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【第48回】明け方バラバラ事件。

それは目を覆いたくなるような悲惨な光景だった。

バラバラになってあちこちに飛び散る肉片。そこから見え隠れする赤い色。原型は明らかにとどめていないのは遠目からもわかった。

この凄惨たる現場を僕が目撃したのは、つい先日の午前4時10分ごろのことだ。

この日は大学の定期試験のために徹夜で勉強をしていた。こういった作業は何故か夜のが捗る。

一段落ついて休憩を取ることにしたのだけれども、ふとお腹が空いていたことに僕は気がついた。そういえば昨日の昼から何も食べていない。

ふと時計を見ると午前4時。明け方と呼ばれる時間帯だ。少し早いけれども朝食にしようと思い立ち、吉野家にいくことにした。吉野家は午前4時から朝食メニューを提供してくれるので非常にありがたい。

いくら季節が夏だといっても、流石に4時では日が昇っていない。街灯もほとんどない暗く細い道を自転車で漕ぎながら吉野家へと向かう。

そんな中、ふと少ない街灯に照らされ闇夜にぽっかりと切り取られた空間に冒頭のような光景が僕の目の前に現れたのだ。

意気揚々と歩みを進めていた自転車のペダルを踏む足が自然と止まってしまう。眼前に広がる様子の意味を理解した時、僕の胸はキュッと締め付けられた。

そう、道路の真ん中で原型を留めていないバラバラになってしまったスイカを発見したのだ。

現状を飲み込めないながらも幼い頃から親に口を酸っぱくして言われていた食べ物を粗末にしてはいけないという言葉を思い出していた。

気がつくと僕はあのバラバラになったスイカの事を考えながら家に帰っていた。もちろん朝食はちゃんと食べた。

ああ、一体誰が何のためにこんなことをしたんだ。もし、このスイカが人間だったのであれば相当恨みを持った奴に、こんな姿にさせられたに違いない。近所にスイカを破壊する狂人がいるのかと思うとゾッとする。

あのむごたらしい光景のわけを飲み込めないながらも、ふと思わず現場の写真を撮ったことを思い出した。

「スイカが死んでいるのに不謹慎だ」と僕は罵られるかもしれない。でも、あのときの僕は写真を撮らずにはいられなかったのだ。これを読むあなたが同じ立場ならきっとそうしていただろう。

僕はこの謎を解明しなければないという使命感に駆られていた。これはあの現場を目撃した人間の義務なのだ。

あの光景をこの目でもう一度見るのは気がひけるけれども、これも真実を暴くためにはしかたがないこと。意を決してスマホに保存された画像ファイルを開いた。

写真を見た瞬間、僕の灰色の脳細胞に衝撃が走った。ピカンときたぜぇーーー!!さすがは写真。「真を写す」と書くだけのことはある。あのときわからなかった状況が写真を介して整理されていたのだ。

さて───。

写真を見る限り、人が投げたことによって地面に叩きつけられたり、自動車が踏み潰したというような感じはない。それならば破片はもっと均等な円状に散らばるはずだ。

考えられるのは写真の手前側から奥に向かって走る車からスイカが落ちたということだろう。もしかしたら軽トラの荷台に積んであったのかもしれない。

スイカなんて球体で不安定なものだから、こういったことは充分にあり得るに違いない。

これは殺西瓜ではない事故なのだ。

正しいかはわからないけれども自分なりの仮説を思いつき、すべての謎が解けたような気がしていた僕は、嬉しすぎてしばらく1人でニヤニヤしていた。後になって振り返るとあくまで憶測の域をすぎないのにも関わらずだ。

この文章の中で分かる唯一の揺るぎない事実は、このとき僕は徹夜明けで完全におかしくなっていたということだ。あのときの思考を振り返ると僕は自分が怖い。

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