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我々の地力はイエローデビルである:音楽ゲームにおける地力、あるいは認知資源のメモ

弐寺ことbeatmaniaIIDX、もとい音楽ゲームには「地力」と呼ばれる概念がありまして。要するに「地力が高い」=「音ゲーが上手い」ってことを指しているんですが、この「地力」って具体的になんやねんっていう話について、自分なりの理解をメモしたやつです。

結論はタイトルにもありますが地力はイエローデビルみたいなやつなのでは、という話です。概要を示すとこうです。

・音ゲーしかり、世の中のゲームは大体は認知資源奪い合いゲームである
・認知資源はイエローデビルみたいなやつである
・認知資源を鍛えるときはイエローデビルをどう強くしてるのかを意識する
 ・心構えをする
 ・知識、技術をつける
 ・体力をつける
・自分のイエローデビルと付き合う

では見ていきましょう。


だいたいのゲームが「妨害を耐え抜いて、他人より良いスコアを出すゲーム」である:そして妨害によって削られてるのは我々の「地力=認知資源」である

諸説あると思いますが、ゲームってのは基本的に妨害があって、それを耐えたり避けたり制圧するゲームなわけで、雑に言えばいろんな種類の障害物競走だと言えると思うんです。

この障害物ってのは、ゲーム制作者側が設定した難易度ごとに工夫したものだったり、あるいは他のプレイヤーだったりするんですが。ともかくこれらの障害・妨害を乗り越えた結果やスコアを競い合うこと、これがゲームだとみなすことができる。

「ゲームが強い」というのはこの障害物競走において、「まるで障害物が無いかのように走れる奴」ということだと言えそうです。

アクションゲームであれば、みんながミスするような難関を簡単にクリアする人が上手い。パズルゲームであれば、まるでパズルが無いみたいに高速で解く人が強い。音ゲーでなら、みんながスコアが取れない箇所で簡単に全ピカする人が強い。エトセトラエトセトラ。

じゃあこの、「まるで障害が無いかのようにやれる人」と「障害が無いかのようにはやれない人」の差っていうのは一体何なのか……っていうことを考えたとき、まぁ音ゲー界隈だと「地力」が出てくるんですが、もっと広く捉えるならこれは認知資源の差である、というのがこの記事の大意です。


認知資源はイエローデビルである:一定値までは平気で、閾値を超えるとダメージを喰らう

じゃあ認知資源とは何か。これはもういきなりイメージを記載していきますが、認知資源はあなたの意識が具現化したイエローデビルみたいなやつです。

イエローデビルはロックマンのボスなんですけど、わかりますかね。こういう、まるくて大きなスライムみたいなボスなんですが……

あ、どうも。すいませんもう認知資源のつもりで自己紹介していただいて……!

イエローデビル、ロックマンのボスとしてはかなり可愛い見た目なんですが強敵でもありまして。体がぷよぷよしたスライムなので、通常のバスターだと体がちょっとか凹む程度で、イエローデビルの本体には届かずダメージを与えられないんですね。

こんなかんじ。ぜんぜん平気そうですね。

じゃあどうやればダメージを与えられるかっていうと、イエローデビルのぷよぷよを乗り越えるぐらいに頑張って連射しないといけません。

もうちょい!もうちょい!

おらおらおらおらおらおらおおららららららら!!!

やった~~~!

やりました!!こんな感じでロックバスターだけでイエローデビルにダメージを与えたいならなら、めちゃ頑張って連射しないといけないんですね。

でもまぁ……

アバーーーーーーッ! かわいそう

こんな感じで、ロックバスターじゃない苦手武器で攻撃するとすぐダメージ与えられたりするんですけどね。

さて、認知資源はイエローデビルみたいなやつと言いました。認知資源は、ざっくりですがゲームをしているときの「集中力」と「技術力」そして「体力」を総合したものです。もっともっとざっくり、「余裕」と言い換えてもいいかもしれません。イエローデビルの例えだと、アバーーーーーッってしてるときは妨害に負けている、つまり余裕が無くてミスをしている状態です。

重要なのは、このアバーーーーーッするまでの閾値が人によって異なるし、さらに個人の中でも苦手なバスターは異なるということです。
特に意識したいのは「ロックバスターは受けてるけど、ダメージは受けてないしむしろ余裕」という状態と、「ロックバスター喰らっててダメージは受けてないけど、もうちょっとでダメそう」っていう状態の違いです。この二つはゲームのスコアの上だと同じスコアになるかもしれませんが、地力としては全く異なるわけで、ちゃんと区別して把握したい。この「ミスするまでのグラデーションがある状態」を表現するのにイエローデビルはいいイメージだと思うのです。

ゲームでは結果的にスコアの0と1で区別されているかもしれませんが、「クリア」と「ミス」の間には本来無数の状態があるわけです。それは感覚的で数値化されないものですが、世の中には2フレしかないピカグレの中で速いか遅いかを感覚的に把握している人もいるそうです。スコアはスコアで参考にしつつ、グラデーション的に存在しているはずの感覚を大事にしていただきたい。


お前のイエローデビルは何色だ

さてこのイエローデビル、人によって特性が全然違います。僕のイエローデビルとあなたのイエローデビルを比べたとき、おなじロックバスターでも凹み方は違いますし、弱点武器も違うのです。

Bさんはロックバスターが苦手みたいですね
しかし、シューはBさんの方が耐性がある、みたいな

そしてもちろん、他人と比べてじゃなくても、個人の中のシチュエーションによってもイエローデビルは性質が変わりますよね。

スコア狙いをすると途端に難しく感じたり
体調が悪いとなんか難しく見えたり

……というような性質がイエローデビルにはあるんですが、我々の認知資源もかなり似たような性格をしているのです。


いわゆるトッププレイヤーは、このイエローデビルの核がほとんど露出しません。上で言うような弱点武器に対する対策もしっかり練られているし、異常な量のロックバスターが降り注いできても耐えれるほどスライムの層が厚い。結果としてほとんど目立ったミスが発生しません。だからこそプロ同士の戦いだとちょっとの差が命とりなわけですが……。

なので、こういったイメージを元に「どうやったら自分の中のイエローデビルを守れるか」を考えることで、地力に役立つ知見を得ようみたいな話です。


地力を鍛えるときは、イエローデビルのどこを鍛えてるのかを意識する

さて、じゃあその認知資源イエローデビルを鍛えましょうという話なんですが、さきほどの「精神力と技術と身体能力を掛け合わせた、障害物を耐えるための余裕の総量である」という言い回しを考えると、こんな感じなわけです。

認知資源=精神力×技術×身体能力

ってわけですね。これもう完全に武道に出てくる「心技体」そのままなんで、以降そんな感じに分けて考えてみます。

心:心構えをする

苦手な箇所が来ることだけ知っている、あとは根性

上のイエローデビルを見てわかるように対策は特にありません。
音ゲーのアドバイスで「ここは集中」「気合です」とか見たことあると思いますが、あれ精神論といえばそうですが「いつもより認知資源使ってね」っていう意味合いだと思うとやや腹落ちしやすい。

既にクリアできる簡単な譜面をイメージしてください。リラックスして「この曲はやっぱ良い曲だな~!」と楽しんでプレイしているときと、スコア更新やフルコンを狙っているときとでは、全く同じ譜面なのにプレイ中の疲れ方が全然違うはずです。ミスしているときも同じで、「グギギ……もうちょいでいけそう……!」とプレイしているときのが、全然疲れるはずです。「アリーナ効果」とかもこの部類に入るでしょう。

これは精神的な認知資源を多く使ってるから、人によって集中力・注意力・気合・根性・メンタルなどなど様々な言い回しで表現されますが、まさにこういうときにあなたの「心」は鍛えられているはずです。


技:知識をつける

元も子もないけど

元も子もない対策ですが、かなり強力な対策です。我々のイエローデビルだってただ棒立ちしてるわけじゃないんですから、譜面によっては苦手な箇所に対してしっかり対策しておくことで認知資源を節約することが可能です。

わかりやすい例だと「ギアチェンする箇所を知っておく」とか「難所の譜面を知っておく、予測できるようにしておく」など、いわゆる「座学」です。しかし、座学して何も対策をしないなら先ほどの「心構えをする」と一緒なわけで、座学を元に事前に準備したり対応の練習をするので、もう一段階進んだ対応として「技」になるわけです。

shurikenの一番難しいところ

例えば、こういう譜面が来た時に固定配置だと35トリルを交互に押すことになるんですが、個人的にはもう左手だけでトリルを捌くようにしています。しょうもない工夫かもしれないですが、こういうのも広義では技。もちろんこれは僕にとって楽っていうだけで、人によってはミラーや乱かけた方が楽って人もいるだろうし、僕ももっと地力が付けば必要なくなる工夫かもしれない。その辺りは自分の地力と相談して習得する必要があるでしょう。

ただ、こういう「対策」を行うことよる裏表の弊害として、「癖」があります。継続は力であり努力は嘘を吐きませんが、間違った努力を継続してしまうとそれは「技術」ではなく「癖」となって現れるので注意が必要です。サファリの「テレテレテッテ」を意識し過ぎて、「テレテレテッテ」以外もミスしてしまうような状況は癖がついてると言って良いわけですね。もちろん、正しく習得できた場合のメリットが大きいからこそ癖を付けたり抜いたり頑張るわけですが……。


体:体力をつける

クソデカイエローデビル

もし仮に、今まで説明してきた「心」「技」が十分に準備されているなら、精神的な負担がほぼない余裕をもった状態で打鍵することができるはず。あとは身体が追い付くだけの状態というわけです。この理想的な状態で身体側にかかる負担こそ、あらためて認知資源の「体」にあたります。これこそが真の地力の定義だとする人も居ると思います

音ゲーでいう身体的な資源は、まずは「動くかどうか」、そして「疲れないこと」。この2点に尽きます。具体例を挙げましょう。


テレテレテッテ

七段の関門たるサファリのテレテレテッテ地帯。画像は1P側ですが、この67トリルを押すために「小指×薬指」みたいなピアニストでもない限り普段絶対に使わない指の動きを求められることになります。これは「動くかどうか」の問題で、筋力の問題ではありません。

筋力の問題ではなく神経の問題です。人によっては「指の独立性」みたいな言い方をするかと思いますが、「テレテレテッテ」ってそもそも小指と薬指で「テ」と「レ」を押すのがそもそも難しいんです。速度に関係無く、そもそも小指や薬指を交互に動かすことに慣れてないからテレテレテッテできない人が多いわけですね。同じ速さなら力んでない方がより独立してるし、同じ力み方なら速く動く方が独立してるでしょう。
いきなり完全に独立させるのはまず不可能なので、ゆっくりなテンポで慣らさせるのも一つの手です。具体的には「テレテレテッテ」の練習として「テレテレテッテ」なら動く人は居るでしょうし、それでも怪しいなら「テ レ テ レ テッ テ」で小指と薬指が動くかを確認したほうが良い。それも厳しいなら、まずリズムは忘れて小指で「テ」、そして薬指で「レ」を押す。

個人的なオススメは「S-Bahn」とか「Crank It」みたいな、バスと裏打ちハイハットが12で交互に降ってくるような譜面をミラー譜面でやるとかなり練習になる印象です。あとは小指→薬指の順で動かすときと、薬指→小指の順で動かすときとで、動かしづらさがたぶん違うはず……みたいな癖も把握すると練習の糧になるでしょう。


そして「疲れないこと」、体力の問題があります。これはそのままで、2分間ずっと変わらぬコンディションで押し切れるかどうか、という能力です。「筋トレ譜面」なんて言い方がありますが、筋トレが本当に直接的に影響するとするならばここでしょう。

身体的な疲れが判断力を鈍らせたり打鍵の精度を鈍らせることは間違いないですから、筋トレが「疲れない」以上の好影響を与えることは確かです。端的な例で言うなら「後半いつもダメだったあの箇所、疲れなかったら大したことないんだな」みたいな状況が期待できるわけですね。

なのでここについてはマジで筋トレしろ、になります。音ゲーマー向けの具体的な筋トレ方法については以下のエントリがすべてだと思います。一日5分、海外マッチョニキと一緒にぐーぱーするだけ……と言えば簡単ですが、実際やるとかなりキツイ。

かなりキツイだけあって、それなりに効果は高い。同じ譜面内で持久力が上がることもメリットですが、個人的に長時間やっても疲れないので純粋に練習時間を増やせるということがメリットに思えます。最近は腕よりも先に脚や腰に疲れが来るので、なんやかんや全身の筋トレが必要ですが……。


自分のイエローデビルと付き合う

となぁここまで、音ゲーのなんやかんやを書いてみましたが、じゃあ究極目標は「減らないイエローデビル」なのかっていうとそうではない。イエローデビルの層がどんなに厚くなっても、凹むことは避けられないんですね。そもそも完璧な余裕なんてものはありえない、余裕でやれるゲームなんて面白くないわけですし……

自分のイエローデビルがどんななのかをイメージできると何が嬉しいかというと、良かった時も悪かった時も喜んだり納得したり反省したりする軸の種類が増えるんですよね。一個一個のリザルトに対しての解像度が高くなるというか。
「苦手なBPMのわりには上手かったな」とか「あの皿得意と思ってたのに黄ばんだのなんでだ?」とか「スコア伸びてないけどBP減ってるし拾えてるな?」とか「スコア伸びてないしBPも減ってないけど体感疲れてないな?」とか「ギアチェンは上手くいったけど逆に緊張しちゃったな~!」とか。

まぁゲームなので楽しく続けられたらなんでもいいんですわ。そんな感じで次の弐寺も楽します~。

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