『万引きの顛末』

 勉強が出来ることは、なにもいいことばかりではない。

 私はたまたま成績が良かったため、超進学校に通っている。中学までとは違い格段に勉強が難しい。ついていくのに必死だ。

 厳しい学校で、学年で成績が悪い順に5人は落第してしまう。そのプレッシャーとも日々闘っている。

 日々のストレスのため、ほんの出来心で万引きをしてしまった。そんなことしなくても十分なお小遣いをもらっているのに、なぜか手が伸びていた。小さい頃からその種の悪事に手を染めたことはなかっただけに、自分でもわけが分からなかった。

 だが、罪悪感と同時に何とも言えない達成感があった。バレたらやばいというスリルにゾクゾクした。やがてストレスが溜まってくると、万引きをするようになっていた。盗む物は少額の、お店の経営に影響しないであろう物にしていた。

 毎回盗むときのスリル、やってしまった少しの後悔、そんなことの繰り返しだった。

 気づくと仲間が出来ていた。彼女-美弥も成績不振で、私の犯行現場を目撃していた。バラされるかと思いきや、自分もやりたいと言い出してきた。

 中間テストの結果が悪かった日、またやってしまった。何度かやったことのある個人商店で私はボールペンを、美弥は日記帳を鞄にそっと入れた。
 
 だが、お店を出たところで店主に呼び止められた。万引きがあっけなくばれて、事務所に連れていかれた。

「最近万引きが多くて、監視カメラをセットしたんだがね。お前さんたち、何回うちの店でやったの?」
「今日が初めてです…。」
「嘘をつくな!何度も来ているだろう?初めて見る顔じゃないし、あんたらが来る度に商品がなくなっているのは把握していたんだよ。」
「……。」
「さて、これを警察に言うか、学校に言うかだなぁ。」
「それは…止めて下さい…言われたら退学になってしまうかもしれません…。何でもしますから許して下さい!」
「なんでもする…?」
「お願いです!」
 二人で懇願した。
「こんなに可愛い女の子にそこまで言われると、おじさんは弱いなぁ…。今なんでもするって言ったよね?」

 まさか体で払えということだろうか。初体験はまだなのにそれは辛い。でも退学することに比べたら…悪いのは私だし…。

「じゃあこれからある事をしてもらおうか。まずはこっちの子だね。」そう言って美弥を見た。ビクッとなる美弥。
「そこの椅子に座って。制服は脱いで。」
「あの…やっぱり…か、体で払うのですか…?」
「その顔だと初体験はまだなのだろう?」
コクリと頷く。
「さすがに傷物にはしたくない。初めては好きな人としたいだろう?そんなことはしないさ。ただ邪魔になるから上着を脱いでもらうだけだよ。」
 
 邪魔になるから?一体何をされるのだろう。
 
 店主はは工具箱を持ってきた。ケープを出し美弥にかける。
「あの、これって…?」
「お分かりかな?髪を切るんだよ。」
「ええっ!?」
「さっき何でもするって言ったよね?でも体で払うのは嫌だと言われたら、その髪をいただくことにするよ。」
「そんな…なんでそんなことを…私髪なんて切りたくない…」美弥は泣きそうだ。私も顔が強張る。
「悪いことをした代償だよ。もう二度と万引きなんかしないよう、体に覚えこませるのさ。それには大切な髪を切るのが一番。鏡を見る度に後悔するだろう?」
「そんな…髪を切るなんて嫌…。」
「それとも警察に通報するかい?」
「…」
「むしろ髪ぐらいで済むんだから感謝されるべきだよ。髪と退学とどっちがいいの?」
「……分かりました…でも私ショートだし、これ以上…どう切るのですか…?」
「それはじっとしていれば分かるさ。」

 そして店主はハサミを取り、美弥のショートの髪に入れた。ビクッとなるが、構わずバサバサと切っていく。耳を全部出し、首筋もすっきりさせる。やがてベリーショートにされた美弥は、男の子のようになっていた。

「短い…こんなの嫌…」
「まだこんなに切る髪があるな。」

 そう言って、あろうことかバリカンを取り出した。目を丸くする美弥。

「バリカン…そんな物で…どうするのですか?」
「まあいいから。」
 
 バリカンにスイッチを入れ、美弥を下に向かせる。襟足にバリカンを入れる。あっという間に髪が刈られた。
「キャー!!」
「刈り上げにしたことはあるかい?」
「あります…。」
「じゃあバリカンは経験済みなんだな。」その間も次々に刈り上げていく。

 襟足に入ったバリカンは、頭の上に進む。頭の半分まで髪の毛がなくなっている。やがて短く刈られた美弥は、後頭部の半分までの髪がなかった。こんなの刈り上げじゃない…美弥の顔はもう涙でぐしゃぐしゃだ。
「ほら、こんなに短くなったよ。」そう言って美弥の刈られた頭に触れる。
「やだ…もうやめて…。」
「いいねぇその顔。もっとやりたくなっちゃったな。」
 そう言い終わらないうちに、店主は美弥の前に立つ。左手で頭を抑え、今度は前髪にバリカンを入れた。あっと思ったら一瞬で前髪が刈られた。
「やだやだ!坊主だけは嫌!!」
「もう遅いよ。ここで止めたら変な髪型になっちゃうよ。大人しく坊主にさせなさい。」
 
 坊主…そんな…嘘よね…私は目の前で起きていることが信じられなかった。しかし次々にバリカンが入る。可愛かったショートヘアが次々に刈られていき、やがて丸坊主になった…。

 美弥の変貌にショックを受けたが、ふと気づいた。私もああされてしまう!この長い髪を丸坊主に…そんな恐ろしいこと、絶対に避けたい。膝がガクガク震えている…。

 美弥が泣きながら戻ってきた。私に抱きつき声を上げて泣いた。私はただ美弥を抱きしめるしかかなった-。

「さ、次はそちらのお嬢さんだ。早く座って!」
「嫌です…。」
「お友達がこんなになったのに、君だけ逃げるの?それはないだろう?それとも体で払うかい?」

 確かにそうだ。私だけ逃げるわけにはいかない。でもこの椅子に座れば私も坊主にされてしまう。そんなの嫌だ。せっかくここまで伸ばしたのにこんなことで切るなんて嫌だ。しかもバリカンで刈られるなんて耐えられない。

 腕を引っ張られ、強引に座らされケープをかけられる。
「艶のある見事なポニーテールだね。これから切っちゃうのがもったいないぐらいだ。」
 
 何か言おうとしたが、怖くて言葉が出てこない。
「さてどうやって切ろうかな…やっぱりポニーテールのままいくか。」
 そう言って、ポニーテールをぐいと掴む。痛い。ぐっと堪える。結び目にハサミを入れる。ジョキジョキと音がするが、なかなか切れない。すると店主はバリカンに持ち替えて切り始めた。バリカンの鈍い音が響き、やがて軽やかな音に変わる。
 
 ポニーテールが切られた。その瞬間、心も切り取られた。
「ほら、こんなに切れたよ。」
 今しがた切ったばかりの髪束を膝の上に置かれた。私の髪が…ショックで目の前が真っ白になった。

 これから私も坊主にされる…涙が溢れて来そうになった。しかしここで泣いては負けだと思い、逆に店主を力いっぱい睨みつけた。それぐらいしか出来なかったから。
「なんだいその目は。生意気だね。まだ自分の置かれている立場が分かっていないようだね。よし、少しおしおきしてやるか。」

 店主は電気バリカンを置き、見たことのない銀色の器具を手にした。
「これは手バリカンと言ってね。こうして手で動かしてじわじわと髪を刈っていくものなんだ。私を怖い顔で睨んだ罰として、これで丸坊主にしていくから。その可愛い顔がどんな風になるのか、じっくり見させてもらうよ。」

 こんな物で私の髪が…痛かったらどうしよう…怖いよ…ふいに椅子から立ち上がると、平手打ちをされた。
「手間をかけるんじゃない!大人しく坊主になりなさい!!」

 たまらず涙が出てきた。櫛で丁寧に髪を梳かされる。
「いいねぇ、さすがは女子高生だ。すごく艶があってサラサラしている。なんかもったいないけど…こんな髪を刈るのが楽しいんだな。」

 大切な髪をこんな男に触られるのは、不快でしかなかった。でも耐えるしかない。

 目の前で手バリカンを見せつけてくる。鋭い刃が動く。怖い。こんな物で今から丸坊主にされる…信じたくない。痛そうだし丸坊主なんて絶対に嫌だ。だか逃げることは許されない…。

 そしてとうとう手バリカンが前髪に入ってきた-。

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