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プラセボ

ここ数日、体調がすぐれず、病院で検査した結「コロナ陽性」と診断された。まさか自分に来るとは~

そんなことですので、思考もまとまらないので、過去の記事にあった「プラセボ」薬で、筆記つなぎとしました。


プラセボ(偽薬)なぜ効果? 知って服用でも症状改善例
ナショナル ジオグラフィック 2022年7月18日 5:00

臨床試験で渡されるプラセボ(偽薬)には、薬としての有効成分が何も含まれていないはずなのに、それを服用した被験者に症状の改善が見られることがある。これは、「プラセボ効果」と呼ばれる現象だ。プラセボ効果を得るには、それがプラセボであることを被験者に知らせないことが重要であると考えられてきた。
ところがここ数十年の間に、最初から被験者にプラセボであることを知らせるオープンラベル(非盲検試験)の有効性を検証する研究が複数実施され、多くの場合症状が緩和したという結果が出ている。

米マサチューセッツ州に住むベティ・ダーキンさん(73歳)は、自宅で転倒して首の骨を折り、頚椎を損傷し、ひどい痛みに悩まされていた。しかし、依存性のある強い鎮痛剤を使うことには抵抗があったので、入院先の病院でオープンラベルという治験があると聞き、参加することにした。彼女の受け取った薬瓶には、「オープンラベル・プラセボ」と明記されていた。

ダーキンさんは、最初の3日間、カルダモンという香辛料の香りを嗅いでからプラセボを飲み、その後強力な鎮痛剤であるオピオイドを服用した。目的は、プラセボを服用するという経験を、オピオイドによる鎮痛効果と関連付けるよう脳を訓練することだった。4日目、それまでと同じように香辛料の香りを嗅いでプラセボを服用したが、オピオイドは服用しなかった。鎮痛剤が必要であればいつでもリクエストできると言われたが、その必要はなかった。

「まさか、本当に効くとは思いませんでした。有効成分が入っていない偽物の薬だって知ってましたから。でもなぜか、私の脳は違いがわからなかったようです」と、ダーキンさんは語る。

これまでのところ、どの治験も小規模なものばかりだが、結果は少しずつ積み上がっている。2021年2月16日付で学術誌「Scientific Reports」に発表された総説論文は、計800人近い被験者が参加した13の治験を評価し、オープンラベル・プラセボが優れた有効性を示しているという結論に達した。どんな分野でも初期の研究は有効性を示す発表が多いと、論文の著者は注意を促しているものの、予想外の結果に多くの専門家が関心を寄せている。

ただの錠剤ではない

昔から、医師は時に応じて有効成分の入っていない治療法を利用してきたが、プラセボを使った臨床試験が本格的に始まったのは、1960年代に入ってからだ。

従来の臨床試験では、被験者は本物の薬を受け取るのか、それともプラセボを受け取るのかを知らされない。治験データを評価する科学者にも知らされないため、結果を直接比較することができて、偏見の入り込む余地が少ないとされている。

ところが、プラセボと知らずにそれを受けた被験者も症状が緩和したという例が相次ぎ、これがやがてプラセボ効果として知られるようになる。2005年6月に学術誌「Neuroimmunomodulation」に掲載された総説論文は、患者が有効な薬を受け取っているかもしれないと信じるだけでも、脳は鎮痛と気分を向上させる効果で知られるエンドルフィンなどの化学物質を分泌し、治癒を促す可能性があるとしている。

しかし、その効果が本物かどうかについては懐疑的な意見もあり、プラセボ群で改善が見られたのは、症状の変動や不安定な疾患の性質、または被験者の期待に応えたいという思いなどが影響しているだけではないかと指摘されている。

いずれにしても、プラセボは長いこと治験にとって必要な要素と考えられてきた。しかし、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのテッド・カプチャク氏は、研究者として駆け出しの頃、通常の臨床試験で被験者にプラセボであることを明かさないというやり方に抵抗を感じていた。

「プラセボには、不誠実な部分があります」と、カプチャク氏は言う。そこで2010年に初めて、オープンラベル・プラセボという概念を試してみることにした。「同僚は全員、ナンセンスだと言いました。けれど、人をだますというプラセボの負のイメージを払拭したかったのです」

カプチャク氏と研究仲間は、過敏性腸症候群の患者80人を対象に、無作為化臨床試験を実施した。被験者のうち半分にはプラセボのカプセル2錠を1日2回処方し、残りの半分には治療を施さなかった。プラセボ群には、カプセルに有効成分は入っていないことと、プラセボが自己治癒のプロセスを引き起こすという治験結果があることを説明した。

すると3週間後、プラセボ群は対照群と比較して症状が大幅に改善したという結果が出された。2010年12月22日付で学術誌「PLOS ONE」に発表されたこの研究をきっかけに、オープンラベル・プラセボに関するさらなる研究が始まる。

ダーキンさんが参加した治験の責任医師であるレオン・モラレス・ケザーダ氏は、オープンラベル治験ではプラセボの潜在的利点について患者にしっかり説明することが重要であると話す。「私たちは最初から被験者に対して、渡す薬がプラセボであることを伝え、それでも痛みが和らいでオピオイドの使用を減らせる可能性があると説明しています」

被験者は初めは驚き、疑う人も多いという。「信じられないという反応を示されますが、同時に興味も抱いてくれます」

脳の力

2018年4月2日付で医学誌「International Review of Neurobiology」に掲載された論文によると、従来のプラセボは痛みと治癒に関係する神経伝達物質をしばしば活性化させるという。オープンラベル・プラセボでも同じことが起こっているのは間違いないと、米エール大学医学部精神医学部長のジョン・クリスタル氏は言う。なお、同氏は今回の研究には参加していない。

それを処方するのが医師である点も重要だ。「プラセボそのものではなく、薬を処方するという儀式が重要なのです」と、カプチャク氏は指摘する。

しかし、オープンラベル・プラセボは従来のプラセボとは違う形で効いている可能性がある。最近わかってきたことは、特に疼痛患者の場合、脳が痛みを悪化させ、本来なら無視されるべき体の感覚を増幅させているらしいということだ。患者によっては、プラセボは有効な薬かもしれないと言われるよりも、生理学的効果がない薬を飲むよう指示されることのほうが、どういうわけか脳の痛みのシグナルを中断させるようだと、カプチャク氏は2018年に医学誌「British Medical Journal」に書いている。

「確実に効くとは言いません」。だがその不確実性が、痛みを増幅させる脳の機能を低下させるのに重要な役割を担っているようだという。

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プラセボを処方?

これらの研究に関わった医師たちは、まだ臨床の場にプラセボを取り入れることはしていないが、実はこっそりとこれを処方している医師は多い。2008年に「British Medical Journal」に掲載された記事によると、米国立衛生研究所が700人近い内科医とリウマチ専門医を対象に行ったアンケートで、半数以上の医師が、プラセボ効果だけのためにビタミン剤や市販の鎮痛剤、その他の薬をしばしば患者にそうと告げずに処方していると回答した。

ロサンゼルス在住のIT起業家ロナルド・ウィリアムズさん(37歳)も、最近そのような処方を受けた患者の一人だ。2021年11月、腰痛で整形外科を受診すると、仕事用の椅子を買い替え、首の運動をするよう医師から勧められた。しかし、ウィリアムズさんが痛み止めを処方してほしいとしきりに訴えると、医師はついに折れて処方箋を書いた。医師に勧められたことをすべて実行し、痛み止めも服用した結果、1週間で痛みがなくなった。「魔法の薬のおかげです」と医師に礼を言うと、そこで初めて薬はプラセボだったと告げられた。

真実を知ってウィリアムズさんは感心したというが、全ての患者が同じような反応を示すわけではない。米ジョンズ・ホプキンス大学の生命倫理学者アン・バーンヒル氏は、たとえプラセボであることを隠した方が症状の改善につながると思われたとしても、医師には患者をだましてはならないという倫理的責任があると指摘する。また、一時的に症状が改善しても、のちに患者が自分で調べて真実を知れば、医師との関係にひびが入る恐れもある。

「人の心は、体の回復においてきわめて重要な役割を担います」と、クリスタル氏は言う。医師と患者との信頼関係は「私たちの社会でも最も特別で最も独特な関係」であり、従来のプラセボもオープンラベル・プラセボも、それなくしては成り立たないだろう。

文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=ルーバー荒井ハンナ
(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年7月1日公開)


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