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「作りたいもの」と「お金になる仕事」が一致しないとき

「これは『アルバムの中で一曲自由に作っていいよ』って言われて作った曲なんですけど……」

車の中で聞いていたラジオから流れてきたその言葉が、耳に残った。

番組のパーソナリティーは女性アーティスト。番組の最後に名前を言っていたのでネットで調べてみたら、アニメの主題歌を多く手がけているシンガーソングライターの方だった。

「一曲自由に作っていいよ」ってことは、そのほかの曲はある程度オーダーに沿って作っているということだろう。音楽業界には詳しくないのでどの程度の制限があるのかはわからない。でも、プロとしてメジャーデビューをしている人でも、自分の思うように好き勝手に作れるわけではないんだな、と思った。

作詞作曲して、その曲でメジャーデビューして……って、デビューを夢見て曲作りをしている子たちからしたら「夢を叶えた」ように見えるし、実際叶えたとも言える。でも仕事にする場合、「作りたいもの」と「求められるもの」が一致しなくて、そのギャップに苦しむことも、きっとあるのだろう。

「お金をもらうってことは、自由を奪われるということだから」と言われたことがある。たとえば会社員であれば、毎月お給料としてお金を得る代わりに、自由な時間を手放す。曲を提供する先からお金をもらう代わりに、オーダーを踏まえた曲作りをする。原稿料をもらって、媒体のカラーに沿った文章を書く。

お金がもらえることが約束されている=お金を出す人のニーズを満たす必要がある、ということ。誰の何の意図も含まれていない、本当の意味で自分が作りたい作品を作るなら、お金をもらわないで好き勝手作ったほうがいい。「好き勝手作った作品」に値段がつくことはある。それは結果論にすぎなくて、作る時点では何の保障もない。

「自分が作りたいもの」と「お金になる仕事」が一致して、それだけで食うに困らないくらい稼げるってなかなかハードルが高いよね、と最近思う。ハードルが高いからといって諦めているわけではないけど、けっこうな長期戦にはなると思う。

「お金になる仕事」の比率を増やしすぎると、「自分が作りたいもの」にさける時間が少なくなる。時間だけの問題じゃない。想像力をフル回転させて書くようなものは「そのモード」に入る必要があって、「お金になる仕事」、いわゆるライスワーク(生きるための仕事)で頭がいっぱいになると、モードに入れないのだ。アイデアが浮かばなかったり、筆がなめらかに進まなかったり。かと言って、「自分が作りたいもの」にフルコミットするのは少ししんどくて。タスクリストをつぶして、スケジュールどおりに遂行していくような仕事が気分転換になっている部分もある。ちょうどいいバランスを見つけたくて、模索中。

大事なのはお金じゃないわ、と言って「自分が作りたいもの」を純粋に追求するほうが姿勢としては美しいようにも思えるのだけど、実際生きていくにはお金が必要だし。アンディウォーホルだって、たしか初期の頃は絵が売れなくて、広告のイラストとか書いてたんじゃなかったっけ。ポップアートの巨匠を引き合いに出すのはだいぶおこがましいけど、「自分が作りたいもの」に心置きなく打ち込むために、自分のスキルを活かして「お金になる仕事」をするのもアリなんじゃないの。

琴線に触れるような、クオリティがめちゃくちゃ高いものを作って、「この人の作品だから」とあえて選ばれるようなレベルに達したらきっと、「どうぞ自由に何でも作ってください!」と言ってもらえるんだろうな。うーん、まだまだ精進せねば。

「本日もお聞きいただきありがとうございました!」と番組が終わったので、いつかアルバムの全曲を自由に作らせてもらえるようになったらいいね……と思いながら、ラジオのチャンネルを変えた。

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中村 英里

浅草出身のフリーライター。街歩き記事やインタビュー、エッセイを執筆|イラスト、写真、読書、純喫茶めぐりが好き|おさんぽWebマガジン「てくてくレトロ」運営→https://tekutekuretro.life |Web Site→https://2erire7.com/

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