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【第44回】初めて自分の部屋を手にした日。

僕には兄弟がいる。しかも実家はマンションだ。

これが何を示すのか。

自分の部屋がないということだ。

もちろん子供部屋はあったけれども幼いころから弟と部屋を共有しプライベート空間はなかった。

ある程度大きくなって小学生になると自分の部屋がほしいと思うようになった。

幼いころ見ていたアニメの登場人物はだいたい自分だけの部屋を持っているし、僕が子供の頃には少子高齢化が始まっていたから一人っ子の友達も多く自分の部屋を持っている友達も多かった。芽生えたのは憧れという感情である。

一人でその部屋で過ごし、一人でその部屋で寝起きする。言わば自分だけの城。ものすごい憧れをもっていたと思う。

親にねだったけれども部屋数の都合でとか、たぶん親心のその他諸々で、それは叶わなかった。

我が家は3LDK。つまりリビング+ダイニングキッチン+3部屋があることになる。

子供部屋となっているのは和室。これで1部屋消える。次に家族4人で寝る寝室。残り1部屋。そして物置。もう僕だけの部屋が生まれることはない。

ねだっただけでなく物置を上手く片付けて、そこで勉強したりして部屋っぽくしたけれども、結局小学生のうちは自分の部屋を手に入れられなかった。

転機は中学2年生の頃に訪れる。

急に父親に「自分の部屋がほしいか?」と問われた。

僕の父は割と思いつきで行動する節がある。あまりにも突然だった記憶がある。ただ僕もそういった、かなり思いつきの行動をするから間違いなく親子だと思う。じゃなかったらエッセイなんて書かないし。

とにかく僕は「欲しい」と即答していた。

詳しくは覚えていないけれども、すぐに物置は解体され、その日の夜か次の日には僕の部屋が誕生していたと思う。

いきなり父親が言い出したのは「中学生になったからそろそろ自室を持ってもいいだろう」という理由らしい。気持ちはわかるけど唐突すぎたし、それにしては中学2年生になってからの話だったから「もっと早くくれよ〜」と思ったような気がするけど純粋に嬉しかった。

それからというもの高校卒業まで僕はその部屋を使った。嬉しくて喜んだ日も悲しくて涙した日も辛くて挫けそうになった日もだ。一人思い悩んだのも、一人暮らしをするために必死で受験勉強をしたのもあの部屋だ。

思い出がいっぱいに詰まっている。決して心地よいとは言えない中学高校時代を過ごしたけれども、今となってはいい思い出だ。

今も帰省すると大学の合格通知が勉強机の上にある。あの頃の残り香がそこにはあるのだ。

え?今でも帰省すると自分の部屋で寝るかだって?

寝ないよ。エアコンないから暑いし寒いし。よくあんな部屋で生活してたよね〜。それに俺がいなくなったせいで物置と化してるし物理的に無理。もう足の踏み場もない。

実家に帰省するたびにリビングに布団を敷いて寝るのだ。寂しさは少しあるけどこればっかりは宿命なのかもしれない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。