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4.6 コンビーフの日・北極の日

「俺さー」
「ん?」
ソファでゴロゴロしながらポテトチップスを齧るという、人の部屋で怠惰極まりない休日の午後を過ごしている幼馴染が唐突に言った。
まあ、大体こいつの言うことはいつだって唐突でしかない。
「俺、北極にひとつだけ持って行けるとしたらコンビーフ持ってくわ」
「はあ?なんで」
「だってさー、美味いしー、そのまま食べれるしー、カロリーあるしー、肉だしさ、マヨネーズめっちゃかけたやつ、あれすごい美味い。俺ずっと食えるもん」
俺はゲームの画面から目を離さずに、それでも幼馴染の突拍子も無い話にとりあえずきちんとツッコミを入れてやった。なんて優しいんだ、俺。
「いや待てし。それじゃコンビーフとマヨネーズで二つじゃん」
「え?調味料もワンカウントなの?厳しいー!」
「知らねえよ!お前の世界観の話だろうが。しかも何?お前そんなコンビーフ好きだったとか知らなかったんだけど」
ゲームをしていた手を止めて幼馴染の方を見たが、奴の方は視線がテレビに釘付けで心ここにあらずという感じだ。
「んー、なんか最近ね。好きみたいよ。やたら買っちゃうもん」
「金ないくせに無駄遣いしてんじゃねーよ。ってあー!もう!ポテチこぼれてるしバカ!」
俺が慌てて手を出したところで虚しく、奴の手から落ちたポテチのカケラはパラパラと毛足の長いあったか絨毯に散った。
反射的にソファに寝そべる幼馴染にげんこつを食らわす。
「痛って!もー、暴力反対!」
「おまえが何回言ってもソファに寝ながらポテチ食うからだろうが!起きろ!そして謝りながら掃除機をかけろ!」
「いいじゃんそんな怒らなくてもー。最後にまとめて掃除機かけるよ。どうせ俺まだこぼしちゃうし」
「バカやろうか。それが部屋主に対して堂々と言うセリフか!時間が経つと油がどんどん染みてくんだよっ」
俺が耳を引っ張ると、幼馴染は涙目で抵抗したが、ソファから起き上がる事はなかった。
どれだけ俺のソファが好きなんだこいつは。怠けることに頑なである。
仕方なく俺は俺の掃除機で幼馴染がこぼした芋のかけらを吸い上げる。
悔しかったのでついでに幼馴染のスネ毛も強モードで吸ってやったら、痛がっていたのでいい気味だと思った。
「次こぼしたら二度とこの部屋入れないからな。そして夜な夜なお前の部屋に砕いたわさビーフをばら撒く」
「陰険!俺の部屋なんて足の踏み場もないの知ってるくせに!」
それも胸を張って言うことじゃないと思いつつ、もうこいつにはまともな日本語は通じないことは長い付き合いで分かっているので、深追いはやめることにした。
「ねえねえ。でさ、お前は?」
「は?」
「北極にひとつだけ持ってくとしたら、お前何持ってく?」
呑気な顔でポテトチップスを齧る幼馴染のバカらしい質問に、俺はその質問を考えること自体が思い切り面倒であることを全力で顔に出しながら言った。
「お前とコンビーフとマヨネーズじゃないことだけは確かだよ」
笑ってんじゃねえよ。ウケるポイント作ってないわ。
俺は奴を喜ばせてしまったことによる謎の疲労感にがっくりと肩を落として、またゲームの世界へと旅立つことにした。
結局こうやって毎日一緒にいるのは、俺もこの怠惰で無意味な時間に多少の心地よさを感じているからに他ならないので、もう全てを諦めるしかない。
「はぁ…俺は俺のことも信用出来なくなりそうだよ」
「えー?俺はお前のこと信用してるぞ!だから自信持て!」
な?じゃないよ、うるさいな。口からポテチのカケラ飛ばしながら喋るんじゃない。
幼馴染の鼻歌に集中力を阻害されながらも、俺は意地でゲームを続けてやった。
もし北極にひとつだけ持って行けるとしたら、現実逃避のためにゲームを持って行こう。
でも、電池が切れたら終わりだから結局ゲームと発電機。俺も二個じゃねえかと思ったら、やっぱりこいつの幼馴染なんだなとまたしても深く自分にがっかりしてしまったのだった。

4.6 コンビーフの日、北極の日
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