2019年は「ライター」を手放そうと思う

「最初からフリーランスでライターを目指すのは、厳しいと思うよ?」

渋谷の薄暗いマンションの一室で、机の向こうから投げつけられた一言に、言葉を失った。
精一杯の笑顔で志望動機なんかを語っていた私の顔は、おそらく引きつっていただろう。

去年の4月頃だっただろうか。
ライターを志し、会社を辞めたばかりのころ。とあるメディアのライター募集(業務委託)に応募したところ、まずはお話を、ということでオフィスに呼び出されたのだった。

まだ仕事なんてひとつも決まっていない時。
ライターは未経験です、フリーランスでやっていこうと思っています、と話す私に対して放たれた一言が、それだった。

社会人を10年ほどやってきて、転職もしたことはあるが、何の仕事のあてもなく会社を辞めたのは今回が初めてだった。
不安でいっぱいだったし、フリーランスとしてどう仕事を取っていけばいいのか、ライターになるにはどうすればいいのか、何もかもがわからなかった。

そんな状態の中、不安をかき消すように面談ではポジティブなことばかり話していた。その私の様子を見て、もしかしたら「甘さ」があると感じたのかもしれない。
ライターはそんなに甘くないよ、簡単になれるもんじゃないよ……というのを教えてあげよう、と思って、冒頭の一言を言ったのかもしれない。

でも、不安でぐらぐらと揺らいでいた私の心に、その一言はキツすぎた。
ショックでそのあとの会話はあまり覚えていない。何とか理由をつけてその場を立ち去り、結局そのメディアで書くことはなかった。

言葉はしばらく心に刺さったままで、うまくいかないことがあるたびに、胸に刺さった言葉が「ほら、だから言ったでしょう?」とグリグリ動いて存在感を示してくる。その度に心はえぐられて、言われた瞬間の痛みがまたぶり返す。そんな時期がしばらく続いた。

それから9ヶ月ほど。
私は、「ライター」になった。

今になってみると、あの言葉の意味は、少しはわかる。
「ライター」という肩書きの人はWebにわんさかいるが、「ちゃんと書けるライター」はそう多くない。

ハサミを使える人がみんな、美容師ばりに人の髪をきれいに切ることができるわけじゃない。それと同じで、日本語を使える人がみんな、ちゃんとした文章を書けるとは限らない。ライターは専門職だから、適切なやり方でスキルをみがいていく必要がある。

文章の上達は、まずは量をこなすこと。英会話やスポーツと同じだ。正しい文法やフォームを覚えるだけじゃうまくはならなくて、練習量を積み重ねていく必要がある。
加えて、適切なフィードバックを受けることができたらなおいい。
これはいい編集者さんにめぐり会えるかどうかに左右されるかと思う。

冒頭の一言を放った人は、書いた文章を見てもらえる人がいる環境で書かないと上達しないから、どこか企業なり編プロなりに所属したほうが、というようなことを言っていた。

フリーランスだと、文章を書いて納品して終わり……なことが多いので(企業側からしたら、社員ではない外部ライターを育てる義理はないからだろう)、適切なフィードバックを得にくいから、まるっきり未経験の状態からフリーランスでライターを目指すのはしんどいんじゃない? という意味だったのかなと、今になってみて思う。

フリーランスとして仕事をしていく中で、ありがたいことに、フィードバックをいただけるメディアで執筆ができたおかげもあり、文章はかなり上達した。

最初はがっつり赤入れされていた原稿も、最近はそこまで大幅な修正をされることはなく、書いたものがほぼそのまま掲載されることが多くなってきた。「ちゃんと書けるライター」枠に、片足くらいは引っ掛けられているんじゃないかなぁと、僭越ながら思っている。

すり減る貯金に怯え、仕事がない日々にストレスを感じ、仕事が増えたら増えたでプレッシャーを感じて胃痛で寝られない日が続いたりと、心安い日々ではなかったものの、なんとか「ライター」になれた。

そろそろ次に行くために、「ライター」を手放そうと思う。

書くことを辞めるわけじゃない。
自分の中で「書きたいもの」を明確にして、そこにより近いものを書いていくために、不要なものを手放していく、という意味だ。

「どんな状態であれば、ライターになったと言えるんだろうか?」
ライターになろうと思ったときに、真っ先に考えたことだ。

なりたい自分の姿を想像してみて、「自分の名前が文末に載っている記事が、名の知れたメディアでコンスタントに掲載されている状態」かなと思ったので、そこに目標を置いた。

その目標は、達成できたと思う。しかも、予想していたよりも早く。
運に助けられた部分がかなり大きい。そして、人にも恵まれた。

そろそろ次の目標を考えてもいいかな、と思ったときに、「私は、何を書いていきたいんだろう?」と改めて自分に問いかけた。

これは、ライターになる前からずっと考えていたことだが、実際に書かないことには見えてこない。
文章の世界に飛び込み、必死に波を掻いて泳ぎを進める中で、「これは心地いいな」と思うもの、そんなに力を入れなくてもするりと進める方向、書きたいものの形、などがぼんやりと捉えられるようになってきた。

より書きたいものを書くために。
自分で定義した「ライター」には、固執しない。

昨年末から、少しずつ準備を進めてはいる。
うまくいくかどうかわからないけど、ライターになってからの9ヶ月間で「不安定」なことへの耐性はかなりできたので、うまくいかなかったらすぐにやめて別の手を打つまでだ。

苦労して手に入れたものでも、あっさり手放せるくらいの身軽さが、いまの私には心地良い。

まだまだ「抱え込むクセ」が抜け切らないので、「手放す」ことを意識しながら、毎日を過ごしていければと思っている。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

48

中村 英里

エッセイまとめ

エッセイをまとめました
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。