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スズキとヤマダ

スズキは、カメラが趣味のバンドマンだった。
色白で手足が長く、捨てられた仔猫みたいな顔をしていた。

彼の撮る写真が好きで、彼に撮られる写真が好きで。
ちょっとニッチな音楽の趣味も合い、こんな人がいるんだなぁと嬉しかった。

好きになるのに時間はかからなかった。
同棲している彼女がいると知ったのは、寝たあとだった。

「彼女とは別れられない」
「2番目に好きだよ」

などと、のたまうクズだった。
けれど、しばらく関係は続いた。

スズキのことも忘れかけた頃、可愛い女の子と出会った。
全く別のシチュエーションだったが、話して行くうちに気づいた。

どうやら、スズキのことが好きらしい。
そして、私を彼女だと思って近づいてきたようだった。

こんな可愛い子が、どんな思いで此処に来たのだろう。
その場の話は適当に合わせて、彼らのコミュニティとは距離を置いた。

その後、スズキは街を離れ、新しい街で出会った人と結婚し、子どももいるらしいと風の噂で聞いた。

色んなことはもう時効で、眩しささえ覚える思い出になった頃、街角で見覚えのある名前。
スズキがフォトコンテストで賞を取り写真展を開くらしい。

写真、続けていたんだ。

ザワザワした気持ちで、スズキの名前を検索した。
受賞の記事が出てきた、別人だった。

そう言えば、はじめて付き合ったヤマダと同姓同名の人は選挙に出てたっけ。

彩りかけた秋の朝、鮮やかな思い出が風とともに駆け抜けた。

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