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7.15 中元

心はいつも先ばかりを見ていた。
希望が推進力で、心はいつだって、どこへだって跳ねていくことが出来る。

魂は軽いので、世界中のありとあらゆる所に行きたがったし、いつでも先を目指していた。

体はいつも心に憧れて、その憧れに引っ張られるように着いていった。
夢を持つことは良いことだと信じていたし、何より心の事が好きなので、望むことは何だって叶えてやりたいと思っていた。

心が身の程知らずな願いを持つたびに、体はその負荷を受けた。

それでも心への憧れは麻薬のようで、楽しさや喜びを示されると、あっという間に無理をしている事を忘れた。

心はどこへでも行きたがった。
その代わり体は、笑顔のままでこの三次元で痛みや苦しみに耐えていた。

暑さや、寒さや、高すぎる湿度や、ウイルスや、怪我や、そんな全てを体は一身に背負っていた。

そのために、心が好きな事に夢中になって寝るのも忘れて熱中していたら、ある日ついに体がバラバラに壊れてしまった。

体は心が大好きだったし、才能の無い足手まといだと思われたくないばかりに、その機能を過剰に使い過ぎてしまった。

体はバラバラになるまで、心にそのことを内緒にしていた。
もしくは、体自身もそれに気づかないフリをしていた。

心は体が動かなくなってしまったことを嘆いた。もっと早く気づいてやれば良かったと泣いた。

心が遠くへ行くには、体が無くては困るのだ。

それでようやく今現在に立ち止まった心は、体にたくさんの休養を与えることにした。

今まで体が心にしてくれたように、体が喜ぶことを最優先にし始めた。

しばらく時間はかかったが、体の形が戻ってきた頃だ。
まだつぎはぎの痛むはずの体は、心と一緒に跳ねたがった。

体の望みは、心がいつでも楽しそうにしているのをサポートすることだと笑って言った。
痛くても辛くても、三次元にいることが体としての唯一の役割で、心の役割はどこまでも跳んでいくことなのだと胸を張った。

唇を噛んで、心はまた走り出した。
その代わり毎年必ず年二回同じ時期に、ちょうど分かりやすいようお歳暮とお中元を体に贈ると決めた。
その時期だけは、たっぷりと休養を与えて、何よりも体を大切にすると誓った。

前と同じ走り方は出来ないけれど、体は迷いなく笑顔で、心が導く方へと強く地面を蹴って再スタートを切ったのだった。



7.15 中元
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