時間依存社会モデルver1.0(マクロ編:局所的被差別者への対応)

前項では、大組織が必然的に多様な行動を取りにくくなるという点と、大組織の中には局所的な視点で見れば差別されている小集団が発生しうるという点について述べた。本項では、局所的な視点で見れば差別されている小集団、「局所的被差別者」に大組織が取る対応について述べる。

3.古典的な対応:独裁と宗教

さて、「局所的被差別者」は大組織から見れば非常に厄介な者たちである。彼らは大組織に不満を持ち、長期的に見れば大抵は過剰平等という形で組織を崩壊させる元凶となる。彼らに対する素朴な対応策は、彼ら全員を纏めて教育してしまう事だ。しかしながら、教化には「学習側が拒否権を持つ」という欠点が存在するため、中々上手い教育はできない。

一つ目の、最も素朴な対応策は独裁である。本モデルにおいて、独裁とは「ある個人たる独裁者が組織内の全戦闘に勝利できる状態」と定義される。幾ら学習側が拒否権を持っていようが、「関係ない、やれ」と戦闘を仕掛けて勝利し、強引に教育してしまえばいいのである。独裁者が極めて優秀であれば、「局所的被差別者」は一時的に大きな効用を失うが、大組織全体としてみれば致命的なことにはならず、巨視的なスパンで見れば「局所的被差別者」にも十分な効用が与えられる。

しかし、独裁は独裁者の決定方法に弱点を持っている。特に「次世代の育成よりも個の自由を優先する自由効用係数関数の持ち主が独裁者になった時、組織全体が過剰平等の塊になって高速で崩壊する」というどうしようもない欠陥が存在するのだ。これを防ぐために、選挙を始めとする様々なシステムが発明されたが、各システムに触れていては長くなりすぎるので、ここでは割愛する。

宗教は、独裁の持つ問題をうまく解決した第二の対応策であると言える。本モデルにおいて、宗教とは「架空の独裁者である神が組織内の全戦闘に勝利できる状態」と定義される。宗教の最大の強みは独裁者の絶対性である。なにせ「存在しない相手に戦闘を仕掛けることはできない」のだ。特に、神の下す命令、即ち経典が極めて強靭かつ汎用性が高く作られている場合「経典という人生の教科書に従って生きれば少なくとも大きな失敗は決してしない」という、組織の構成員に対して凄まじいまでの効用を齎すことができる。

勿論宗教にも弱点はある。それが経典の作成に人一倍頭を使う事である。何よりも次世代の育成に大して強い効用を持たせなければ、長期的に見てその宗教とその信者は消滅してしまうことになる。加えて、個人の効用関数が如何なる値でも取りうる以上、「如何なる状態でも効用を増加可能な絶対の真実」等というものはこの現実において存在し得ない。……要するに、宗教の経典というものは、実質的にはライフハックの塊にするしかないのだ。故に、強靭かつ汎用性が高い経典は、必然的に大量の矛盾と例外を含む必要があり、それを時代に合わせて解読する宗教的指導者が必要となるだろう。また、その土地におけるライフハックの塊なので、地理的条件が大幅に異なる環境では機能しない可能性が高いという問題も抱える。

4.現代的な対応:人権とその現状

さて上記の通り、「局所的被差別者」問題を解決する方法として、独裁には「誰を選べばいいのかわからない」、宗教には「効果のある環境が狭い」という問題点がある。

現代社会において、これらの問題点に対する最も有力な回答として、人権という概念が存在する。世界人権宣言では「すべての人間が人間として尊重され、自由であり、平等であり、差別されてはならない」とある。本モデルにおいては、以上の宣言を「ある個人は如何なる相手にも戦闘及び教化を試みる権利を持ち、あらゆる組織は全構成員の平等化を推し進める義務がある」と読み替え、組織の全構成員に一定の独裁能力を付与するものと解釈する。なお、人権は世界人権宣言を神と見なせば宗教の一種である。即ち、世界人権宣言を始めとする様々な人権に関する法規は、本質的に独裁者としての性質を一通り持ちあわせている。

さて、この概念の共有は極めて強力である。なにせ構成員自体が「局所的被差別者」問題を勝手に調整して解決してくれるのだ。「局所的被差別者」が過剰平等を引き起こす可能性は極めて低くなるし、どんどん付け足していけばライフハックとしての能力も担保できる。

しかし、人権も万能ではない。人権の持つ一つ目の致命的な弱点は、「次世代の育成に大して強い効用を持たせられない」点である。人権はあくまで個人のやり取りによって「局所的被差別者」が発生しないようにするものであり、その解決策は根本的にミクロ的である。故に、マクロな視点で見た時にのみクリティカルな効用を持つ、次世代の育成は得てして後回しになってしまう。現在の人権は、本質的に独裁者の持つ欠点である「次世代の育成よりも個の自由を優先する自由効用係数関数の持ち主が独裁者になった時、組織全体が過剰平等の塊になって高速で崩壊する」に対して回答できていないのである。

この影響は全ての国家に平等に存在するが、特に人が死にやすい極めて過酷な地理的条件の国家において、過剰平等の影響が高速で発揮される。具体的には、人権思想と地理的条件の影響により「次世代の育成を個の自由より優先する自由効用係数関数の持ち主」以外が尽く淘汰されてしまうのだ。だが、通常の宗教とは異なり、それでも人権思想という経典は崩壊しない。「ある個人は如何なる相手にも戦闘及び教化を試みる権利を持ち、あらゆる組織は全構成員の平等化を推し進める義務がある」という人権の核は何一つ問題を起こしていないからだ。彼らが淘汰されたのは単に間違ったライフハック、つまり次世代を生産しないことを選択したからに過ぎない。正しいライフハックを選べば全く問題はない。そしてこれが全世界に発生し、それぞれの国家が過剰平等に対応し、間違ったライフハックは消滅する。これが現在の人権の持つ二つ目の致命的な弱点、「巨視的な視点で見ると、個の自由を優先する自由効用係数関数の持ち主は局所的被差別者になるどころか、個の自由それ自体によって消滅してしまう」である。物理的に消滅させられる(善意による不可視化と強制戦闘)か、そもそも居なかったことにされる(善意による正しい宗教の教育)かは国家の地理的条件と過剰平等に対する対応によるだろう。少なくともこの点において世界最先端を走るロシアは、現在両方の対応を行っているようだ。

今後の人権思想は、如何にして「次世代を生産することに強い効用を持たせるか」に大きな課題が残っていると言える。とはいえ、移民のように「余っているところから持ってくる」では、持ってきた人間が正しいライフハックを選択する、つまり古い宗教をそのまま流用されることによって、前述の理由により個の自由は存在しなくなる。平等の名を借りた強引な宗教化のような極めて古典的な対応を除けば、機械化による大組織の改善以外の回答はおそらく存在しないだろう。AIや人工子宮の開発が待たれるところである。

(或いは、私が思いつきもしないようなウルトラC的な解決法があるのかもしれないが…)

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ねーぴあ

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社会のモデル化を試みた物その1
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