うので、それを考えてやっていけば、「幸せな働き方」は必ず実現できるのではないかと思います。

西川 ありがとうございます。
 大久保さんはいろいろな指導や、気付きの場をつくられてきていて、メッセージをお伝えされたり、いろいろな輝く人を見てこられたと思うのですが、自分の人生を輝かせるために、一番ここを大事にしなきゃと思うことはどんなことでしょうか。

大久保 何ですかね。

西川 大久保さん自身が大切にされていることでも。

大久保 ちょっと質問を変えさせてください。さっき、どういうときに幸せを感じるかとあったじゃないですか。じっと考えていたのです。最近本当に幸せを感じないなと思って。
実はちょっと生意気になるのですが、あなたのおかげで人生が救われましたとうことは、ずいぶん言われています。でも、それは、その人が変わっただけ。私は単にきっかけを提供しただけなので「よかったですね」と言うだけで、実は感動できないのです。あなたが素晴らしかったのですよ。でも、自分がお伝えしていることは間違いではなかったということを教えてくださったのですね、という感覚しかないので。
じっと考えていて、どんなときに自分は喜びを感じるのかなと思うと、今朝、一人で食事をしていると幸せなのですよね。懸念事項がないから。自分で食べられているとか、あと、明日も小倉に行ったり、長崎に行ったり、四六時中転々としているじゃないですか。そのときに、ちょっとした瞬間に、風景の中に、ふわっと自分を溶け込ませるんですよね。それが、何とも言えない幸福感。だから、何々ができたからとか、何々したからというのではなくて、ぼうっとしていると幸せになる、というような感覚ですね。食べられるだけでありがたいとか。歩いているなとかと思って、幸せになっちゃうんです。だって普通に歩けるって大変なことですから。一歩一歩歩いていて、うわー、すごい幸せと思ったり。ということで、目の前に変化した人がいたら「おめでとうございます、よかったですね」というだけで、意外と喜びというのが全然わいてこないな、というようなことを考えていました。

西川 西さんもおっしゃっていましたけど、感謝できる人が幸せだというのもありますものね。


人間性尊重を貫きながら、実績の上がる方法はないのかということを模索してきたのが、ネッツトヨタ南国なんです。

西川 時間が押してきたのですが、どうしても最後にクローズアップしたかったのが、人生が輝く会社づくりに40年前もからトライしてこられた人たちをみていると「これまでの経営」を否定されている感じがします。否定というか「何か違うのではないか」と思っておられる気がします。そこに、どんな軸があったのかと考えると、その軸が「人間性尊重」ではないか。人間だったら何がいいのか、人間だったら何が正しいのかという、そんな軸で経営を考えてこられた。利益や効率よりも、そこを尊重してこられた気がします。
ここから先の経営の軸はこれだと思うのですが、横田さんと西さんに一言ずつ、そのへんを教えていただけますか。

横田 もともと、日本の昔の経営、そういうのがあったのかどうか分からないのですが、昔のやり方、これが「人間性尊重」だったと思うのです。そこへ、西洋の進んだマネジメントが入ってきますよね。そうすると、より良い結果、すなわち業績を上げるために、売上を上げるために、こうしたらいい、ああしたらいいというノウハウがどんどん入ってきますよね。そのノウハウの中に、知識をどんどん分け与えて、それに基づいて、大量生産適応型の人間が効率よく働く。ということは人間がどんどん機械に近づいていっているということです、ある面ね。
マニュアルとか仕組みというのは、全部人間を機械のようにしていく、そういう仕組みですから、そうなっていくと、人間が少しずつ人間らしさを失っていきますよね。人間性尊重ではなくなるわけです。それに対して、人間性尊重を貫きながら、実績の上がる方法はないのかということを模索してきたのが、私たちのネッツトヨタ南国なんです。
理念もこういうふうに掲げていますが、これ、私の頭の中にはずっとあったのですが、文書化はしていなかったのです。会社ができて20年経ったときに、日本経営品質賞へエントリーしたのですが、そのときに「経営理念を書きなさい」ときたので書きました。それがこの理念です。

西川 もともと頭の中にあった。

西 うちも、理念を文書化したのを見た幹部社員の一人が「こうですよね」と言った。リッツカールトンさんも同じなんですよね。クレドというのがありますが、クレドをつくって、それに従ってみんなを動かすのではなくて、みんながやっていることを文章にしたら、クレドができたという、そんな感じです。

西川 ありがとうございました。


僕が目指すところは、僕が新しくつくる会社ではなく、
おじいちゃんが目指した会社をもう一回つくっていくことなんです。

西川 西さんも人間尊重を掲げていらっしゃる。そのへんをお聞かせください。

西 うちの会社は、実はいま96年目で、あと4年で100周年なんです。「100年続く理由って何だろう」と思ったときに、僕も会社をいろいろやってきたけど、結局はおじいちゃんが目指した会社に戻したという感覚なんです。そうしないと100年続かないと。この理念や創業の精神をつくろうと思ったときには、もちろんおじいちゃんはいなくて、長男もいなくて、次男ももう意識がなくなっていて、三男であるうちの親父と合宿をしてつくりました。おじいちゃんが目指した会社とは何かを、親父が元気なときに、きちんとつくっておこうと。
僕が目指すところは、僕が新しくつくる会社ではなく、おじいちゃんが目指した会社をもう一回つくっていくことなんです。そうしないと100年続くわけがない。おそらく僕が20年前、東京から徳島に帰ってきたときは、そのいいところが見えづらくなっていた。でも、きっといい会社なのだろうなと思って、創業の精神を親父と二泊三日、合宿して、おじいちゃんがどんなことを大切にしてきたのかというのを文書化したものがこれなのです。
だから、うちの会社は、昔、こういうことを大切にしてきて続いていった。しかし、ある時期、売上とかいろいろなものが優先されて、こういうものを少しないがしろにしていた時期があった。でも、これをもう一回大切にしないと、永続した成長というのはないだろうと思って、おじいちゃんの思いを文書化した。これをきちんとやっていけば、社員さんが成長し、みんなが幸せを感じられる会社ができるのではないかというところです。

西川 創業者をよく知っているベテラン社員の方にインタビューしたら、本当に社員の人たちの病気だとか家族だとか、いろいろなことを知っている人だった、社員を大切にされる人だったとおっしゃっていました。それを取り戻したということなんですね。

西 そうですね。親父とつくったのですけど、明文化したのは僕です。これができ上がった瞬間にうちの親父が何を言ったかというと、僕を指さして「おまえ、おじいちゃんみたいだな」と言ったんです。その瞬間、僕は「創業者とつながった」と思いました。僕が大学時代に祖父は亡くなっていますから、仕事の話も、こんな話ももちろんしたことはなかったので、つながった瞬間は何とも言えない気持ちになりました。

西川 ありがとうございます。
時間となりましたので、第2部はこれで終了となります。後ほど質疑応答のコーナーで、またご出席いただくことになります。いったんここで終了とさせていただきます。お三方、どうもありがとうございました。皆さん、大きな拍手で。
(終了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?